念力
















「お前、何やってるんだ?」
「念力送ってる」
「・・・念力?」
「そう。念力」
 また訳の分からないことが始まった。坂井は溜息を付いた。
 この前はハンドパワーだった。その前は幸福の光。その前は・・・なんだか忘れた。
 とにかくどこで拾ってくるのか、良く分からないネタに下村はご執心だ。
 ベットに横たわる坂井の横にもぐりこんで、その手を坂井の額に翳している。その顔は真剣そのものだ。
「で?」
「何?」
 話しかけようとして頭を動かすと、下村はあからさまにいやそうな顔をした。どうやら動いてはいけなかったらしい。仕
方なく元の体勢に戻って目を瞑ると、下村が満足そうにして手を直接額に当ててきた。
「何の念力を送ってるんだ?」
 頭はそのままに、精一杯腕だけ伸ばして下村の素肌の腰を引き寄せる。巻き込んで傍まで引き寄せると、落ち着い
た体温が腕の中に納まった。そのままゆっくりと腕を巡らせ、肩をなぞり、耳の辺りの髪を弄んだ。額に押し付けられた
手のせいで表情は分からなかったが、ふざけた様子が無いので多分真剣な表情で居るのだろう。坂井は思わず噴出
しそうになるのを堪えて穏やかな吐息を吐いた。
「眠れるように」
「え?」
「お前が、よく眠れるように」
 あんまり、よく眠れて無いみたいだから。
 そう言って、下村は暖かな手の平を押し付けて、目の辺りを温めた。
「・・・念力届いたよ」
「嘘つけ」
「本当だって」
 額にあった手を取ってくちづける。漸く見えた下村の顔は憮然としていた。
 坂井が嘘を言っていると思って、怒っているのだ。
「本当に、届いたよ」
 引き寄せて、額にくちづける。互いの体温が毛布の隙間で柔らかな温度を造って心地よい。
「お前の念力、届いたよ」
「・・・そうかよ」
「そうだよ」
 お前の気持ち、届いたよ。

 

















不思議っ子シモム。