「お、俺は今、大変な事に気が付いた」 「何が」 わなわなと、サンジは何故か自分の両手を見つめている。 何か特別なものでもあるのかと、ゾロは座り込んだサンジの後ろから覗いてみたが、そこにあるのは手相ぐらいのも ので、特にこれといって見ものも無い。 それではいつもの、ちょっとハズれた頭の悪さの表れかと思ってゾロはさっさと風呂に入る準備を始めた。 「おい!俺が悩んでるのに、放置かよ!」 途端にサンジが過敏に反応するので、それがどうにも面倒くさい。 しかし放っておけば、それはそれでまた面倒になるのだからとゾロは溜息を吐いた。 「だから、何が」 根気強く聞き返してやる。 サンジは両手を開いてゾロの眼前に掲げて見せた。 「ここを見ろ。小指のつけ根」 「?」 余りに近すぎてよく見えない。掴んで程よく遠ざけながら、ゾロは無言で言われた通りにじっとサンジの手を見た。 何も無い。 「ばっか、よく見ろよ!」 無言の疑問を嗅ぎ取ったサンジが、益々押し付けるように見せようとするので、辟易しながら見直してみる。 しかしサンジは確かに小指の付け根辺りをもう片方で指差すのだが、どう見たってそこにあるのは 「しわ!手相!結婚線!」 「・・・はぁ?」 「だから、結婚線!見ろよ!無いんだよ、俺!」 ゾロは心底思った。 こいつは本物だ。本物のアホだ。 呆れてものも言えないゾロをどう思ったのか、サンジはエライ勢いで言い募った。 「なんでだ?俺は結婚できねーて事なのか??なあ、ゾロ。どう思う?」 どう見てもサンジは真剣だった。ふざけた仕種の一つも無い。からかっているのかとも思ったが、いくらゾロとてサンジ の本気を見抜けない訳も無い。 サンジは本気で、結婚線がない事を心配をしているのだ。 「ああ、どうしよう俺。結婚できないって。これ、どうすれば生えてくると思う?なあゾロ?」 ここまで真剣にアホな事を言われると、返って怖い。逆らったらヤバい気さえして来る。 流石にちょっとサンジが心配になりつつ、ゾロはごくりと唾を飲み込んだ。 「しなけりゃ、いいんじゃねえの?」 「え?」 「だから、結婚。しなくても別にいいんじゃねえの?」 取りえず、無難な意見を言ってみる。 サンジはきょとんとしたように目を瞠った。 「・・・でも、お前は結婚線あるんだぞ?」 「は?」 「それじゃ計算が合わねぇじゃん」 「計算って・・・?」 今度は訳の分からないことを言い出して、ゾロは益々困惑して少しサンジから後退る。 何か良くない事を言われる予感に、冷やりと背筋が震えた。 「だから、お前は俺と結婚するのに、俺がなくてお前にあったら、おかしいだろ?」 おかしいのはお前だ。断じてお前だ。 しかし言ったところで、本当に不思議そうな顔をしている目の前の男に通じる望みは皆無に近かった。 サンジは結構、こういう馬鹿な事に拘りそう。 ゾロは神さえ信じぬ身の上なので。 (でも、夜口笛を吹くと蛇が出る、とかは信じてそう) |