月がとっても青いから、遠回りして帰ろう。 「お前が月に誘われて遠回りなんかしたら、一生船には帰りつけねぇな」 「うるせえ」 吐き捨てるようにゾロは忌々しげに顔を顰めた。 それを横目で見ながら、それでも繋いだ手を離そうとはしないゾロにちょっとだけサンジは微笑む。 「なんだよ」 それを鋭く見咎めて、ゾロが剣呑な表情を向けてくるのに、それでもその手は繋がれたままだから、それがどうにもち ぐはぐで、愛しくて堪らない。 サンジはまた笑いそうになって口元を引き締めた。 「だからさ、あんたは俺の傍を離れるなよな」 そう言って、ちゅっと音の出るキスを頬に送る。流石にゾロもそれには驚いて眉を顰めた。 「おい、誰かに見られたら・・・」 「見られるわけないだろーが」 ゾロからの反論は無い。当然だ。 周りは前人未到のジャングルなのだから。 例によって例の如く、過大なる裏打ちの無い自信によって鬱蒼とした森の奥地に刻々と迷い込んだゾロを、サンジは 迎えに出た。 今はその帰り道だ。 この状態では船に一生帰れないと揶揄られても反論の仕様もないし、ましては当然の叱責だ。 黙ってしまったゾロを横目に、サンジはやれやれとちょっとだけ肩を竦め、自然と目元が和らぐのに気付かないままぎ ゅっとゾロの手を握った。 「だから、俺の傍から、離れないでよね・・・」 不機嫌そうに半歩前を歩いていたゾロが、こちらを振り返る。 少し怒ったようなその顔が、振り返った途端に困ったように眉が下がった。 「・・・どうだかな」 そう言って、でもぎゅっとゾロは手を握った。そうしてやんわり笑うので、サンジはまたどうにもたまらない気持ちになっ て、誤魔化すようにゾロの肩に自分の肩を摺り寄せた。 「そんじゃぁよ、月が綺麗で遠回りしたくなったら、しょうがねぇから、お前も連れてってやるよ」 「ちぇっ。ついでかよ」 「文句でも?」 「いーえ、とんでもございません!」 やけになったように言いながら、それでも嬉しそうに笑うサンジに、花が咲いたように鮮やかにゾロは笑った。 「鳴いたカラスが、もう笑ってやがる」 「うっるせぇ!泣いてねぇ!」 「いてっ」 がんっと脛の辺りを横から蹴って、蹴り返して、でも笑って、二人はゆっくりと帰り道を急いだ。 月がとっても青いから、二人一緒に遠回りして帰ろう? 月夜に遠回りしたくなる時って、ありますよね? 月夜のデートもなかなかラブでヨシ。 |