dance with me again . ⅲ サンジはもう、言葉など投げ捨てて、ゾロを引き寄せ抱きしめた。 絡め合った指を何度も確かめるように擦り合わせ、包み込んだ肩を撫で、背中を抱く。黙ったままの唇にそっと触れ、確かめるように耳元に頬をす り寄せた。 酒場にいる時から、ずっとサンジは思っていた。本当は離したくなどなかった。ずっと手を繋いで、目を見合わせ、言葉の一つも逃したくなかった。 それでもそれをどうにか抑えていたのは、ゾロに嫌われたくなかったからだ。 サンジはこの五年間、ゾロを想わない日などなかった。朝起きて朝日を見れば、ゾロはもう起きているのだろうかと思い、料理をすればちゃんと食 事をしているのだろうかと心配になった。港に入ればゾロの面影を求め、よもや敵船の中には居はすまいと思いながら目を走らせた。サンジにとっ て、ゾロと会うことのできなかった五年間は、そんな五年間だった。想う度にゾロへの気持ちは重さをまし、胸の中に溶けない雪となってシンシンと 冷たく降り積もった。そうしてゾロを思えばその後に来る喪失感は余計に酷く、心の真ん中をいっそ強く凍らせなければ生きてはいけなかった。 そのようにしてサンジの中にある想いの多くは、行き場を失ったまま原型を留めて胸の内に止まっている。そのすべてを或いは見せていしまって もいいものだろうかとサンジはずっと困惑していた。その中のいくつかは決してきれいなものばかりではない。どす黒いような心の暗部を映し取って しまったものもある。サンジがもし全開でゾロを求めようとすれば、上辺だけでなくそういった汚く浅ましい部分さえもゾロに見せてしまう事になるの だ。その時ゾロがはたしてどう思うかをサンジは想像し、そうして恐れた。卑しい独占欲は度を越してゾロを戒めはしないか。縛りつけてゾロを呆れ させるのではないか。思い始めれば恐ろしく、結局サンジはその心の多くを抑えたままゾロを船まで送り届けた。再会を喜び合う仲間達から一歩 離れて見守った。そいつは俺のだと叫びたい言葉は飲み込んだ。何年経ってもちっとも成長できない自分に吐き気がした。自分ばかりがずっとゾ ロを想っていたから。 でも、ゾロは言ってくれた。 ずっと好きだといってくれた。 そしてこうして何度でも確かめさせてくれる。 独りよがりでないという事を。 目の前に広げられた、奇跡の海のお話で。 サンジはどっと胸の中で凍えていた、心の雪が溶けるのが分かった。途端に涙が目から零れる。まるで蟠ったすべてが涙となって流れるように。 何度瞬いてもぎゅっと目を瞑って、後から後から涙は溢れた。止め処ない流れは頬を辿り顎を伝ってゾロのシャツの肩を湿らせた。 「また泣いてんのか？」 ぎゅうっと背中を抱きしめるゾロの腕が暖かかった。咎める言葉はやさしく響いてどうしようもない。これ以上誤解させないでくれと思わず懇願しそ うになって、しかし震える喉は上手く言葉を紡げなかった。ゾロの手は何度か背中を撫でてから頭に移って髪を梳いた。サンジはただゾロの体にし がみついて、せめて嗚咽は堪えてむせび泣いた。 ゾロ ゾロ ゾロ やっとお前に、届いたよ。 お前に話したいことは、山ほどある。くだらないことばっかりで、お前は笑うかもしれないけれど、呆れないで聞いてくれよな。 陽気で愉快な海賊たちの、五年分の物語をさ。 お付き合いありがとうございました。 またいつかこのシリーズで続きが書けたら嬉しいです。 次はぜひ！ウソップを出したいです。 |