声の指先





















 むっつりとした顔で下村が診療所のドアを開けたのは、丁度正午を指した頃合いだった。
 桜内は一週間前と変わらないランチのメニューを無言で口の中に放り込みながら、真昼間の珍客に目を瞠り、しかし
すぐに目元を歪めて笑って見せた。
「まだ寝床の中かと思ってたぜ」
 無造作に口元を布巾で拭いながら揶揄すると、下村は不機嫌そうに眉を顰めてそのセリフをやり過ごした。だがさな
がら不愉快といった眉間の皺も一時で消え、今度は幾分困惑気に眉を顰めて診療用の寝台に腰掛けた。
「どうした?」
 夜分遅くの訪問であれば常と同じで大差ないが、しかし日差しの中をわざわざこの場へ出向くのは珍しい。定期検診
もとうの昔に終えた今では、下村にとって桜内の診療所は精々酒飲みの宿か雨宿りの軒先の扱いだ。すると下村は無
言でポケットの中から丸型のプラスチック容器を取り出して、桜内の机の上に放り出した。何故か煮豆のサラダが入っ
ている。桜内はじっとそれを眺め、意図を測りかねて下村を振り向くと、喰え、と言うように顎をしゃくっている。日頃から
あんたは野菜を食べものだと知っているのかと、呆れ半分にからかわれている事を思い出し、どうやらわざわざ行きつ
けの総菜屋で唯一桜内が口に運ぶ野菜の類を買ってきたのだと合点がいった。
 これはいったいどうした風の吹き回しだ、神の気まぐれかと桜内は何事か下村が答える言葉を待った。
 しかしとうの下村は、むっつりとした目線を忙しなく左右に動かすばかりで言葉はない。桜内は訝って下村の顔を覗き
込んだ。
「どうした」
 まさか宅配を気取ってわざわざ来たわけもあるまいに。
 下村はどうにも外されない桜内の視線に観念したように頭を振り、大げさに息を吐いた。
 そうして真っ白な手袋を纏った左の指先を、ちょん、と自分の喉下に突きつけた。
「・・・のど?」
 コクリと下村が頷く、そうしてあーと口を開いて声を出す真似をしてみせた。が、声は出ていない。
 どうやら声が出ないようだった。
「なんだ?ハンバーグ食わせろ?」
 分かっているくせに惚けた事を言うに桜内に憤慨し、下村は立ち上がって左手の手袋を脱いで桜内に投げつけた。
「なんだ?決闘か?」
 お前は貴族か、と口元を歪めてあからさまに吹きだしそうな顔をする桜内に、下村はますます憤慨してばたばたと手
振りで何事か告げてくる。
 普段の様子より、そんな手振りの方がよっぽど雄弁な下村に桜内は今度こそ笑ってしまい、真っ向から下村の不評
を買いながら、しかしいつもの気安さでまあまあ、と手を振った。
「そう怒るなよ。せっかくの昼休みなんだぜ?ちょっとは楽しませろよ」
 目元に浮かんだ水滴を白衣の裾でぞんざいに拭うのに少し嫌な顔をして、下村は仕方がないと言った様子で再び寝
台に腰掛けた。
「・・・声が出ないのか?」
 コクリと下村が頷く。桜内はやれやれと肩を竦めた。
 未練深げに片手に握っていたままだったフォークを皿の上に投げ出し、端に避けていてたワゴンを引き寄せ、使い捨
ての木べらの袋を破る。下村を丸イスに移るように促して立ち上がった。
「口開けな」
 素直にあーと口を開ける下村の無防備な様子に先ほど収めた笑いがまた再燃しそうになり、桜内は堪えるためにま
た腹筋を酷使しなければならなかった。
「あーあ、こりゃ炎症起こしてるな・・・。熱はないのか?」
 ポイッとダスターに木べらを放り込み、ゴン、と目の前の額に額を打ち付けると、うわっという顔で下村がのけぞる。そ
れが可笑しくてわざと額を擦りつけると、ぎゅうっと髪を引っ張られた。
「痛たた・・・。お前、それが医者に対する態度か」
 腰に手を当てて怒ったポーズを取れば、ふふんと下村が口先で吹き出した。先ほどの禍根があるのか、馬鹿にする
態度を隠さない。
 なんて遠慮のないやつだと思いながら、桜内は体温計を白衣のポケットから取り出し、ハンバーグを口に押し込みな
がら下村に押し付けた。
「一応、計っとけよ」
 しかし下村はぐいっと桜内の手ごと押し返し、無言で拒否を示した。熱はない、と声にならない声で言う。
「診療所に来たら、医者に逆らうなよ」
 押し返す手を避けて、下村の眼前に突きつけながら茶をすすりこんだ。下村はそれに渋面で返したが、今度は黙って
受け取った。
「いい子だ」
 ますます渋みの増す、下村の表情を笑いながら時計を見る。昼休みは後半時ほど残っていた。
「声が出なけりゃ、商売上がったりだな」
 下村の生業は客商売だ。その上接客ときている。無言で客を店に通すわけには行かないだろう。そう思っての発言だ
ったのだが、下村は不満そうに鼻を鳴らした。
「おいおい、幾らなんでも無理だろう。胡乱な笑顔だけじゃ、客も引くぜ」
 一夜を無言で通すフロアマネージャー。想像では中々面白いが、実際にいたら迷惑極まりない。重ねてこの男は自分
の見た目に酷く無頓着だ。無機質な表情や底冷えする目を覆い隠すための、あまたの言葉がなくていったいどうするつ
もりなのだ。
 しかしとうのマネージャー殿は今にもブーイングを上げそうに口元を幼く尖らせ、こちらを睨んでいる。まったく変わっ
た男だと思いながら、桜内は下村の持ち込んだプラスチック容器の蓋を開け、フォークを差し込んだ。
「坂井に連絡取れるのか?」
 コロコロと忙しなくフォークを滑る豆を拾い集め、口へ入れてもぐもぐと咀嚼する。少し甘めのドレッシングは中々美味
かった。
 下村は桜内の仕種を見ながら少し考えるように天井を眺め、迷うように何度か左手で膝を叩いてリズムを取った。何
時の間にか癖になったらしいその動作を横目に見ながら、多分今の下村に坂井を捕まえるのは難しいだろうと思った。
 日中何もすることがないと常々言いながら、しかし実際のところ坂井は何かと忙しい。
 私用社用を取り混ぜ、坂井の元には何かと雑多な厄介ごとが持ち込まれることが多く、日中の大半はそれを飲み下
すのに費やした。
 それでも下村がこの街に居つくようになってからは幾分疎遠になっていたようだが、こうして下村が目の前にいる以上
坂井の手は空いているという事だ。そうして坂井の周りに張り付いている連中は、そのタイミングを見逃さない。坂井が
一人で居るなら放っては置かないだろう。そうなると自宅に行っても坂井は捕まらない。電話を使えば簡単に居所は確
認できるが、今の下村にはその唯一絶対の有効手段が使えないのだ。
「・・・連絡しておくか?」
 下村には無理でも、桜内であれば簡単に決着はつく。豆のお礼と助け舟を出してやれば、迷いながらも下村は大人し
く頷いた。
「いつもそうしてれば、可愛いのになぁ」
 デスクに体ごと向き直り、電話の受話器を取り上げながらの独り言はしっかり下村に拾われてしまったらしい。
 紳士の作法で改めて投げつけられた決闘の申し込みを後頭部に受けながら、桜内はダイヤルを幾つかプッシュし
て、哀れで愉快な猛獣使いを捕まえるべく電話をかけた。













 締め切った室内に耳鳴りのような音を認めて音の在り処を確かめようと視線を巡らすと、真っ黒な画面のまま電源が
入っているテレビに行き当たった。どうやらビデオだけ電源を切って、テレビの方まで気が回らなかったらしい。坂井は
ソファの下に転がっているリモコンを取り上げ、電源をぷちんと切った。そうすれば自然とこちらの気配が濃くなり、同時
にソファの上で寝苦しそうに縮こまって眠っている下村の気配も強くなる。それを上から見下ろしながら、坂井は溜息を
ついた。
 桜内から下村が店を休むという連絡が入ったと聞いたのは、夕方近くになってからだった。用件が立て込んで連絡の
取れなくなっていた坂井の元に、昼には確定していた予定が漸く入ってきたのだ。どうやら体調を崩しているらしいと聞
き、本当なら店へ出る前に様子を確かめておきたかった坂井だったが、如何せん時間が時間でどうにも融通がきかな
い。下村が休むというのなら余計に外せない坂井は仕方なくそのまま出社した。伝言では下村は電話口に出られない
が、そう酷い事もないので心配は無用であるとのことだったがそうもいかない。電話に出られないのに大した事ないと
はいったいどういうことなのか。第一桜内が電話をしてくるとは。そう思えばグラスを磨く手も鈍る。愛想笑いもそこそこ
に、わき目も振らずに店を出て、ビールケースに脛をぶつけながら漸く裏口を出た坂井は、大急ぎで下村の家へと直行
したのだった。

 しかし気をもんで実際来てみればこの有様。

 どう見ても電話口に出られないような理由の見当たらない下村の寝姿に、溜息の漏れないはずもなかった。
「おい・・・起きろよ」
 背中を蹴って揺すると左側を下にして、背もたれに顔を押しつけて寝ている下村が身じろいだ。これは存外眠りが浅
いらしい。いったん眠ると執念深く目を覚まさない常を思えばこれは格段に反応のいい状態だった。
「下村」
 腰を屈めて顔を覗き込もうと背もたれに手をかけた。しかし右肩を掴んで強引にこちらを向かせようとしたところで、
思わぬ迎撃を受けて坂井はギクリと手を止めた。
「な、なんだよ。起きてるなら返事しろよ」
 下村がこちらをじっと見上げていた。右肩に乗せていた腕のやり場に何となく困って引っ込める。中途半端に浮かせ
た手は、宙を彷徨い所在無く体の横へ落とされた。下村は暫くそんな坂井の様子を観察するように眺め、ダルそうに体
を起してばふっとソファへ体重を預けた。それは無言のままの動作とあいまって随分と疲弊を感じさせ、坂井はちょっと
焦って膝を折り、下から見上げるようにその目を覗き込んだ。
「具合悪いのか?やっぱり」
 下村を挟み込むようにソファに両手を付く。下村はその言葉に少し目を細め、返事の代わりに溜息を漏らした。
「だったらこんなところで寝るなよ。余計に悪くなる。飯は喰ったのか?」
 体を起して下村の隣へ滑るように腰掛けた。そのまま腕を回して腰を抱く。下村はけだるそうにもう一度息を漏らし、
緩慢に首を左右に振った。
「じゃあ、なんか喰って・・・。ドクに薬とか貰ったのか?」
 それにも首を横に振る。流石に何も言わない下村を訝って、坂井は眉を寄せた。
「おい・・・大丈夫か?」
 額に手を当てると心持熱い。電灯の乗った頬はほんのり赤かった。
「お前熱あるぞ?」
 そう言えば下村はキョロリと辺りを見回し、それが何かを探すような動作で坂井は不思議に思ってその横顔を見た。
視線はまだ何かを探している。どうも意思の疎通が上手く行っていないような気がして坂井は眉を顰めた。
「おい・・・?下村?」
 しかし下村は返事もせずに視線を巡らせ、漸く視線が定まったと思ったらそれと同時に立ち上がっていた。
 具合が悪いからだと言えば道理だが、下村の気まぐれと上の空はいつもの事だ。返事一つ返そうとしない下村に無
視をされているようでいい気分ではなかったが、そうは言ってもそこをうっかり追求して、大分昔に手に入れた合鍵を返
せと言われれば元もこもない。坂井は黙って部屋の隅っこに置かれている床の上の電話の横で、ごそごそと蹲った下
村を黙って見ていた。
「?なに」
 むくりと体を浮かせて下村がこちらに顔を向けたのと、何かを突然こちらに投げつけたのは殆ど同時だった。咄嗟の
事でそれを上手に受け取れず、それは手に弾かれてガサリとソファに散った。
 メモ帳だ。
「あ、お前。店から勝手に持ち出したな」
 メモ帳の縁に店名が刻印されているのに気づいて呟いた。備品を持ち出すなという社員に対する至上命令は、上手
に無視されているらしい。坂井も元々どうでもいいので黙ってメモを取り上げ、一番最初のページを繰った。細いボール
ペンで短い文が書かれている。

『声出ない』

 声が出ない?

 顔を上げると、下村は居心地悪そうに壁にもたれてモジモジしている。どういう事?と言うとメモを寄越せと言うように
手を伸ばしてきた。

『朝起きたら声が出なかった。桜内さんには診てもらった。店休んで悪い』

 下村はしゃがみ込んで何故か坂井の膝の上でサラサラと書いている。それを逆さまに書かれる端から読んでいると、
ふっと顔を上げた下村と目が合った。
「風邪か?」

『たぶん?』

「なんだ、そのクエスチョンは」

『理由がない』

 目前で頭を上げたり下げたりと忙しく下村がペンを動かしている。メモを支える左手は、珍しく何もついていなかった。
 どこででも容赦なく眠りこける男に理由がないとはいい難い気がしたが、確かに簡単に風邪を引くようにも見えない。
坂井は遠まわしに罵りながら、本心ではほっと胸を撫で下ろしていた。
 そうかそれで桜内が電話をしてきたのだな、と何となく近い位置にいる下村を意識しないようにしながら考える。
 本当はなんで自分に一番に連絡しないのだと言いたいところだったが、坂井は朝から出ていたからどちらにしろ連絡
はつけられなかったろう。第一具合が悪いときに医者に行くのはごく自然な事だ。
 無用な事を言って下村に勘ぐられたらたまらない。もし桜内に嫉妬しているなどと知られれば、呆れられて鼻で笑わ
れるのが関の山だ。
 坂井は一つ溜息を漏らし、膝の上に乗せられた下村の腕を退けさせた。
「とりあえず飯喰って、解熱剤飲んで寝ちまえよ」
 立ち上がって台所へ行こうとした坂井をぼんやりと見上げていた下村が慌てて首を横に振った。急いで手元で言葉を
綴る。

『くわない。いたい』

「あ・・・そっか。ってお前、今日一日なんも喰ってねぇのか?」
 下村は当然の如く頷いた。そうして紙の上の「いたい」のところを指差す。坂井はまた溜息を吐かなければならなかっ
た。
「まあ一日くらい喰わなくても、たいしたことないだろうけど・・・粥もダメか?」
 くいっと下村が首を傾げる。分からない、という事らしく、そういところは普段より余程反応がいい。坂井は何となく気
恥ずかしくて頬をかいた。
「一応作るから、喰えそうなら喰ってから薬飲めよ」
 言い置いて今度こそ台所へ入る。下村が後からついてきて、台所の入り口で突っ立ったままこちらを見ていた。
「なに?」
 手を洗いながら振り返ると、今度は壁にメモを押しつけて何か書いている。どうも普段より反応がいいのは気のせい
ではないらしい。いつもなら何も答えずにぷいっと行ってしまうところだ。

『ねぎだめ』

「・・・分かってるよ」
 トントン、と紙面を真剣な顔で指す下村に投げやりに返しながら、坂井はかあっと熱くなる頬を見られないように慌てて
正面に向き直った。小刻みに肩が揺れる。今にも吹きだしそうな口元を必死に噛み締めて堪えた。

 ねぎだめ

 まるで子供の言い分だ。普段なら何とか喰わせようと隠して入れる小さな切れ端を、目ざとく見つけて黙って避けて食
べるくせに、こんな時だけ素直になるのはいったいどういう事なのだろう。少しは残す事に罪悪感でも抱いていたのだろ
うか?どちらにしろ弄する言葉がない分、ストレートに下村がものを言っているのは確かだった。
 恥かしいやら可笑しいやらで吹きだしそうな気持ちを誤魔化すために、坂井は忙しなく冷蔵庫を開け、鍋に水を入れ
てコンロにかける。後ろの気配はそこまでで途絶え、ようやく居間に戻ったようだ。
 まいったなあ、と顔を覆ると頬がぽかぽかと暖かかった。
 しかしいきなり肩を叩かれ、坂井は飛び上がって驚いた。振り返ると、下村が気まずそうにこちらを見ている。
「な、なんだ?どうした」
 何となく後ろめたくて早口になる。下村は暫く俯いて手元のメモ帳を何度か開いたり閉じたりしながら目を瞬き、大きく
息を吐いてからようやく顔を上げてメモを坂井の目の前にかざして見せた。

















「お前なんか話してても分かり難いのに、話が出来ないんじゃ余計に訳分からんだろうなぁ」
 隣で呟かれた言葉に、下村が不思議そうな顔をする。如何にも他人事の表情に、桜内は顔を顰めて笑ってやった。
「お前の事だぜ」
 不思議顔が心外顔に変わる。それをふふんと鼻で笑ってから、桜内は煙草に火をつけた。
「洒落た言葉で遠回りも楽しいもんだが、そういつもだと不安になるんじゃないか」
 ふいっと窓を開けて煙を逃す。忽ち引きちぎられて煙は後ろに消えていった。運転をしている身ではそうそうこちらの
様子を窺っていられない下村がちらりとこちらに視線を寄越す。普段から余計な言葉はたくさん話すのに、肝心な事は
逃してばかりの口元が悔しそうだ。一方的に言いくるめられるのが納得いかないらしい。いつもその唇に弄される事を
思えば、今日くらいは黙っていろと言いたくなる。
「余計なお世話と言いたいんだろう」
 ジロリと睨まれて肩を竦める。しかし一番最初に厄介ごとを持ち込んできたのは自分であると自覚があるらしい下村
は、そのまま溜息を漏らしただけで、左手は飛んでこなかった。
「だからさ、普段は言わない事もちょっと紙に書いて見せるとか。直接より手紙の方が素直になれるとか良く言うだろう」
 どうかな、というように下村が口元で笑った。その表情を読み取れる事に自分で驚きながら、桜内は大きく煙を吸い込
んだ。
「・・・素直じゃないねぇ」
 ふんっとわざとらしく鼻を鳴らして下村が笑う。それに苦笑して前を見ると、丁度信号が赤に変わる所だった。信号の
向こうには、目的地の看板が見える。
「あーここらでもういいや。そんじゃぁ、坂井によろしく」
 これ伝言な。そう言って、こちらを向いた下村に素早くくちづける。下村はあっけにとられた顔をし、ついでものすごい
形相で左手を振り上げた。
「坂井にちゃんと伝えろよ!」
 それより早く助手席から退避しながら扉を閉める。ガラスの向こうでバランスを崩した下村がシートに顔をぶつけてい
た。
「あっはっは。ばーか」
 頬を歪めて笑ってやれば、真っ赤な顔で下村が悔しそうに唇を擦っていた。目元が厳しくつり上がっている。あれは怒
っているというより、本当は恥かしく仕方がないのだ。
「本当に素直じゃないね、お前は」
 読唇されないように背を向けながら、桜内は小さく呟いた。




















『しんぱいしてくれてありがとうあえてうれしい』






























 終







文字は口がスベっていけない、いけない。