目を閉じて 息を止めて 小鳩が端から啄ばむ小さな種を投げ、またそれを慌てて追う姿を眺め、朝方より幾分晴れた空を仰いだ。 半円を描いて風に乗り、山際へ去る鳥が甲高く鳴く。小鳩がそれに答えるように少しだけ首を傾げた。 足元へ伸びた木陰が冬の気配を引き連れて靴の中の指先を冷たく凍らせ、まだ暫し間のある春の夜明けを夢想した。 何時の間にか燃え尽きた煙草の殻を、飲み終えた缶コーヒーの口へ投げ入れ溜息を吐く。既に白くはならなくとも、研ぎ澄まされた空気の性質 はまだまだ冬の域を出てはいなかった。 冬の最中の、小春日和である。 日向ぼっこをするにはいささか冷たい空気に肌は引き攣ったが、日差しは柔らかく心地よい。 ここのところ一気に酷使し痛んだ目には、その慎ましさが丁度良かった。 だらしなくベンチに体を伸ばし、ずり落ちそうなギリギリの線まで体を弛緩させる。正午にとどかない時刻では、人も疎らで遊具の一切ない草木ば かりが台頭する公園には小さな子供づれの婦人たちの姿もなく、そのせいか小鳥たちもどこかおっとりとしている。 その小さな動きを飽きもせず眺めながら、サンジは気に半分隠れた時計台に目をやった。 そろそろかな。 本来であれば惰眠を貪っている時間である。 コックとして勤めるレストランの規定の勤務時間では終わらない仕事を片付けるうちに、いつも時計は零時を越える。 その上そのまま新しいメニューなどに執心してしまえば店で朝日を拝んでしまうのもざらだった。そうなればどうしたって眠る時間は人よりずれ、昼 時のニュースを見ながら目を覚ますのが定例だった。しかしここ数週間はその定例もなりを潜め、サンジは眠い目を擦って普段からは考えられない ような時間に目を覚まし、いそいそと公園へと通っている。 それもすべて、ほんの一瞬の逢瀬のためだった。 来た。 南側の入り口を抜け、ゆっくりと人が近づいてくる。 正面に太陽を睨んでいるせいか、いつもそいつは目つきが悪く見えた。短く刈った頭は面白い髪の色をし、左耳には幾つもピアスをぶら下げてい る。行儀悪く両手をポケットに突っ込んだままなのに、背筋がすっと伸びて姿勢がうつくしい。ゆっくりと歩みを進める印象とは裏腹に、その足は驚く ほど速かった。 つかつかと歩み寄り、あっという間にサンジの目の前を通って公園の東口の方へと折れていく。そうしてそのまま茂った植え込みに姿が隠れて、 それでお終い。 サンジはいつもその一連の動作を眺める間、気がつけば息を止めていた。 そうして目蓋の向こう側に光の存在をはっきりと感じながら目を閉じる。 そうすると忽ちほんの一瞬すれ違っただけの存在であるその姿が、まるで今目の前に止まっているかの様な錯覚を覚えた。 ストーカーサンジ(笑) すれ違うだけでドキドキしていたあの頃はいつだっけ・・・? |