あ?俺とゾロの馴れ初め?何、お前。そんなんの聞きてーわけ。お前も中々見込みがあるなあ。うん。 俺は純情可憐な乙女じゃねぇし、もちろんゾロが花も実もあるお嬢さんってわけではない。 それなのにどういうわけか、俺たちはお付き合いしてるっつーわけだ。 ゾロの事を好きだと思ったら、いてもたってもいられず、スグに告った。 男なら、思い立ったらスグ実行。丁度良くゾロは夜中に一人で酒を飲んだくれる習性があるので、俺はそれを上手に 利用させてもらった。 前甲板に一人で居たゾロは、俺が階段を昇る足音でこちらを振り返り、あからさまに嫌そうな顔をした。 そりゃそうだ。 寄ると触ると喧嘩になる相手が、こんな気分のいい月夜に顔を見せれば俺だって不機嫌になる。しかし俺としては喧 嘩を売る気も、買う気もさらさらなく、とりあえず本日の用件を伝えようと口を開いた。 「ゾロ」 「なんだ」 素っ気ねーにもほどがあるが、ゾロのいいところはどんなくだらないことでも、基本的に無視しないところだ。 ホラ今だって、本当は俺を追い返したくて仕方がないのに我慢してる。 用があるって分かってるからだ。 ならば俺としても異存はない。 きちんと用意していた言葉を言った。 「俺ぁ、テメェの事が好きみてーだ」 シーンとした。 波音だって聞こえやしねぇ。 流石に緊張してんのか、手を握ったり開いたりすると、汗で手のひらがべたついた。 ゾロは俺の言葉にキョトンとして、上手く理解できないという顔で俺を見た。 探るように目が動く。 俺は微動だにしないでそれを受けた。 「ふーん。ま、それでもいいんじゃねーの?」 今度は俺がキョトンとする番だった。 なんだって?俺は今、有り得ねぇような答えを聞いた気がするが。 だって、そうだろう? 告白の答えなんか、大体三つくらいしかないもんだろう。 「イエス」か「ノー」か。後は「お友達から」とか。まあ、ゾロが「お友達から・・・」とか言ったら、逆にこえーけど。 あ、ゾロの場合「殺す」とかも入るのかな。そしたら四つか。どっちにしろ、選択肢にバラエティなんてそれほどない。 それなのにゾロは、なんか訳わかんねー答えを言いやがった。 もしもし、ロロノアさん?俺は意見を求めてるわけじゃねぇんだけど。 しかしゾロはふんふんと一人で勝手に納得なんてしてやがる。 俺はその平然とした面にムカッ腹が立って、一歩ゾロに近づいた。 そんで、おもっクソ拳を叩きつけてやった。 そう。手。 手、使っちまったんだよ。 よっぽど我を忘れてたんかね、俺は。 拳闘なんか滅多に使わないから、うっかり間接が痛くなっちまったよ。ま、それも後から気づいたんだけどさ。 とにかく油断してたらしいゾロは、俺の拳をモロに喰らって吹っ飛んだ。頭と背中をおもいっきり船の縁に打ち付けた。 それでも片手につかんだ酒瓶が無事な辺り、アル中もここまで来たら見上げたもんだと感心した。 「テメェ・・・。なんのつもりだ」 頭を摩って振りながら、ゾロが体を起す。そのまま立ち上がるとチャキッと刀の刃を立てて、正眼に構えた。 目がぎらぎらと月の下でも香ばしい。 しかし俺も軽くいなされた事で相当にキレていた。 両手をポケットに突っ込んで、いつもの如く足を構える。 「そりゃ、こっちのセリフだろう。俺の本気を軽くあしらいやがって。気持ち悪いなら、はっきりそう言えよ。ぬるい答えが 一番ムカつく」 あー、ヤベ。泣きそうかも。 自分で言って、自分が一番ダメージでかい。 振られるにしたって、ボコられるにしたって、すっきりして欲しかった。 ゾロならそうしてくれるって、何となく思い込んでた。 俺の勝手な、言い分だけどさ。 色々堪えるのにぎゅうッと目を瞑った俺に、いいタイミングでゾロが踏み込んでくる。 あ、やられるって思った。 その方がいいかも、なんて思った。 でも、いつまで経っても何にも起こらない。 俺は恐る恐る目を開けた。 すると、ゾロは 困ったような、笑い出しそうな、すごく微妙な顔でこっちを見てた。 「気持ち悪ィなんて、言ってねェ。俺はそれでいいって言ったんだ」 俺はまた有り得ない答えを聞く羽目になった。 頭悪いくせに、遠まわしな言い方するのよせよ。 はっきり言えよ。なあ。 それとも何か、俺の言い方が悪いのか。 こっちからも一歩踏み出すと、俺とゾロの距離はあと一歩というところまで近づいた。 ゾロはじっとこちらを見てる。 俺はわざとらしいくらいに唾を飲み込んで、大きく息を吸い込んだ。 「俺と結婚を前提に、付き合ってくれ」 「望むところだ」 そんなわけで、この船初めてのカップルになったわけだ。 俺とゾロは。 な?随所で泣かせる、いい話だろ? 犠牲者は誰だ。 |