V.乳腺症 Mastopathy (Fibrocystic disease, Mammary dysplasia)
臨床的には硬結腫瘤として触れる。組織学的には乳腺の増殖性変化と退行性変化とが共存する病変であり、変化は乳腺の上皮、間質両成分に起こる。本症の組織学的変化は発生する部位や程度により種々の名称で呼ばれるが、主たるものは次のごとくである。
- 乳管過形成 ductal hyperplasia
- 乳管上皮の異常な増殖を主体とする。上皮は乳頭状ないし多層性に増殖して、乳管乳頭腫症(duct papillomatosis)あるいは上皮増殖症(epitheliosis)といわれることもある。細胞や構造の異型を伴うものは異型乳管過形成(atypical ductal hyperplasia)と呼ばれ、癌との鑑別が重要である。
- 小葉過形成 lolular hyperplasia
- 小葉内細乳管上皮の増殖であり、上皮細胞が異型を示すときには非浸潤性小葉癌との鑑別が問題となる。過形成の場合は管腔形成が明らかである。
- 腺症 adenosis
- 乳腺内のある領域に乳管の増殖が顕著に起こり、比較的境界鮮明な腺腫瘍病巣を作るものをいう。局所性に密集して増殖した乳管は正常と構造を異にして閉塞乳管のごとくみえるので、閉塞性腺症(blunt
duct adenosis)と呼ばれる。また間質が比較的乏しく、腺管が主体を占めているときは開花期腺症(florid
adenossi)といい、間質の線維化が進んで上皮成分の萎縮消失がうかがえるものは硬化性腺症(sclerosing
adenosis)と呼ばれる。
他に間質成分の側では、小葉間および小葉内結合織の線維性(fibrosis)が種々の程度に起こり、また乳管の通過障害を起こした結果、大小の嚢胞(cyst)を形成する。この場合、しばしば上皮のアポクリン化生(apocrine metaplasia)を伴う。さらに限局性の増殖が結合織および上皮成分に起こし、線維腺腫様の形態を呈することもある(線維腺腫性過形成fibroadenomatous hyperplasia)。
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