ちょっと知りたい

豆 知 識

2010. 1. 18. Mon

CYP2D6 (SNP遺伝子診断)

 タモキシフェン(ノルバデックス)は、CYP3A4/5とCYP2D6の2つの酵素により2段階の代謝を受けて、エンドキシフェン(活性体)になることにより代謝活性を現すことができるようになる。
 このCYP2D6の遺伝子は、第22染色体上にあり、変異を起こすことが多く、CYP2D6 *4, *5, *3, *10などといった100種類近くの野生株や変異アレルが報告されている。CYP2D6代謝欠損者PMは、常染色体劣性遺伝です。
 CYP2D6*1 活性 正常  アレル頻度(%)
 CYP2D6*4    消失  白人 19.7 日本人 0.5
 CYP2D6*5    消失      3.9       6.1
 CYP2D6*3    消失       1.7       0
 CYP2D6*10    減小       2.5      40.8

 欧米人では、CYP2D6 *4, *5, *3があり、酵素活性の完全欠失を示しますが、日本人を含めたアジア人には、CYP2D6*10が特異的に多く、むしろ野生型と言ってもよいくらいです。ただ、酵素活性については、50%程度の低下に留まり、特に*10/*10のホモ接合体の場合には、血中エンドキシフェン濃度が著しく低下し、再発率も確実に多くなっています(*1/*1,*1/*10と比較して)。

 EM (Extensive metabolizer)は、正常の代謝活性 CYP2D6*1
 PM (Poor metabolizer)は、酵素活性の欠損 CYP2D6*4, *5, *3
 IM (Intermediate metabolizer)は、50%程の欠失 CYP2D6*10
 UM (Ultrarapid metabolizer)は、超迅速代謝者で、抗うつ薬に対する応答性が低い変異で、遺伝子重複CYP2D6*2xN (N=3~13)を有している。

 日本人では、CYP2D6*10/*10が重要で、代替え法として、閉経後にはアロマターゼ阻害剤を、閉経前にはLH-RHアゴニストを使用することが選択できます。尚、トレミフェン(フェアストン)は、CYP2D6による代謝は不要ですが、CYP3A4による代謝は必要ですので効果は不明です。
 タモキシフェン(ノルバデックス)によるホルモン療法を施行する前に必ず検査することが望まれます。
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2009. 11. 2. Mon

Oncotype DX (乳癌多遺伝子診断)

 摘出した乳癌組織から、乳癌関連遺伝子16種類を含める計21種類の遺伝子を調べることにより、再発リスクを3群(低・中間・高リスク)に分類して診断します。
 ホルモン受容体陽性の乳癌患者(stage I, II, III)が対象で、当初リンパ節転移のない症例のみでしたが、リンパ節転移のある症例も1~3個転移と4個以上に分けて適応となりました。

 低・中間リスク群(RS)は、ホルモン療法の効果があるが、化学療法の上乗せ効果がほとんどない。
 高リスク群(RS)は、ホルモン療法の効果が少なく、化学療法の効果が著明である。(12年無病生存率が60%から88%に改善した。)

 このように、リンパ節転移陽性で化学療法を勧められていた人でも、低・中間RSであれば、ホルモン療法だけで充分と言うことが分かります。
また、ホルモン受容体陽性でHER2陰性、リンパ節転移陰性といったホルモン療法の対象と考えられていた人も、高RSであれば、化学療法を受ける必要があると言うことが分かります。

 この検査は、手術後の固定保存された摘出標本で、検査が出来ます。今からでも遅くはありません。是非検査を受けましょう。ただ、保険適応ではありませんので、自費として、472,500円(税込み)を支払う必要がありますので、ご留意下さい。
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2009. 9. 26. Sat

分子標的薬 Molecular targetted drugs その2

VEGFR (Vascular Enothelial Growth Factor Receptor)
  血管内皮細胞増殖因子受容体

 抗体
  Bevacizumab   VEGFR

 チロシンキナーゼ阻害剤
  Sumitinib       VEGFR-1,-2,-3; PDGFR-β; FLT3; RET; CSF-1R
  Pazopanib      VEGFR-1,-2,-3; PDGFR-β; c-Kit
  Axitinib         VEGFR-1,-2,-3; PDGFR-β; c-Kit
  Soratinib       VEGFR-2,-3; PDGFR-β; c-Kit; FLT3; RET; Raf
  Vandetanib    VEGFR-2; RET; EGFR

IGFR (Insulin-like Growth Factor Receptor)

  figitumumab IGF1R抗体
  OSI-906   IGF1Rチロシンキナーゼ阻害剤

mTOR

  RAD001

PARP1 Inhibitors (Poly(ADP-Ribose) Polymerase-1)
   DNA塩基損傷修復に関わる核酵素で
   BRCA1変異陽性のトリプルネガティブ乳癌の治療に有望
  BSI-201   +Gemstabine+carboplatin
  Olaparib

New Anti-Tumor Drugs

  Ixabepilone 微小管の固定化により細胞死を誘導する
           +Capecitabine
  Eribulin   海洋自然物質のhalichondrin Bの合成類似体
          微小管の成長を阻害し、凝集・隔離する
  Nab-paclitaxel
          albumin-bound, polyethoxylated castor oil-free paclitaxel
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2009. 8. 3. Mon

乳腺膿瘍
 通常、限局的に膿汁が溜まった状態で、授乳や、扁平上皮腫瘍や乳管の閉塞により出来た廔孔に関連して起こる。

好発:閉経前には分娩後膿瘍、閉経後には乳輪下膿瘍として起こる。

発生:授乳女性の0.1-0.5%に起こり、授乳開始6週間には分娩後膿瘍は少ない。

危険因子:分娩後乳腺炎の5-11%は膿瘍になる(不適切な治療によるものが最も多い)。
 乳腺炎の危険因子は母乳の滞留に起因することであり、少ない授乳や無授乳にもよっても起こる。
 一般因子:糖尿病、関節リュウマチ、ステロイド薬、シリコン(パラフィン)インプラント、放射線治療をした乳房温存療法後、ヘビースモーカー、乳頭陥凹などのある方に起こりやすい。

合併症:廔孔

経過・予後:完全治癒に8-10日間、切開・排膿後抗生物質を投与しても、乳輪下膿瘍を頻繁に再発し、乳管の外科的切除を必要とすることもある。
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乳腺の構造
 乳腺は、皮膚から多くのクーパー靱帯により吊り下げられたように脂肪の中に浮いた状態で存在します。
 乳管は母乳などの通り道で、乳頭先端に開孔部が複数存在する。この本管から多くの枝に分岐し、最終的に細小乳管となって、腺房に接合する。母乳は腺房で作られて乳管を流れていく。
 乳癌は、この細小乳管で発生します。
 乳腺の外見は、ブドウの房が乳頭を中心に放射状に並んだ状態になっていますので、乳房を触ると乳腺の凹凸を触知することが出来ます。乳腺の張りや硬さ、周囲脂肪の量と柔らかさによって、人により触った感じに違いがあります。
 乳腺のおよそ50%は、乳房の外上方(C領域)に存在し、その部分に腫瘍も多く発生する。
 乳腺は、腋窩にも多く存在するアポクリン腺から発生し、発育したものです。小学生低学年頃から徐々に発育し、思春期に急速に成長しますが、その時点で、一旦成長が休止します。その後、妊娠した時に再び成長が起こり、最終的な発育を終え、授乳期に至ります。乳腺腫瘍や乳癌などは、思春期終わりから妊娠までの発育休止期に多くは発生すると考えられ、その期間を短くすることが乳癌の予防には重要となります。つまり、高齢出産は乳癌のリスクが高いと言うことです。
 他の動物が4個以上の乳房を持っているのと同じように、人間にも2個以上の乳房が存在し得ます。乳房は腋窩から腹部両側にかけての線上に並んで存在していましたので、その名残が腋窩前方や脇腹に副乳として見られることが多くあります。基本的に乳房の退縮したものですから、乳腺の構造をとどめており、そこに乳癌が発生することもあり得ます。
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2009. 5. 25. Mon

分子標的薬 moleculara targeted drug その1
 癌細胞に特有の蛋白に対して、選択的に働く治療薬のことで、非常に多くの薬剤の開発が進められており、すでに実地臨床で使用されているハーセプチンの大成功を受けて、将来が楽しみです。歴史的には、ホルモン受容体であるER (Estrogen receptor)に対する治療薬として、タモキシフェンがその始まりとされています。
主な標的対象としては、EGFR、VEGF, PI3Kinase, mTOR, Src, IGFR-I, RAF/MEK/ERK, TGFβ, PARPが考えられています。
これから、それぞれを徐々に紹介していきますので、ご期待下さい。

EGFR (Epidermal growth factor receptor)
  膜貫通性の蛋白で  HER1, HER2, HER3, HER4 の4種類がある。
 抗体       標的
  Trastuzumab  HER2 抗体依存細胞性細胞障害作用を活性化
                 HER2の陥入を促進、血管新生を阻害
  Pertuzumab   HER2 抗体依存細胞性細胞障害作用を活性化
                 HER受容体の2量体化を阻害 (コレ特徴)
                 HER仲介の信号伝達経路を阻害
  Cetuximab     HER1
  Panitumumab   HER1
  EMD72000    HER1
  h-R3       HER1
 チロシンキナーゼ阻害剤
  Lapatinib     HER2/1  HER2過剰発現乳癌
  Neratinib (HKI-272) HER2/1 乳癌・非小細胞肺癌 非可逆性
  Gefitinib      HER1
  Erlotinib      HER1
  BMS-599626   HER1/2
  AEE788      HER1/2 抗VEGR
  CL-387, 785    HER1
 現在乳癌の治療薬として、臨床試験が行われているのは、青文字のTrastuzumab (ハーセプチン)、Pertuzumab (オムニターグ)、Lapatinib (タイカーブ)、Neratinib です。
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2009. 5. 24. Sun
 今日から少しずつ気まぐれに知識をまとめていきますので、ご覧下さい。

乳房痛 mastalgia
 周期的な乳腺の痛みは、通常、月経に関連したホルモン変化や、種々のホルモン、妊娠、閉経と関係しています。非周期性の痛みは持続的か間欠的です。両側性が多い。家族性がある。多くは中等度ですが、11%は高度となる。
他にも前胸部痛の訴えには、肩凝りなどに関連した大胸筋痛、肋間神経痛によるものが多い。
限局した痛みには、乳腺炎、急速に増大した乳腺嚢胞といったものもあり、この場合には治療が必要となることもあるので、診察を受けるようにしましょう。痛みに関連した乳癌は極めて稀であり、癌を疑うよりも乳腺症を考え、検診をきちんと受けることをお勧めします。

危険因子
 飽和脂肪酸の多い食事
 喫煙
 最近の体重増加
 妊娠
 大きい下垂乳房(クーパー靱帯が伸張しているため)
 カフェインは危険因子とは証明されていない。

予想される経過・予後
 閉経前の乳房痛は、年齢とともに増加し、ホルモン補充療法をしなければ 、閉経後に徐々に消失する。
 ほとんどは、ホルモン治療をしなくても症状をコントロールできる。
 数ヶ月のホルモン療法で、数ヶ月症状が緩和できるが、再発しやすい。
 周期性の痛みの方が、非周期性のよりも治療に反応しやすい。
 長期間のホルモン治療の効果は不明です。
 どの治療もうまくいかない時、稀に乳房切除を行う。
 卵巣摘出は劇的だが、全員が症状緩和するとは限らない。

関連状態
 月経前症候群、妊娠

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