乳癌の手術をする際に、腋窩リンパ節郭清を行うと、手術後に患側上肢に浮腫を起こすことがあります。これは、腋窩を通る上肢・前胸部からのリンパの流れが、リンパ節郭清をすることにより遮られることによって起こります。通常は、周囲に別の流れを作り浮腫まで作ることはありません。しかし、手術後のリハビリがうまく進まないと、肩の拘縮を起こして、肩の周囲が堅くなってしまいますと、リンパの流れが遮られ、通りにくくなってしまいます。そのために上肢の浮腫が起こります。 一昔前の手術で、定型的乳房切断術という大胸筋と小胸筋も切除する手術ですと、肩の拘縮もひどく、リンパ浮腫が高頻度で起こっていましたが、最近の胸筋温存の手術では、非常に少なくなりました。それでも、時々お目にかかるのは、やはり術後のリハビリの問題です。患者さんにも様々な性格の方がいまして、疼痛に対してとても敏感な方は、鎮痛剤を使っても、なかなかリハビリが進まないことがあります。 対策(予防と治療) まずは、リハビリが予防と治療にとっても大事です。 次に、患側上肢には、決して注射、点滴、採血、日焼け、怪我、虫刺されなど感染、むくみを起こさせるようなものは避けましょう。万が一、感染した場合には、悪化させないためにも必ず、病院で治療を受けて下さい。 少しむくんできたようだったら:休んでいる時は、上肢を体より高くにしておいて下さい。指先から、肩の方向へマッサージをして腕の水分を体の中心へ返してあげましょう。 むくみが気になるようになってきたら、休んでいる時にはサポーターか弾力包帯を巻くようにしましょう。もちろん手の先から肩の方向に向けて巻いていって下さい。あまりきつく巻くと、手がしびれてしまいますから、ほどほどにして下さい。適当なものを、販売しているお店がありますので、購入して下さい。 さらにむくみがひどくなる場合は、利尿剤を使ったり、マッサージ器を使ってむくみを抑えていきます。マッサージ器には、メドマーという機械があり、12個の空気袋を順番に膨らませて、手先から肩まで波打つように空気圧で圧迫して、水分を逃がしていきます。他に、足のむくみにも使用します。また、手術の際の血栓予防にも使用されます。 切開して廃液するなどの手術による方法もありますが、本質的にリンパの流れが改善されるわけではないので、治ることにはつながりません。 とにかく、一番肝心なのが、リハビリです。 当院では、リハビリテーション科があり、直接専門家からの指導をしてもらっていますし、個人的には、リハビリのビデオをお貸ししておりますので、家庭でのリハビリも積極的に行っていただきます。 さらに、マッサージ器として、メドマー・プロを導入しましたので、浮腫を起こしている人にどんどん活用していただきたく思っています。 こちらで、購入可能です。ご利用下さい。 用語 腋窩: 腋の下 リンパ節郭清: 癌のリンパ節転移を摘除するために、脂肪を含め て リンパ節をすべて取り去ること 患側: 手術をした側 上肢: 肩から指先までを含めた腕 浮腫: 皮膚の下に多量の水分を含んだ状態で、上から押すと凹 み、戻りにくくなります。 |