外来種問題  ニューレオマからの大量逸出事件

〔概要・問題点〕

ニューレオマワールドのバードパークが台風16号により損傷し、飼育していた鳥約300羽が逃げ出したことが明らかとなりました(9月10日付け四国新聞)。

外来種の逸出は、在来種と競合したり生態系を混乱させるほか、また私たちの次の世代の自然観を狂わせてしまいます。

台風という天災が原因とはいえ、多数の鳥が逃げ出して「仕方が無い」ですむのかどうか。リストには四国・本州・九州で繁殖し、大きな外来種問題となっているソウシチョウが入っていました。

現在香川県ではハッカチョウも繁殖していますが、これも旧レオマから逃げ出したのではないか、という意見が聞かれます。

大量の逸出事件を起こしたニューレオマワールド内のバードパークは、県の傷病鳥獣保護事業を受託している日振動物。しかしここには獣医師もおらず、本会は県が委託するべき団体ではないと主張しています。

その会社が管理する施設から、今度は外来種の大量逸出。

香川県と同施設の野鳥・生態系保護に対する認識の甘さ、ずさんさが伺われます。

 

〔経緯〕

●2004年9月2日

台風16号により、ニューレオマワールド内のバードパークが破損。鳥類約300羽を逃がす。

 

●2004年9月10日

四国新聞で上記事件を報道。

香川の野鳥を守る会、逸出した鳥類のリストを県に要求。 
(県は生態系保護、動物の適正飼養の2点で同施設を指導するべき立場と考えます。)

 

●2004年9月13日

香川県より逸出鳥類のリスト届く。大量のソウシチョウが含まれていることが判明。

・ハゲコウ     1羽
・ジサイチョウ   1羽
・レンジャクバト  約40〜50羽
・クジャクバト   約40〜50羽
・ウシツツキ    約100羽
・ソウシチョウ   約150羽

※なおレンジャクバト・クジャクバト各10羽程度、ソウシチョウ4050羽は戻ってきているらしい(2004.9.13)。

(以降、保護団体・近県の野鳥観察者等に状況を周知し、今後の注意を依頼している。)

 

●2004年10月19日

  県外の方から寄せられた「知事へのメール」に対する県の回答を公表。

〔香川の野鳥を守る会の主張・方針〕

★四国以外で繁殖し、大きな問題となっているソウシチョウを大量に飼養するのは、あまりにも外来種問題への認識が甘い。

★台風の時、見回り・施設の復旧体制はどのようになっていたか、県・第三者による検証が必要。

★今後同様な事件が起こらないよう、施設のハード・ソフト双方で対策をとり、県・第三者による検証が必要。

★可能な限り逸出した鳥類の回収が必要。ただし他の野鳥を混獲しないこと。

★すぐに施設を再開し、逃げた分は「補充」するという同施設の姿勢は、大量の外来種逸出事件を起こした当事者として

あまりに安易な姿勢ではないか。

 

 

INDEX〕

●ニューレオマから鳥類大量逸出 −県と施設の甘い外来種問題への認識−(2004年9月)

●県外からも懸念の声 –県の回答(2004年9月)

●ニューレオマから鳥類大量逸出 –県と施設の甘い外来種問題への認識−(2004年9月)

 

◆ハッカチョウの分布拡大◆

最近、中讃地域では、ハッカチョウが分布を拡げている。この鳥はもともと中国南部・台湾あたりの鳥で、日本では逃げ出した飼い鳥が繁殖していると思われる。香川県では約10年前は綾南・丸亀のごく一部で観察されていただげったが、現在は坂出市まで拡大し、30羽程度の群れさえ観察されている。

真偽はわからないが、野鳥観察・撮影愛好者の間では、この鳥の「出どころ」は旧レオマワールドと言われている。いずれにしろ、「この10年の間に香川県で繁殖し、分布を拡大している外来種の鳥がいる」のである。

 

◆ソウシチョウとはどんな鳥か◆

さて、今回様々な鳥が逃げているが、その中にソウシチョウが多数含まれている。

この鳥は中国西南部からベトナムが原産地だが、日本ではすでに九州の1000m超の山系のほとんど、本州では筑波山系・六甲山系・丹沢山系・秩父山系などで逃げ出した個体が繁殖しており、「営巣環境が類似しているウグイスとの競合が懸念される」と指摘されている(「外来種ハンドブック」,日本生態学会,2002)。本種は落葉広葉樹林を好むことから日本の環境に適応しやすいようであり、分布が縮小したという話は聞かない。むしろ兵庫県の標高1400m程度のブナ+クマザサ林にまで侵入している例もあるという。

四国は海に隔てられているため、本種は幸いこれまで侵入していなかった。ただ近年ペットショップでよく見かけるようになっており、筆者らはそれらの「かご脱け」を懸念していたところだった。

 

◆甘い外来種問題への認識◆

そこへ、今回の事故である。

冒頭のハッカチョウの事例を踏まえて考えたとき、関係者(日振動物、県)にどれほどの危機感と責任感があるか、はなはだ疑問である。

そもそも、飼育動物が逃げないように管理するのは、飼育者の最も基本的な責任であろう。台風だからといって許される問題ではない(自宅の庭で飼っていたカミツキガメが台風で逃げ出し、用水路で子どもの指を噛み切ったら大問題になるだろう)。特にこのバードパークを運営している日振動物は鳥獣商(売る側)であり、飼育者としては模範を示すべき立場にある。そう考えると、単に「台風の被害だ」と言ってすますことはではない。バードパークでの二重三重のネット設置、台風時の一時的な鳥類の隔離、ネット損傷の見回り、応急措置などについて、第三者によって検証されるべきである。

また、鳥獣類を売買する専門業者として、自らが扱う鳥獣がどのような外来種問題に発展しているか(する可能性があるか)を、きちんと認識していたのかどうか。

他県の状況を考えれば、四国でソウシチョウを100羽以上も飼育することには、より慎重になるはずであるし、そうでなければならない。しかし残念ながら、現状では「販売する鳥獣がどのような問題を引き起こそうが知ったことではない」、「大量に飼育している個体が逃げた時の影響は考えたことがない」としか見えない。そのような姿勢が、果たして現在の企業倫理として許されるものか。

樹木の繁ったバードパークでは、ソウシチョウのような小型種(スズメよりも小さい)の存在はほとんど誰も気がつかないだろう(筆者も気がつかなかった)。「枯れ木も山の賑わい」的な考えで飼育していたのかもしれないが、それは余りにも安易な考えと言える。

 

一方、日振動物のこれまでの飼育状況、また今回の事故に対する県の姿勢はどうか。

一企業がやること、たかが鳥が逃げただけ、という認識かもしれない。しかし外来種問題はすでに他県で大きな問題となっており、それが香川で発生したときにどうなるか、という予想(危機感)は持てるはずである(まさにカワウ問題と同じである)。「香川県レッドデータブック」を出して足れりとしている場合ではないだろう。

 

◆外来種問題の「重さ」◆

外来種の侵入はこれまで連綿と受け継がれてきた「香川の自然」を根底から覆してしまう。

また生態系への直接的な影響だけでなく、次世代の人間が、外来種の存在を「あたりまえ」と思ってしまう危険性もある。そのような世代が、どのような自然観を持つかを考えると、将来を楽観することはできなくなる。(例えば現在問題となっているカワウにしても、「昔はいなかった、だから減らせ」という人がいる。しかし実際は戦前には生息していたようであり、単に、今の大人世代の子供の頃にはもう減っていたのである。人間が自分の成長した自然環境を基準としてしか考えられない実例である。)

 

日振動物はすでに施設を再開し、失った鳥は「補充」するという。

外来種の繁殖・拡大は、前世代から引き継いだ「香川の自然」を、そのままの姿で次世代へ伝えられないという、とりかえしのつかない私たちの世代の犯罪行為である。

関係者には改めて事態の検証を求めたい。

●県外からも懸念の声−県の回答

 

◆県外から「知事へのメール」届く◆

 2004年9月10日、この逸出事故への対応を質す質問が、県外からも寄せられました。

 県の「知事へのメール」にて、質問・回答がご覧いただけます。(「ふるさと香川の環境問題(生態系の保護)について」県の該当ページはこちら)

 回答の要約は次のとおりです。

 

 ・当該施設は「動物の愛護及び管理に関する法律」の規定に基づく「動物取扱業」の届出施設であることから、当施設を所管している中讃保健所が立入調査を行い、動物の適正な飼養及び保管が確保されるよう、施設の修繕及び逃げた動物の捕獲などについて、事業者に対し指導している

生態系への影響の有無等についても関係団体や専門家などの協力を得ながら、フォローをしていく

・県では、平成16年3月に、失われつつある県内の野生生物の実態を取りまとめたところであり、この実態を踏まえて、現在、専門家の方々で構成する検討会を設置し、稀少野生生物の実効ある保護制度について検討を進め、その中でも、外来種の生態系への影響とその対応策等について議論している

・外来種による生態系への影響については、平成16年5月に成立した「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」により、生態系に著しい影響のある外来種については、その種を指定し、輸入などを制限することになっているため、県としては、その状況もみながら、適切に対応していく

 

 しかし実際のところ、逸出した鳥類(特に小鳥類)を回収することはできないと思われます(ただし、だからと言って回収の努力をしないでいい、ということにはなりません)。

またこの問題の最大のポイントは、

@逃げ出した鳥類のモニタリング

A今後の同様の事故防止

です。この最も重要な点について、よく読んでみると@は「フォローをしていきます」。Aについては、具体的な今後の対策は示されていません。結局、「施設の修繕・逃げた動物の捕獲」は指導していますが、再発防止のためのマニュアル作り、緊急時の連絡体制、また新規に追加する鳥類選定についての配慮などは触れられていないのです。

 

 本会はこの回答を踏まえ、この問題について県と業者に改善を求めていきたいと考えています。

 

 

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