花の動き

われわれが住む身近なところには、多くの動物たちが棲み、そして、またさまざまな植物が生存し、花を咲かせている。
たとえば、チョウ、ハチなどの昆虫やスズメ、ウグイスなどの小鳥たちは羽を動かし空を飛ぶ。メダカ、コイなどの魚たちは鰭(ひれ)を動かし水の中を泳ぐ。また小さなアリ、クモ、大きなキリン、ゾウたちも、それにイヌ、ヒトもあしを動かし陸地を歩く。このように動物たちは羽やあしを動かし、自分のからだの運動によって位置を大きく移動することができる。

一方、羽やあしをもたない植物は、しつかりと大地に根をおろし、地上に枝葉をのばすことができるが、動物のように自分の力でからだを動かして移動することはできない。このことが動物と異なる植物の特徴の一つでもある。しかし、場所の移動ができないこれらの植物は、まったく自分のからだを動かさないのだろうか。運動もしないのだろうか。
植物の運動については、これまでにいくつかの植物について調べられており、その結果が報ぜられている。それによると、植物にもよるが、葉や茎、またおしべやめしべ、花びらなどの花の各器官が動く運動をすることが明らかにされている。


花粉をまきちらす葯

葯の中で生まれ育った花粉は精核をもった小さな単細胞の粒で、葯が開くことで外側に放出されるが、自分のからだのカでは、全く動くこともその場所から移動することもできない。しかし、花粉は「花粉の旅の仲人」のところで述べたように、自然の中で動く風や水のカ、あるいは昆虫などの動物の行動力によって運ばれて初めて遠くの場所に移動し、目的地にたどりつくことができる。この花粉は他力本願で移動する器官で、いってみれば風来坊的なところがある。この花粉を袋の中にかかえ込み、一人前になるまで育てているのが葯である。

葯には、ツツジなどのように花びらを開くと葯の一部に穴があいて(孔開)、そこから花粉が外にこぼれ出してくるものや、メギなどのように葯が花びらのように開いて(弁開)、花粉を外に出すものなどがある。しかし、ふつうは花粉が成熟すると葯についている縦の切れ目がひとりでに裂け、しかもその裂開部がそり返って袋の内側が外側になるよう反転して、内部にたくわえている花粉を外に出すものが多い。たとえば、球根のユリやチューリップなどの葯は、花粉を一つでも多く放出できるように内側の葯壁が外側に180度にもめくれ動くことが知られている。

この葯の開き方は花の種類によって異なる。たとえば、四月ごろ、黄色の花を咲かせる越年草のアブラナ(菜の花)の仲間は花びらを開くと、まもなくいっせいに揃って葯を開き、花粉を外に出す。

また、花の中にたくさんの葯をもつ植物では、時間的にばらばらに葯を開き、花紛を外に出す。たとえば、朝早く花びらを開く多年草のケシの花では、葯の80%は午前六時ごろに開くが、残りの20%は午前八時ごろになってようやく開いてくる。サクラやモモなどの花では、一つの花の葯が開き初めてから全部の葯が開き終わるまでには、40時間もかかる。さらにカラフルに咲く球根のアネモネの花では、一つの花に非常にたくさんの葯をもち、その全部が開き終わるまでには、なんと160時間もかかる。

それでは、これらの葯は、なぜこのように長い時間をかけて、ばらばらに開くのだろうか。それは花それぞれの性質のちがいによるものであるが、開葯時間をずらすことによって、昆虫たちが花粉を集めるのに都合のよいように時間を長びかせているのかもしれない。


おしべ(花糸)の屈曲運動

花糸は葯を開きやすくし、花粉が飛び散りやすいように、ある高さに支えている。この花糸の運動は花の種類によっていろいろの動き方がある。たとえば、初夏から秋ごろに咲く多年草のマツバボタンの花には、長さ1〜3センチの花糸をもったたくさんのおしべがあるが、手や細い棒のようなものでこれに軽くふれると、おしべ全体が揺れ動くのがみられる。そして、おしべを右に倒すと、その反対の左側まで倒れ、前に倒すと、今度は反対に後側へ倒れ、やがて直立していた元の位置に静かにもどる。この運動はどの方向に倒した場合にもみることができる。

このおしべの運動は、接触刺激を受けた花糸が収縮反応を起こして曲がる接触屈性の一種で、5〜10秒間続き、平均2、3度ぐらいの屈曲運動をする。しかしながら、おしべをエーテルの蒸気に合せたり、また続けざまに同じ接触刺激を与えてみても、なかなか反応を示さない。
いずれにせよ、花を訪れた昆虫たちが、からだやあしなどでおしべに接触すると、その刺激によっておしべは曲屈運動をおこして昆虫のからだに花粉をなすりつける。花はこのようにして花粉の媒介を昆虫たちに托そうとしている。その姿は実にいじらしい。

のどかな春の陽を洛びて咲く低木のメギや、ヒイラギナンテンの花は6本のおしべをもち、弁開する葯をそなえ、その葯を支えている花糸は太く短いが、めしべよりも長い。この花糸の内側の基部に軽くふれると、中央にあるめしべの方向へ曲がる運動をする。そのありさまはめしべの柱頭めがけて花糸が曲がり、葯がさもロづけするかのようになり、そして柱頭の上に葯がのる格好になる。この屈曲運動は接触後わずか一分以内におこる。これはもちろん、花を訪れた昆虫たちが蜜を求めてもぐり込み花糸の基部にふれた時、このような屈曲運動をおこす。この運動が生じるのは、花糸を構成している細胞質の収縮にともなっておこる細胞内の膨圧変化が第一の原因とされている。

夏のころ、山地に咲く小高木のミヤマハハソ(ミヤマホウソ)の花は5本のおしべをもち、このうち、完全なのは2本だけである。その2本のおしべは花の中心にあるアーチ状に変形した花弁の下に花糸が折り曲げられた格好でむかい合ってもぐり込んでいる。この花に訪れた昆虫たちがおしべにふれるとその花糸がバネがはじけるようにピョオンと斜め上に飛び出す運動をする。この時、たくさんの花粉が葯から外に飛び散って、昆虫たちのからだについて媒介されるという特殊な例もある。
 
初夏から秋にかけて咲く多年草のノアザミや観賞のため栽培される他年草のヤグルマソウなどの花は管状の小花ばかりが集まって一つの頭花を形づくっている。その一つ一つの小花には、おしべが5本あるが、それぞれの葯は一体になって筒状となり、その中をめしべの花柱が貫いている。花糸は外側へやや弓状となって分離し、基部はまた一体となった格好をしている。この花糸にふれると収縮して10〜20%短くなる。つまり、おしべの筒がそれだけ引き下げられ、この時、めしべの柱頭のまわりに花粉があふれ出てくる。この運動は10秒ほどの間に終わり、一分後にはもとにもどる。このおしべの運動のしくみは、昆虫が訪れて花糸にふれた時にだけ花粉を出し、その都度、花粉媒介を有効に昆虫たちに托すように実に都合よく巧妙にできている。

このほか、花糸が接触や風圧、振動などの機械的な刺激によって、このように屈曲連動をおこす感受性の強い花の例としては、チョウセンアザミ、ウチワサボテン、マツパギク、ハシラサボテン、ヤグルマアザミなどが知られている。


巧妙なめしべ(柱頭)の動き

花の中のめしべは種子をつくりだす大切なところで、柱頭、花柱、子房、胚珠の四つの器官からできている。このうち、柱頭だけがいろいろな形を現わし、自ら動く運動をすることが知られている。
 
夏から秋にかけて野に咲く多年草のミゾホオズキや一年草のウリクサ、また春から夏にかけて田んぼなどによく咲く多年草のムラサキサギゴケなどの花には、ちょうど小鳥が嘴(くちばし)を開けたように二つに裂けためしべの柱頭のあることが観察できる。この柱頭の一方の内側に小さな棒のようなもので刺激を与えると、その側の柱頭だけが収縮して内側に静かに曲がる運動をする。他方の柱頭の内側に同じようにふれると、その側の柱頭だけが収縮して内側に曲がる運動をする。また、二裂した柱頭の両方の内側に同時に刺激を与えると、収縮してお互いに内側に合わさるような形で静かに曲がり、最後には、閉じた状態となる。これは前におしべの屈曲運動のところで述べたように柱頭の内側が接触刺激を感受して収縮し、内側へ曲がる。すなわち、細胞内の膨圧変化による屈曲運動である。柱頭のこのような運動はゆっくりとしたもので、おしべのようには速くはない。

こうしためしべの柱頭にみられる運動は、花を訪れる昆虫たちから花粉を確実につかまえ、さらに花粉に水分を与えて発芽しやすくしているものと考えられる。


おしべとめしべのすれちがい

六月から八月にかけて野や木かげに咲く多年草のナツノタムラソウの花は、その中央に葯隔が変化してできた花糸の二本のおしべと、それより長く花びらの外にとびだした一本のめしべをもっている。咲いたばかりの若い花をみると、黄色いたくさんの花粉を先につけたおしべが前方に突き出しているが、花の咲いた時にはめしべは先を閉じて、花粉を受けつけるのをきらうような格好をし、なぜか弧をえがいておしべの斜めうしろを向いたままである。やがて、おしべの花粉が昆虫たちによって運ばれたり、散ってしまうと葯はしおれてしまう。このころになると、今までうしろ向きに曲がっていためしべは真直にのびて花びらの前に突き出てくる。そのめしべの柱頭は浅く二つに裂けた状態で、いつでも受粉できる体制を保つようになる。

このようにナツノタムラソウの花はおしべが先に熟し、その後にめしべが熟してくるといういわゆる雄性先熟であるが、めしべは自分の花の花粉がある間は受粉できない体制をとり、花粉がなくなると、いつでも受粉できる体制をとるようになる。このことは、近親結婚を自ら避けようとするめしべの運動と考えられている。
 
また、四月から六月にかけて咲く花木(低木)であるツツジ類の花は、前に述べたナツノタムラソウの花と同じように、花びらが開いたときには、おしべの先は斜め上を向いていて、昆虫たちが花に出入りするたびに葯にふれるような位置にある。ところが、肝心のめしべは斜め下を向いたままで受精しにくい位置をとり、おしペの花粉のなくなったころに上向きになっておしべと同じ格好に曲がる。めしべの花柱の先が上向きに曲がると、今まで乾いていた柱頚は粘液物質を分泌して、ほかの花からの花粉がいつきても受粉できる万全の体制を整える。これまで述べてきたいくつかの花はめしべが自分のおしべ(花粉)を避けるために曲がる運動をする例である。


もつれあうおしべとめしべ

花の中には、めしべが反対におしべの方に近づこうとして曲がる運動をする花が知られている。
たとえば、秋ごろ、山、野に咲く一年草のアキノノゲシや夏の初めに咲く多年草のニガナ、春から夏にかけてどこの田んぼや路ばたでも、ふつうにみられるオオジシバリなどの花は長いめしべの花柱が、何回かくるくる巻いて、その下に位置する自分の花のおしべに近づいて花粉に接する運動をする。花の中のめしべがこのような運動をするのは、自分の種族を存続させるためのやむを得ない自己防衛策の一つと考えられる。おしべからみて、このめしべはよほど魅力のない相手なのか、それとも昆虫たちからも見捨てられた淋しい存在の花なのか、われわれの思いも及ばない運動である。

身近なところに咲く花の中には、同じ花のおしべとめしべが強く曲がり、互いにぐるぐる巻き合って、もつれる運動をする花が知られている。
たとえば、夏のころ、道ばたや荒れ地などに咲く一年草のツユクサや、ふつう夏から秋にかけて草花として栽培される一年草のオシロイバナ(ユウゲショウ)などの花は、花びらを閉じる前に花びらよりも長くのばしたおしべとめしべが一緒になって曲がり、ぐるぐる巻きこむ運動をする。その巻きこみ、もつれ合う途上でおしべとめしペがお互いにふれ合って受粉を完了する。その後にしっかりと花びらを閉じる。その容姿はまさに夫唱婦随の花というのにふさわしいフィーリングを漂わせている。


気温につられて動く花びら

茎や枝などにできる花になる小さな芽(以下花芽とよぶ)がだんだん生長して蕾となり、やがて大きく花びらを開く。花の中には、花びらが温度などの影響を受けて閉じたり、また開いたりの開閉運動を何回か繰り返しながら花全体が大きく生長するものが多い。このように温度変化が刺激となって花びらが開閉することを傾熱性屈曲(温度傾性)とよんでいる。この運動をするいくつかの例について述べてみよう。

夏から秋にかけて、日本のどこにでもみられ、しかもカラフルな可愛い花を次々と咲かせる一年草のマツバポタン(いずれの本にも一年草とあるが、私の経験によれば、同じ株で年々咲き続けて四年目となっているので多年草と表現してもよいと思う)の花を観察すると、朝は気温が上るにしたがって開き始めるが、その日の午後には、ほとんど花びらを閉じて二度と開かなくなるものが多い。それでは、この花が開く様子を知るために朝早くから調べてみる。
 
まず、その日に開く花は、前日の夕方か、あるいは夜の間に花びらを包んでいる外側のがくが大きく二つに割れ、その割れ目からこうもり傘のように固く折りたたまれた花びらが、だいたい三分の二ぐらい顔を出して、開花の体制をすっかり整えているのがわかる。
午前六時か七時過ぎ、ちょうど朝の太陽が昇り始めるころから急に気温が上ってくる。温度計が13℃を示すころになると、カメラの絞りが開くように固く閉ざしていた花びらの先がほころび始める。その後、気温が20℃近く上るまでには、ほぼ完全に花びらを開く。
 
花びらが開く速度は気温の上るのが速いはどはやく、おそいほどゆっくりとなる。一度開いた花は20℃以下の低温中におくほど早い速度で花びらを閉じ始め、20℃以上の高温におくほど早い速度で花びらを開く。その日が高温であれば、当然に開くはずの花が、日中でさえも20℃以下の低温状態であると、花の中には花びらを閉じたままで終わってしまうものもみられる。たいていの花は20℃以上になれば、夜の間でも、あるいは翌日でも花びらを開く。日中、急に曇って気温が下ると、ぼつぼつ花びらを閉じ始めるが、その後に晴れて気温が上ると、再びいっせいに花びらを開く。マツ、ハボタンの花は温度の変化に対して、敏感に反応して花びらを開いたり、閉じたりするが、その限界温度はおよそ20℃のところにあるといえる。

このマツバポタンの花が温度の変化に対して敏感に反応するのはだいたい午前中で、午後の温度変化に対してはあまり反応を示さなくなる。確かに、花は朝のうち、いっせいに揃って開くが、午後になってそれらの花が花びらを閉じる時刻はまちまちである。早いものは午前中に閉じてしまうが、たいていは午後となる。中には夕方おそくまで開いているものがみられる。

このように、マツバボタンの花がなぜ不揃いに閉じるのだろうか。このことは受粉の時刻と関係が深いようである。マツバボタンの花は朝早く開くので、午前中に昆虫などによって受粉してしまうものが多いと考えられる。受粉すると、その四時間後から花びらを閉じ始める。たとえば朝七時ころ受粉すれば、その花は昼十二時前には閉じる。午後二時ごろに受粉すれば、その花は六時以降になって閉じる。したがって午後にいたって、受粉した時刻順に花びらの老化が進んで閉じることになり、受粉のおそかったものや受粉できなかったものはおそくまで開いていることになる。すなわち、受粉の早晩が不揃いの原因となっている。

マツバボタンの花の開閉と光との関係についてみると、たとえば、完全に花びらの開いたいくつかの花を、光を通さないアルミホイルなどで包み、半日ぐらい日光の下に置いてみても、花びらは閉じず開いたままであり、また開く前の蕾をアルミホイルなどで同じように処理してみても、正常に花びらを開く。このような結果からみて、光は花の開閉に対しては直接に影響しないことがわかる。 

このことは春に咲くクロッカスやチューリップなどの花にもみられ、花びらが開いたり閉じたり、開閉運動する植物として知られている。これらの花は朝方、温度が上昇すると開いて、夕方、温度が低下すると閉じるが、この開閉を7日も10日間も繰り返しながら、花白体もだんだん大きく生長する。そして、ついに花びらは夕方、温度が低下しても閉じられない状態まで老化すると、やがてしぼみ、散ってしまう。


花の開閉の秘密

 
なぜ花は温度の変化によってこのような開閉運動をするのだろうか。これは温度が上昇すると、その刺激によって花びらの内側の細胞層の生長率が著しく増加し、外側の細胞層よりも生長が良くなる。そのために閉じた花びらが外側へ反り返る状態になって開いてくる。反対に温度が低下すると、その刺激によって、今度は花びらの外側の細胞層の方が内側の細胞層よりも生長率が増加し、その結果、開いていた花びらが閉じてくる。

このように内外の細胞層の生長率のちがいが花の開閉運動のおこる原因となっている。たとえば、前に述べたチューリップなどでは、温度が17℃から25℃ぐらいに上昇すると、内側の細胞が急に生長し始めるが、8℃から16℃ぐらいに低下すると、外側の細胞が著しく生長する。この花びらの基部の細胞は温度に対して敏感であって、わずか0.2および1.0℃以下の温度の上昇と下降で、それぞれ開、閉の運動を起こす。クロッカスなどのそれでは、0.5℃の温度の変化で、この運動を起こすという驚くべき敏感さをもっている。
 
いずれにせよ、この開閉運動は温度の変化が主因で、それに植物ホルモンであるオーキシンなどの作用も加わって起こり、開閉運動を繰り返しながら花びらが生長して、咲き初めと散り際とでは、花の大きさに著しい差を生じる。これらの例としては、すでにあげたマツ、ハボタン、クロッカス、チューリップのほかにニホンタンポポ、キソポウゲ、カタバミ、などがあげられるが、このうちクロッカス、ニホンタソポポ、カタバミなどは比較的低温に長く置くと、花びらが開かず、閉じたままはかない一生を終えてしまう。


運動する花首

ここでは、花を支えている茎や枝の先端部、すなわち花首を形成している部分の運動によって花全体の姿勢や向きが変わるいくつかの例をとりあげ述べてみよう。

花の運動といえば、すぐ思い浮ぶものにヒマワリ(ヒグルマ)がある。ぎらぎら輝く太陽のもと、暑い八月から九月にかけて咲く一年草のヒマワリは大きな頭花を横向きにつけ、コロナのような舌状花を配して、その容姿は、まさに太陽の花といわれるにふさわしい植物である。
 
ヒマワリの名は太陽の動きに花がついて回ると考えられたことから起こったものであるが、しかし、ふつうわれわれが知っているヒマワリは花首がとても太く、しつかりしているので太陽の方に向かって咲いているとはいえ、太陽の進行につれて東から西へと花首を回すということはほとんどない。だが、多少は太陽に従って花首がねじれる運動をすることが確認されているので、まったくでたらめな名ではなさそうである。
 
ところで、はっきりと太陽の進行につれて向きを変えるシロタエヒマワリという名のヒマワリが知られている。たくさんの頭花をつけ、やさしい容姿をしているこのシロタエヒマワリでは、第一花から第三花までが朝の七時から午後の四時までの間に太陽の進行につれて東から西へ102度まで回転をし、花の下3センチのところで花首がねじれる運動をすることが確認されている。この花首運動は光の刺激によいって起こるもので、これを傾光性運動とよんでいる。
 
このほか、花首の運動がこの傾光性によって起こるのかどうか明らかではないが、類似の運動をするいくつかの例をあげておこう。
 春ごろ、いたるところに咲く、春の七草の一種である趣年草のハコベ(ハコべラ)の花は天に向かって開き、花が咲き終わると花首のところが曲がり下に向く。そして種子が十分成熟し、果実が裂開するころになると、再び上に向く。
 
五月ごろ、カラフルに咲く越年草のケシの花は蕾の間は花首を曲げて下を向いているが、花びらを開くころになると花首がまっすぐにのびて上向きになり花を咲かせる。春に咲くスミレの仲間や、夏ごろ、道ばたや荒地などに咲く一年草のツユクサなどの花には蕾の間は斜め上に向いているが花が咲き終わると、花首のところがほぼ180度ほど反り返るのが観祭できる。
 
また夏から秋にかけて、水辺などに咲く一年草のコナギやミズアオイ、それに多年草のホテイアオイなどの花では、受粉して花びらが老化するころたくさんの花をつけた花軸の基部のところで急にくの字に曲がり、花ぐるみ水の中につかってしまう。そして種子を水流に托して散布するという。
 
このように花首の花梗などが曲がる運動をする例はそのほかたくさんあげられるが、それら屈曲運動は、いったい何が原因でおこるのか明らかではないが、種子の形成、成熟や散布と深い関係にあるものと考えられる。


花時計

植物は茎や枝、葉などをのばしたあとに、ある条件が整うと、その茎や技に小さな花牙をつくる。それが大せな蕾に生長し、やがて花びらを開く。花の中には、一日のうちのいつでも咲き出すものもあるが、たいていの花では、咲き出す時刻がほぽ決まっている。たとえば、アサガオやハスなどの花は朝早く咲くのに対して、ナデシコ、キキョウなどの花は午後一時以降になって咲き出し、ヨルガオ、マツヨイグサなどの花は夕方にならないと咲かない。
 
また花には、たとえば、フヨウやアサガオなどの花のように、朝開いて夕方閉じたら再び開かないもの、マツヨイグサ、ヨルガオなどの花のように、夕方開いて、翌日中に閉じ再び開かないもの、サクラ、ツツジなどの花のように一度開くと、そのまま数日間咲き続けて閉じるもの、マツバボタンなどの花のように朝開いて、夕方閉じるまでの間に開いたり、閉じたりするもの、タソポポ、チューリップなどの花のように、数日間開いたり閉じたりして花が終わるものや、ランなどの花のように、一度開いたら20日も30日も、長いものだと90日も120日も開いたままのものなど千差万別である。
 
さて、花が開く時刻はいったいどのようにして決められるのだろうか。一般的には、温度と光、植物ホルモンなどが関与し、それに生れつきもった性質が加わっつて開花の時刻が決まっているものが多い。たとえば、すでに述べたクロッカスやチューリップなどの花では、温度が主な要因としてはたらき、その変化に反応して開閉が決められている。
 
このように、一日のうちで、花が咲き出す時刻の早いものから順に並べたものを花時計とよぴ、また一年のうちで、いつごろ、どんな花が咲くかを月別lあるいは季節ごとにまとめたものが花ごよみである。
 
花時計は一八世紀にスウエーデソ生まれの有名な植物分類学者リンネによって考え出されたもので、北緯60度近いウプサラ地方の花をつかって、初めて作られたものである。花の咲く時刻は国によっても、また日当たりなどの気象条件などによっても異なるので、身近な花を観察して自分なりの花時計や花ごよみをつくってみるのもまた楽しいものである。


早起きの花、寝坊の花

アサガオやマツヨイグサなどの開花では、温度はほとんど関係なく、光がおもな要因としてはたらき、それに反応して開閉が決められている。

アサガオといえば、朝早く咲き出す花の代表として、どなたにもよく知られているが、この花がいったいいつの時刻に咲くのかということについては知らない人が多い。私の家のベラソダで、いくつかの大きな鉢でつくったアサガオの開花を、夏の間、ときどき調べてみた。すると日によって多少異なるが、一番早く咲いたもので午前四時ごろ、もっとも遅く咲いたものでは、午前十時ごろで、中には、開かないままで終わってしまった花もみられた。

これらのうち、早く咲いたものは自然下においたものであるが、遅く咲いたものは部屋の電燈(100W)下に夕方から翌日の午前一時ころまでおいてその後、暗い外に出したものであり、また咲かずに終わったものは部屋の電燈(100w)下に、夕方から翌日の午前四時ごろまでおいて、その後暗い外に出したものである。このことから、アサガオの花が開くためには、その前にある一定の暗い条件が必要であることがわかる。
 
それでは、アサガオが開くための準備として暗黒の時間がどれぐらい必要なのだろうか。これまで、いろいろの実験から9時間であることが明らかにされており、私の簡単な処理で調べたこととほぼ一致している。すなわち、アサガオの開花時刻は9時間の暗黒によって決められることになる。したがって、自然下では、だいたい、暗くなってから約九時間後に花が開くと考えてよい。この約9時間という時間を、いったいどのように感知し、花を開くのだろうか。これはたいへんむずかしい問題で、いわゆる植物の内在リズム(生物学的時計)によるものと考えられている。

マツヨイグサの花はアサガオの花とは反対に、夕方、日没前後のうす暗くなる時刻に開き始める。しかし、夕方になっても、ある程度の光を与え、明るいままにして置くと決して花は開かない。そしてやがてその花は開かないまま終わってしまう。それでは、暗くすればいつでも開花するのかというと、必ずしもそうではない。それは、まったく暗黒中に置かれても、この植物は約24時間おきにしか開花し得ないことから、この場合もアサガオと同じように、開花時刻と内在リズムの関係を無視することはできない。

いずれにせよ、マツヨイグサの開花を決める光の要因はアサガオよりもたいへん複雑な関係にあり、光が直接、開花をおさえる作用をもち、また、ある程度暗いことが開花するための必要条件の一つとなっているにはちがいない。
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