都内探歩

            中井 勇二

 小学校五年生の秋(昭和十三年)学芸会で私たち男子クラスは、「コロンブス」を上演しました。コロンブスのアメリカ大陸発見の劇です。私と友人のH君の二人は劇の前座をつとめました。二人の間に、理科室にあった大きな地球儀を置いて、黄金のジパングとして日本が紹介されている、マルコポーロの「東方見聞録」の話をする役でした。こんな経験から地理や歴史に興味を持つようになり、神戸市立図書館から、たまたま大森の貝塚を発見したモースの「日本その日その日」を借りて読み、明治時代初期の日本の歴史が身近に感じられるようになりました。
 越谷に住んで四十六年になりますが、東京へ出る足の便がよく、仕事の休みには都内散歩をしていました。歩いてみて東京が江戸、明治、大正、昭和と身近な歴史を背負っている都市だと思いました。そこで江戸時代から今に至る種々の東京の歴史関係の本を集め読み出しました。
 地図や案内書関係を含めると五十冊は超えます。
 平成十二年に仕事をやめて自由時間ができたのでパソコンによるホームページ作りを始めました。最初に取り上げたのは、それまでかかわって来た埼玉県内の農業用水や排水のことで、越谷市に関係の深い葛西用水と元荒川でした。上流から下流まで歩きましたが、私にとって新しい発見もありよい勉強になりました。そこで次のホームページを「東京探歩」として始めることにしました。そのために同じコースでも、二度、三度と歩いています。東京の街を歩いてみて、江戸時代以後の歴史が身近に迫り、歩く楽しさをからだ一杯感じています。歴史を知るということは、先人達の知恵を学ぶことでもあり、中国では歴代王朝の正史は百年経ってから、残された多くの資料を基に作成されると言います。歴史を情緒的な捉え方をしないで、客観的に見るためのようです。
 喜寿を迎えて感じることは年月の時間が身近になったことです。子どもの頃聞かされた三十数年前の日露戦争の話など、子どもにとってははるか遠い昔話でした。今では三十年はおろか、七十年という時間感覚もよく分かります。高齢になったお陰です。感謝!  

 (なかい ゆうじ)


六本木ヒルズ

―写真撮影 中井勇二兄―
みつばさ2004年3月号「私・・・に夢中です」より

※中井さんのホームページ「歴史に学ぶ」 http://www33.ocn.ne.jp/~jsknakai/