地獄で仏〜ホッとした話〜
林田キヨノ
徒歩で三十分位の所まで出かけた。帰りにはもう薄暗くなっていた。少々あせって近道をした。商店街と違って人影も少なく益々寂しくなった。急ぎ足のせいもあったが、猫が飛び出してはドキッ、木が揺れてはドキッ。
中学校の校舎が見えた時はもう一息と思ったが、校舎が周りを目隠し状態にして益々心細くなった時、後ろからバイクの音。だんだん近づくのが分かる。背筋がぞくぞくして来た。と、すぐ後ろでエンジンが止まった。思わず「神様」と肩に力が入った。もう心臓はバックバック。
その時、聞き覚えのない女の声。「大丈夫ですか、送って行きましょう」。私は上擦った声で「いいえ、もうすぐですから」。「では、角を曲がる迄見ておりますから、足元に気をつけて行って下さい」。「ありがとうございました」とよく見たら、バイクにスーパーの買い物袋が乗っていた。
(はやしだ きよの)