「みことばに聞く」

教会報「みつばさ」5月号より

ただ神に向かえ

牧師 石橋秀雄
「わたしの魂よ、沈黙して、ただ神に向かえ。」
(詩編62編6節)
『日本聖書協会発行『新共同訳聖書』

 2002年度越谷教会の主題聖句は、「神こそ、わたしの岩、わたしの救い、砦の塔。わたしは決して動揺しない。」この詩編62編3節の言葉だ。
 決して動揺しないといっても、動揺してしまう。動揺して胸が引き裂かれるような思いをすることがある。
 「わたしの魂は沈黙して、ただ神に向かう。」と2節にある。  「黙して神の業を見よ」とは出エジプトの出来事で響く神の言葉だ。
 エジプトから解放されたイスラエルの民は「神が与えると約束した地」に向かって歩みだした。ところが、エジプトの王は精鋭の戦車部隊を先頭に全軍を出撃させてイスラエルの民を追いかけた。前は海、後ろはエジプトの軍隊、イスラエルの民は前に進むことも、後ろに下がることも出来ない窮地に落とし入れられた。
 その動揺する民に神の言葉が響く。「主が戦われるから黙していなさい」「黙して主の業を見よ」と主は語られた。この主の故に「わたしは決して動揺しない」と告白することが出来る。詩人もこの主の業を知っていた。だから「神に向かえ」と2節で語っている。
 しかし、この様に語りながら、「この主の業を知りながら動揺するのだ。心が張り裂けるような問題の前に立ちすくんでしまう。
 詩人は動揺している。彼の命を脅かす力が容赦なく詩人に襲いかかる。詩人は自分の惨めな姿を見つめて動揺している。「人を倒れる壁、崩れる石垣とし」(4節)と自分の姿を直視する。もうちょっと押せばこなごなになって崩れて落ちる壁、石垣、それが今の自分だと語っている。  彼は自分の危機を直視する。「神こそ、わたしの岩、わたしの救い、砦の塔。わたしは決して動揺しない。」この言葉を知っていたが故に自分の姿を直視して逃げない。彼は動揺しながら「神に向かう」「ただ神のみに向かう」のだ。
 人生最大の危機の中で「わたしの魂よ、沈黙して、ただ神に向かえ。」と神のみに集中する。  この62編は訳によっては「まことに」が入っている(2、3、6、7、8節)。「神こそ、わたしの岩、わたしの救い、砦の塔。わたしは決して動揺しない。」この言葉は知っていた。2節は「ただ神に向かう」とある。しかし、人生最大の危機の中で動揺してしまった。神の業を知りながら動揺してしまった。しかし、詩人はそこで「ただ神に向かった」。そして「わたしの魂よ、沈黙して、ただ神に向かえ。」と語る。彼は救われたのだ。最後のところで救って下さる主の業を見た。そして「まことに」と告白する。「まことに神こそ、わたしの岩、わたしの救い、砦の塔。わたしは決して動揺しない。」と。



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