「みことばに聞く」

教会報「みつばさ」6月号より

土の器

牧師 石橋秀雄

「四方から苦しめられても行き詰まらず,途方に暮れても失望せず,
虐げられても見捨てられず,打ち倒されても滅ぼされない。」
(コリントの信徒への手紙二 4章8節〜9節)

 化学物質過敏症とはなんと恐ろしい病気だろう.特に多種類化学物質過敏症と病気が進むと,あらゆる化学物質に反応する.蚊取り線香や線香で呼吸困難になって命を脅かされている.信じられないことだが事実だ.農薬や除草剤の揮発物を吸ってしまったら死ぬ思いをしなくてならない.自宅の床のホルマリンに反応して家には長くいられない.近所の蚊取り線香や線香,工場の排煙などあらゆる匂いから逃げ,車で夜を過ごすことも多い.今の医学ではどうすることもできない病だ.きれいな空気を求めて逃げ回る.公衆トイレのクレゾールと芳香剤も大敵だ.
 人間の無力を思い知らせ,人間の力をあざ笑うかのような問題,人間の力の限界を思い知らされるような問題がふりかかってくる.彼らは私たちの社会の,私たちの環境のアンテナだ.このアンテナは人間に危険なものを敏感にキャッチする.彼らが住めない所は,やがて私たちも住めなくなる.人事ではない.
 「四方から苦しめられても行き詰まらず,途方に暮れても失望せず,虐げられても見捨てられず,打ち倒されても滅ぼされない。」(8節〜9節)
 しかし,蚊取り線香や線香,工場の排煙,除草剤に害虫駆除剤,なんと簡単に撒き散らしていることだろう.彼らは「四方から苦しめられて行き詰まり,途方に暮れて失望し,虐げられて見捨てられ,打ち倒されて滅ぼされる。」そんな絶望を味わっている.こわれやすい「土の器」.この「土の器」とは私たちのことである.私たちも,やがてもろく壊れてしまう「土の器」に過ぎない.並外れて偉大な神の力が,宝として「土の器に納められている」(7節)と記されている.
「四方から苦しめられて,途方に暮れて,失望して,見捨てられ,滅んでしまう土の器」の私たちに並外れた偉大な神の力が宝として与えられている.この並外れた偉大な神の力とは,主イエス・キリストの十字架の業である.
「いつもイエスの死を体にまとい,イエスの命がこの体に現れる」とパウロは語る.イエスの死は土の器として,私たちの為に壊れてしまったことを意味する.私たちは土の器として壊れる危機の中でキリストの死と重なっていく.そして,「キリストの命が,その壊れる土の器の体の現れる」と語られている.このキリストの復活の命に与る希望の故に「四方から苦しめられても行き詰まらず,途方に暮れても失望せず,虐げられても見捨てられず,打ち倒されても滅ぼされない。」と告白しえるのだ.  



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