テレフォンカードを売る

未使用のテレフォンカードを買い取ってくれるというチラシがポストにはいっていた。
そう言えばテレフォンカードというもの、携帯電話を持つようになって、ほとんど使わなくなった。強いて言えば、大震災の日、携帯電話が通じず、駅構内に設置された数少ない公衆電話の前に列をなした程度である。

かつて、テレフォンカード全盛期というのがあった。
デジタルカメラもない頃である。ネガフィルムを持参すれば、オリジナルのテレカをお作りします、というのがあった。観光地でとった写真を、その場でテレカに加工しますというサービスもあった。

会社の創立記念では、社屋の全景が写ったテレカが作られ、それが関係者に配られ、それがまたその家族に行きわたり、結果、見知らぬ会社の建物が写ったテレカが、何十枚も手元に残っていたりする。

わたしが持っているテレカの中で圧巻は、母親のおばに当たる女性のオリジナルテレカである。
レストランを経営する息子とふたりで撮った写真をテレカにして、送ってきたのである。
 10数年ほど前だったろうか。当時年の頃、70歳前後。年齢の割に顔だちが派手なので、真っ赤なワンピース姿でも、それほど違和感はない。しかし、やはりインパクトはある。父親似の、顔の大きな中年息子と腕を組んでにこやかに写るテレカは、普段使いにするにも、やはり気がひけたのか、一度も使っていない。
 携帯電話が通じない緊急時に備えて、テレフォンカードの一枚ぐらいは、財布にいれているが、それもできれば花や風景のような無難なデザインのものを持ち歩きたい。
再びテレフォンカードの需要が増すことはないだろう。
それならば、現金に換えられるものなら換えたい。

 そこで、あれやこれや仕分けする。
手持ちのテレフォンカードは多くても、一度も使っていないものは、意外に少ない。
 全部使い切ってから次のを使えばいいものを、どういうわけか、ひとつ、ふたつ穴があいただけのものが多い。
 結果、くだんの「おばさん仕様」のテレカ3枚を含めて、合計13枚を買い取ってもらうことにした。
 未使用で、かつ汚れのないものは、50度数のカード1枚に付き、200円で引きとってくれるという。「鑑定」してもらったところ、200円×13枚=2,600円。なかなかいいお値段である。

かくして、おばさんの記念すべきテレカは、200円×3=600円で人手に渡ることになった。
 身内を売り飛ばすようで、ちらと気がひけたが、考えてみれば、少々派手めで目立ちたがり屋の彼女のこと、私の部屋の押し入れに、日の目を見ることもなくしまいこまれているよりも、自慢の息子とのツーショット姿を全国的に、流通させることができて、本望かもしれない。

もしも再販ショップで、メガネをかけた丸顔の中年男性と、その隣で腕を組み真っ赤なワンピースを着た老女のテレカを見かけたら、所狭し、これが例の女性かもしれぬ、と思っていただきたい。

                             2011/9