【青春のリグレット】

 

 坊主頭で体中の毛が気になり始めた中学生の時分、私は母の薦めで卓球クラブに属していた。母は無類の卓球好きである。先の「夢」の文中に書き忘れてしまったが、私を卓球のオリンピック日本代表選手にしたかったことも、ここに追記しておきたい。
 うちのクラブは部員5名、コーチはいない。練習場は体育館の中2階にある暗い物置の一角、そこにオンボロの台が一台置いてある。担当の教師は年に2〜3回覗きに来るぐらいのレヴェルである。
 それでも一応はクラブなので、他の中学校との交流試合や県大会に向けた予選会などにも声がかかるのだが、そこはまさに下手の横好きで、身の程がどうであれ勝負したいという気持ちになるものだ。敵の中には、バッティングセンターにある玉投機のようなマシーンで打ち込みをしたり、中国人のプロコーチをつけて練習しているといった、いわゆる I ちゃんクラスの卓球狂がいることも知っている。まず、そんな奴等と当たったらサーブすら拾えないのだが、我々のような弱者としては、折角子供の活躍を期待して見に来ている両親の前で、こちらにも若干の華を持たせて頂けるよう穏便に願いたいのである。しかし、敵はまるでライオンがシマウマを襲うかのように、これでもか!というぐらい苛めてくれる。この惨状が仲間の試合だったりすると、いたたまれなく、目を覆わずにはいられない。当の本人はその場から尻を出してでも逃げ出したくなるぐらい、羞恥心を覚えるものである。
 よって、我々としては同レベルか、よほど才能の無い者と当たることを円陣を組みながらひたすら念ずるのだが、それこそ試合に勝つより困難を極めたのは言うまでもない。

 2年生の秋、試合が開催される隣町まで遠征に出かける。結果は、わき目も振らず連敗街道まっしぐら。いつも同様、早々に退散しようとヘルメットかぶろうとした、その時である。私の目にものすごい閃光が差し込んできた。それは、今までに経験したことがないものだった。
 光の先には、全く同じ容姿の双子と思われる卓球女子がいた。ピンク色のシャツに黒い短パン。その短パンから伸びる白く、細く、長い足。袖口から伸びる細く白い腕。艶のある髪はポニーテール。今も当時も164cmの私の身長よりも遥かに高かった。無論、誰が見ても美少女である。卓球の腕前も相当なもの 。二人ともサウスポーでシェークハンドを巧みに操る。まるで風を切るかのようなキレのあるカットサーブ、加えて、相手のカットをものともしないバックハンドでの強烈なドライブなど、まるで妖精が空を舞うような華麗なモーション。これこそまさに耽美というべき光景を目の当たりにするにつけ・・・。

 我が中学校では高校受験に差し障りがないよう3年生の春でクラブ活動は終了する。つまり彼女達と会えるのもあと数回。その数回のチャンスを逃してはならない。
 それから一ヵ月後の日曜日、試合が開催された。期待通り彼女達も来ていた。私は例により自分の試合をとっとと終わらせ、早速もってきたバカチョンカメラでの撮影を開始した。しかし、この撮影というのがなかなか難しい。気づかれないように隣の台の下に潜んだり、または体育館の2階部分から望遠で撮るなど、あらゆる手を尽くした。しかし、のべつ何十枚も写していると、さすがに彼女たちもフラッシュを意識し始めた。本日はこれにて退散である。
 写真には実は目的が二つあった。一つは観賞用として、二つはゼッケンに書かれた中学校名と名前を知るための記録としてである。写真を現像してみると、よしよし、目的は達成できたようだ。
 いよいよ、作戦開始を待つのみとなった。
  
 3年生の春の一日、授業が終り、クラブ活動の同志でもあり、悪さをするときに必ず一緒だった森君、富岡君を引き連れ、隣町の彼女達が通う中学校に赴いた。何を隠そう、私は生涯初めてのコンフェッションを試みようと考えたのである。
 体育館を発見し、外の鉄格子の窓からこっそり中を覗いて見る。いるいる。今日もまた妖精が汗を流して練習に明け暮れている。美しい。
 2人の同志とさらに作戦を練る。「タイミングは何時がよかろうか」「練習中は無理だろう、しからば、終了を待って校門で待ち構えるのが良策ではないか」
 成功するか否か、成功した暁にはどういったお付き合い方をすればよいのか、そんなことは目下問題ではなかった。とにかく、告白することだけ。
 日が暮れ、練習も終った。我々はいそいそと校門に向った。
 しばらくすると、制服に着替え、楽しそうに話をしながら二人がやってくる。
 ドキドキの絶頂、遂に、その時がきた。


 「あ、あたがすいとっけん、つ、つ、つきあっちゃって」


 坊主頭を下げた。少々ドモってしまったが、想いは通じたに違いない。

 顔を上げてみると、二人は眉間に皺を寄せ、
 「どっちに話しかけとっと?あた、どこん人ね」と。
 し、しまった!この全く同じ容姿をした女子二人のうち、どちらが好きとか考えたことは一度もなかった。しかも、まさか双子に上下関係が存在することなど、つゆも知らなかった当時の私。「どちらでも良いです」などと失礼なことを言える筈もなく、咄嗟に「ごめんなさい」と言い放ち、その場を猛ダッシュで逃げ去ってしまったのである。


 今になってみると、あの時、「妹、もしくはお姉さんのほう」と答える術を知っていたならば、あれから明るい未来はあったのだろうかと、ふと若かりし頃の自分を振り返ることがある。
 

 「笑ってはなせるね・・・」

 大好きな‘麗美’の歌ではないが、青春のリグレットとして。

2004.4.29 作者不詳