David Lasley “YOU BRING ME JOY”

こん太

 やっと、僕の大好きなシンガー・ソングライターで、バック・シンガーとしても知られるデヴィッド・ラズリー(David Lasley)を紹介できる時が来ました。 素敵な曲をたくさん書き、その“声”も独特の魅力を持つデヴィッド。また彼は、雑誌「The Advocate」の96年11月12日(No.720)号によれば、“an openly gay singer-songwriter”でもあるという人物。しかしデヴィッドがこれまで発表してきた5枚のアルバム(グループROSIEとしての2枚とソロ・アルバムの3枚)は、残念ながら全て廃盤となってしまっていたため、彼について皆に知ってもらいたいとずっと思いながらも、これまで紹介出来ずにいました。それが嬉しいことに、彼が82年に発表したファースト・ソロ・アルバム「MISSIN' TWENTY GRAND / 風のファルセット」が今年(1999年)10月頃、日本で世界初CD化されるというので、ようやくその機会がここに到来しました!

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 デヴィッド・ラズリーは1947年ミシガン州ソールト・セント・マリー生まれ。同州デトロイトを発祥の地とするモータウン・サウンドの全盛期を、そこから250マイルほど離れた土地で体験しながら育つ。彼はまた、ダーレン・ラヴ、ロネッツ、アリサ・フランクリンといった黒人女性シンガー達が大好きで、彼女達に影響を受けて音楽を続けていった。彼は歌うだけでなくその頃から曲作りも始め、マキシン・ブラウン(60年代にヒットを飛ばしたポップ・ソウル歌手)が、彼の曲をレパートリーに取り入れてくれたこともあったという。その後70年代のはじめ、ミュージカル「ヘアー」のツアーに2年程関わり、その間にそれ以降音楽活動を続けていく上で彼をバックアップしてくれるような仲間と数多く知り合う。そして70年代の半ばに、Lynn Pitney、Lana Marranoという女性2人とグループROSIEを結成し、RCAより76年に「BETTER LATE THAN NEVER」、78年「LAST DANCE」という2枚のアルバムを発表。それらのアルバムはヒットしなかったものの、彼のファルセット・ヴォイスとソングライターとしての才能は一部では注目されたようだ。実際、ROSIEのファースト・アルバムに収められた名曲ふたつ、〈ROLL ME THROUGH THE RUSHES〉はチャカ・カーン、〈SAFE HARBOR〉はキキ・ディーによって後に歌われ、より広く人々に知られるようになる。この時期にバック・ヴォーカリストとしてボニー・レイットやジェイムス・テイラー等のツアーやレコーディングに参加し、セッション・シンガーとして、またソングライターとしてもその後、大活躍することになるのである(注:左上の1979年の写真に、ジェイムス・テイラーとカーリー・サイモンのバックで歌うデヴィッドとアーノルド・マッカラーが小さくですが写っています)。

 僕がデヴィッド・ラズリーを知ったのは、彼が78年に女性作詞家のアリー・ウィリス(註1)と作ってリタ・クーリッジが歌い、後にパティ・オースティンやラニ・ホールにも取りあげられた〈LOVE ME AGAIN〉という美しいバラードだったが、さらに彼に興味を持ったのは、彼が80年にピーター・アレンと共作した〈SOMEBODY'S ANGEL〉〈I DON'T GO SHOPPING〉によってであった。この2曲の傑作バラードはアレン自身が歌ったのはもちろん、前者はディオンヌ・ワーウィックに、後者はパティ・ラベルやルルにもレコーディングされ、彼女達の歌唱でも知られるものだ。少し変わったタイトルを持つこの歌〈I DON'T GO SHOPPING〉はデヴィッドがアレンに“ショッピングについての歌を書こう”と提案した時に、アレンがいらつきながら答えた返事“I don't go shopping.”がそのまま曲名になり、そこからひとつの歌が完成したという面白いエピソードが残っている。またこのアレンとデヴィッドのコンビは同じく80年、竹内まりやに〈SWEETEST MUSIC〉を書き下ろしていて、その頃から日本でも彼の名は一部の人の知るところとなる。こちらは、一変してスピード感のあるアップテンポの作品だった。

 他にデヴィッドがソングライトに関わった曲は、ボズ・スキャッグスの〈JOJO〉、パブロ・クルーズの〈HOW MANY TEARS?〉、彼と同じくファルセットの歌手デヴィッド・ピーストンの〈THANK YOU FOR THE MOMENT〉、10年程前マドンナが気に入ってプロデュースしたこともある(今のリッキー・マーティンみたいなもの?)美男のニック・ケイメンの〈HELP ME BABY〉など、いくつかは男性にも歌われてはいるが、デヴィッド自身女性歌手に影響をうけてきたことも関係するのか(それともジェンダーの問題か)、圧倒的に女性シンガー歌われることが多く、また結果的にも素晴らしい出来のものが多い。
 その中でも個人的に僕が一番好きなのは、86年にアニタ・ベイカーが取り上げた〈YOU BRING ME JOY〉である。この曲、80年にノーマン・コナーズ(フュージョン系のプロデューサーでドラマー)のアルバム「TAKE IT TO THE LIMIT」の中でMiss Adaritha(Ada Dyer)によって歌われたのが実はオリジナルであることを最近知ったのだが、そのシンプルだがせつない歌詞が、アニタ・ベイカーの深みのある声によって見事に表現され、最高に胸にせまりくる。もちろん彼女が歌うこの曲を聴いた時、僕はもうデヴィッドがゲイであることを(彼自身のアルバムの歌詞などから)確信していたので、女性で(たぶん)異性愛者のアニタ・ベイカーが歌っていようとも、僕にとってはこの曲は男から男への歌であり、ずっとそのように解釈して聴いていたのであるが…。アニタ・ベイカーの大ヒット・アルバム「RAPTURE」に収められているので、歌詞を味わいながら是非とも聴いていただきたい大傑作だ。

 デヴィッドは素晴らしい曲を書くことができるだけでなく、売れっ子のセッション・シンガーとして数多くのレコーディングにバック・コーラスで参加していて、上に述べたアーティストたち(の多く)の他にも、ベット・ミドラー、リンダ・ロンシュタット、シック、ブレンダ・ラッセル、シシィ・ヒューストン、デブラ・ロウズ、デヴィッド・サンボーン、マイク・マイニエリなどのアルバムで彼の声は聞くことが出来る。彼の突き抜けるようで、時に女性の声かと聞き間違えるほどハイ・トーンでソウルフルな声は、アルバムのクレジットを見なくてもはっきりとわかるほど大変特徴的であり、僕にとっては聴いていてとても気持ちいい、何か心を高揚させるようなものを持っているのだ。そんな彼のコーラス・ワークの中で個人的に特に気に入っているものと言えば、シェールの79年のディスコ・ヒット〈TAKE ME HOME/誘惑の扉〉、デビー・ブーンの同じく79年の〈WITH ALL OF MY LOVE/あなたを愛して〉、ボニー・レイットの91年の〈I CAN'T MAKE YOU LOVE ME/夕映えの恋人たち〉の3曲ということになろうか。この3曲もそうなのだが、デヴィッドがバック・ヴォーカルを担当する際、彼の親しい友人で84年に発表したファースト・アルバム「A PART OF ME THAT'S YOU」が最近(1999年に)日本でCD化されたアーノルド・マッカラー(Arnold McCuller)と一緒のことが多く、彼らふたりの紡ぎ出すハーモニーの美しさはまさしく、彼らに与えられた“the world's best backup singers”の名に恥じないものである。また、デヴィッドは、ルーサー・ヴァンドロスとも大変仲が良く、無名時代にはこのデヴィッド、アーノルド、ルーサーの3人で出したレコードもあるという(註:追記*)。実は僕は昔から、彼らはみんなゲイではないかと、思っているのだが…。少なくともこの3人、マッチョなジェンダーの持ち主ではないことは確かだ(追記:ルーサーは彼のセクシュアリティを問う質問に対し、2002年1月に“僕の性的指向に対する疑問は、疑問のままにしておくさ…。それについて話すつもりもないし。ただ「お前には関係ないだろ!」と言うだけだね。”と発言。ということは…)。

 さて、このようにソングライターとしてもバック・ヴォーカリストとしても華々しい成果を残してきたデヴィッドなのだが、それらに比較すると彼自身が主役のソロ・アルバムとなると、それほど良い結果をのこせていないのは残念なことだ。82年、84年、89年と3枚のアルバムを発表したデヴィッドだが、その中では、でも、今回CD化される予定のファースト・アルバム「MISSIN' TWENTY GRAND / 風のファルセット」が一番出来がいい。その後作られた2枚のアルバムよりも、彼の色んな面を知ることが出来るし、また丁寧に作られているような感じを受ける。全10曲収められているが、そのうち4曲を除いてすべてデヴィッドのペンによる作品である(共作を含む)。トッド・ラングレンのグループ・ユートピア(Utopia)のドラマー、ウィリー・ウィルコックス(註2)と共作した2曲のうちのひとつ〈GOT TO FIND LOVE〉は、先にポインター・シスターズによってとりあげられていたもので、彼女達のヴァージョンと聴き比べてみるのもおもしろい。もうひとつこのコンビで作った〈NEVER SAY〉はサウンド的にはビージーズ風であるが“恋人同士らしき2人の少年”が出てくる歌詞が興味をひく。デヴィッドが単独で書いた4曲の感傷的な歌詞もなかなかよく、そのうちのひとつ〈ON THE THIRD STREET〉の歌詞にはドラァグ・クイーンも登場。デヴィッドの昔からのアイドル、アリサ・フランクリンの歌で有名な〈TAKE A LOOK〉をとりあげているのは彼の原点回帰とも言えそうだし、デヴィッドのコーラス・ワークを大変気に入ったというジェームス・テイラーの作品を歌った〈LOOKING FOR LOVE ON BROADWAY〉、そして82年の発表当時、全米チャート36位のヒットを記録したという〈IF I HAD MY WISH TONIGHT〉はランディ・グッドラム(註3)作の良質のポップスである。また、ウディ・アレンの映画に同名のタイトルがある〈TAKE THE MONEY AND RUN〉という歌にも注目。この曲はDon Paul Yowell(註4)という人物によって書かれたものだが、前記のアーノルド・マッカラーの94年のセカンド・アルバムの中の記述によると、彼はエイズで亡くなったそうだ。アルバム・ジャケットの水彩画も涼し気な色使いが素敵だし、今回このアルバムのCD化にあたって、ボーナス・トラック4曲が追加収録される予定らしいので、こちらも大変楽しみだ。

 その後出た彼の2枚のアルバムについても少しだけふれておくと、84年のセカンド・アルバム「RAINDANCE」はWAS(NOT WAS)のドン・ウォズがプロデュースしたもので全10曲すべてデヴィッド作によるものであった(共作含む)。その中からの2曲が12インチ・リミックス・シングルで出たり、後に〈NEXT TIME〉がボーイ・ジョージ、〈WHERE DOES THE BOY HANG OUT〉がテイラー・デインにとりあげられたりしたが、これといってメインになる曲もなく、またデヴィッドの自嘲的なニュアンスの歌詞が、どうも聴いていてつらい。個人的にはあまり好きになれなかったアルバムだった。
 5年後の89年発表の3枚目のソロ・アルバム「SOLDIERS ON THE MOON」は編集やオーバー・ダビングなしで、ライブ一発どりでレコーディングされたものらしく、バックもいたってシンプル、デヴィッドのヴォーカルにスポットを当てたものだ。このアルバム、半分ぐらいはいいところもあるのだが、全体を通して聴くとかなりしんどい。バック・コーラスではあれ程光る彼なのだが…。自作は3曲と少なく、残りの8曲はスタンダードの〈SINCE I FELL FOR YOU〉〈GOD BLESS THE CHILD〉やキャロル・キングの〈IT'S TOO LATE〉ランディ・ニューマンの〈I THINK IT'S GOING TO RAIN TODAY〉アリサ・フランクリンの〈WITHOUT THE ONE YOU LOVE〉などカバー曲が中心。自作では上記の大名曲〈YOU BRING ME JOY〉を自ら採りあげているが、その歌唱はアニタ・ベイカーには遠く及ばず、オードリー・ヘップバーンに似た女の子への恋心を歌った(!?)〈AUDREY〉にはちょっと混乱させられた…。

 そういった訳で、当然その後10年間今(1999年10月現在)にいたるまで、彼の新しいアルバムはリリースされていない。でもソングライターとしてはそこそこ活躍中で、リータ・ギャロウェイに〈THE NAKED TRUTH〉、ボニー・レイットに〈I AIN'T GONNA LET YOU BREAK MY HEART AGAIN〉、ホイットニー・ヒューストンに〈DANCIN' ON THE SMOOTH EDGE〉を提供し、またデヴィッドの古くからの友人で、レズビアンであることをカムアウトしているソングライター、マーシャ・マラメ(Marsha Malamet)と共に、チャカ・カーンの〈THIS TIME〉、アーノルド・マッカラーの〈CHANGE ALL OF THAT〉、ルーサー・ヴァンドロスの〈CRAZY LOVE〉を書いている。そしてゲスト・ヴォーカリストとしては、ゲイでエイズ・アクティヴィストでもあったマイケル・カレン(Michael Callen)の遺作で、96年にリリースされた2枚組アルバム「LEGACY」(CD番号 SIGNIFICANT OTHER SO951)において、Don Paul Yowell作の〈WARM AS THE WIND〉をマイケルとデュエットしている。こういったところが彼の比較的最近の活動のようだ。

 これまでのソロとしてのキャリアが成功したとは言えないデヴィッド。今後、彼の新作ももう出ないかもしれないが、それでもやっぱり彼の良さがわかり、どこかで彼のことに注目している人がいることを、今度の再発によって知ることができ、僕は大満足だ。今回CD化される「MISSIN' TWENTY GRAND / 風のファルセット」は、決して万人うけするような大名作ではないが、彼の“声”とその実直さが不思議な魅力を醸し出している、僕の推薦盤である。

(追記:デヴィッド・ラズリーのレコードはその後、驚くことに続々とCD化され、2002年4月現在、ROSIEの「BETTER LATE THAN NEVER」「LAST DANCE」、ソロ作品「MISSIN' TWENTY GRAND 」「SOLDIERS ON THE MOON」、その他「DEMOS」「EXPECTATIONS OF LOVE」「BACK TO BLUE-EYED SOUL」の各アルバムが入手可能となっています。なお、デヴィッドのオフィシャル・ページはこちら。)

(註1) Allee Willis 彼女と共作でデヴィッドはボニー・レイットとキャロル・ダグラスに〈I GOT YOU ON MY MIND〉、ヴァレリー・カーターとクリスタル・ゲイルに〈THE BLUE SIDE〉、パティ・ラベルとラニ・ホールに〈COME WHAT MAY〉(スペイン語ヴァージョンのタイトルは〈LO QUE SIENTO HOY POR TI〉)、マキシン・ナイチンゲールに〈LEAD ME ON〉、 マンハッタン・トランスファーとマルコム・マクニールに〈SHAKER SONG〉、ラニ・ホールに〈NO STRINGS〉、笠井紀美子と101 Northに〈I WISH THAT LOVE WOULD LAST〉を書いている。Allee Willis の作品リストはアリー自身のページへ。

(註2) Willie Wilcox 彼とデヴィッドの共作は他に、ジェニファー・ホリデイの〈I'M READY NOW〉、ナタリー・コールの〈NOBODY'S SOLDIER〉、ディオンヌ・ワーウィックの〈CLOSE ENOUGH〉、グレイス・ケネディの〈MISSING YOU〉などがある。

(註3) Randy Goodrum アルバムも数枚発表しているシンガー・ソングライターの彼とデヴィッドは、アンジェラ・ボフィルに歌われた〈TELL ME TOMORROW〉を共作している。

(註4) Don Paul Yowell 彼は単独でフィービ・スノウに〈MR. WONDERING〉、マイケル・カレンに〈WISH I HAD A DIME〉〈YES I'LL TAKE MY CHANCES〉を書き、デヴィッドとの共作ではアリサ・フランクリンにとても美しい曲〈THERE'S A STAR FOR EVERYONE〉を、マイケル・カレンに〈SMALL TOWN CHANGE〉を提供している。興味深いソングライターである。デヴィッドは3枚目のアルバム「SOLDIERS ON THE MOON」を亡きDonに捧げている。

★この文章は、GAY-FRONT関西の機関誌「ぽこあぽこ/Poco a Poco」13号(1999年10月1日発行)に掲載されたものです(一部訂正・加筆しました)

THE GOOD VIBRATIONS / I GET AROUND (1978)
MILLENNIUM RECORD MNLP 8008
PRODUCED BY STEWART LEVINE

VOCALS CONCEIVED & ARRANGED BY : DAVID LASLEY, ARNOLD McCULLER, LUTHER VANDROSS
(A)
01. I GET AROUND (Brian Wilson) 6:30
02. GOOD VIBRATIONS (Brian Wilson, Mike Love) 7:26
(B)
01. DON'T WORRY BABY (Brian Wilson, Roger Christian) 7:48
02. DARLIN' (Brian Wilson, Mike Love) 5:49
03. GOD ONLY KNOWS (Brian Wilson, Tony Asher) 4:02
2002.11.28.追記*:
デヴィッド、ルーサー、アーノルドの3人が歌ったレコードを入手しました。内容は1978年という時代柄か、あのカサブランカ・レコードが配給するMILLENNIUMというレーベル柄か、ビーチ・ボーイズのディスコ・カバー集!!スカスカの音がなんとも安っぽくてマル?おまけにジャケット写真はデヴィッドのドラァグ姿です(ウソ)。