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木村言語研究所報告
【ドラマ鑑賞ノート】


我流読み解き太王四神記

副所長@木村言語研究所


この鑑賞ノートは、2008年7月5日から7日にかけて当サイト内の「たこ焼き村の掲示板」に投稿した文章に修正を加えたものです。

韓国ドラマ『太王四神記』(2007)を視聴して感じたことを、物語の核心に限定し、あらすじ仕立てで書いてみました。

既にさまざまな感想・解釈がさまざまなスタイルで語られている中で改めて公開するのは「ひょっとしたらこれってユニークかも♪」という図々しい思い込みがあるからですが、例によって連れ合いのそそのかしがあったことも記しておきます。






神話

人間の争いを見かねた神の子ファヌンは、
「弘く人を益せよ」との天帝の命を受けて降臨しました。

ファヌンは「チュシン国」を建てて王となり善政を敷きますが、大きな過ちも犯します。
天意に従順なひとりの女を愛したために、
天意に逆らうもうひとりの女―
地上の統率者だった火の巫女の生きる理由を奪うことになってしまいました。
女たちの感情がぶつかり合った結果、地上は大惨事に見舞われます。
人間に疎い神の子には、人間をうまく治めることができなかったのです。

ファヌンは自分の私心が引き起こした混乱の後始末を後世に託し、
天に帰って行きました。
真のチュシン王の誕生を予言する言葉と、
王を導き助けるであろう四つの神器を残して。

天とは気まぐれで無責任なものです。
それでも地上の人々は広大な楽園チュシンの記憶を語り継ぎ、
天が遣わす王を待ち続けて、二千年がたちました。





太子タムドク

ファヌンの血を受け継ぐ高句麗太子タムドクの望みは、愛する女性キハと生きること。
いとこのホゲに王座を譲り、自分は宮殿を出たいと父王に訴えます。
貴族も民衆も、勇猛果敢なホゲの即位を望んでいました。
それなら、自分が王位を辞退すれば無用な争いは避けられる。
タムドクはそう考えたのでした。

予言の星が輝く晩に生まれたタムドク。
彼こそが真のチュシンの王であり、いにしえのチュシン国を再建するはずなのです。
息子を王にすることが天に与えられた自分の役目と信じる父は、
思い切った行動に出ました。

タムドクを目覚めさせるには、キハとの仲を裂かねばならない。
父王は叛乱軍に追われて逃げ込んだ霊廟で自害し、
傍でただひとり自分を守っていてくれたキハに国王殺害の濡れ衣を着せました。

父の目論見どおりにタムドクはキハを殺人犯と誤解して、
激しく怒り、深く傷つき、彼女への想い―私心を抑えつけます。
空ろとなったタムドクの心の中に、ようやく天の予言を受け入れるスペースが生じました。
同時に、新しい女スジニも、タムドクの心に速やかに入り込みます。

父の遺言、キハへの誤解、スジニの励まし、天が顕した奇跡、
それらが絡まり合いひとつの力となって彼を動かしました。
タムドクは天の意を汲み、真の王となることを決心したのでした。





キハ

幼いキハは、四つの神器のひとつである「朱雀の心臓」を身に着けていたばかりに、
苦難の人生を歩むことになります。

ファヌン降臨以前に地上を支配していた部族の末裔「火天会」が、キハを拉致しました。
生まれつき火を操れるキハは、
太古の火の巫女の転生にして朱雀の神器の守り主、大地の母と崇められながら育ちます。
しかし、実態は奴隷と変わりません。
首魁の大長老が妖術でキハの心を操作して、
天を奉じる者たちから主導権を奪い返すために彼女を利用します。

成長したキハは、残りの神器探索のために都で諜報活動をさせられています。
かつてファヌンが降臨した神檀樹の跡には天の力が封印されており、
それを解くために四つの神器と天孫の心臓が必要でした。
大長老は天の力を手に入れて大陸を征服するつもりです。

しかしキハは、寂しく暮らす太子タムドクに恋をしてしまいました。
大長老の命じるままに生きてきた彼女に初めて自分の意志が芽生え、
タムドクが彼女の生きる理由となりました。

「キハ、いつも僕のそばにいろ。
いつでも振り向けば見えるところにいてくれ。」

キハはタムドクの言葉を胸に刻み、彼が健やかであることだけを願って、
母のように、姉のように、見守り続け、彼の友人となり恋人となりました。

ところが、キハがタムドクを愛し信じているようには、彼は彼女を愛し信じていなかった。
タムドクは事実を確かめようともせず、キハを父王殺害犯と決め付けたのです。
しかも彼の隣りには早くも新しい女がいました。
キハは生きる理由を失くし自殺を図りますが、
タムドクの子を宿していたために天が奇跡を起こし、死ねません。

ならば、この子を天に頼らず王にしよう。
大地の母である私が、新しい天を作ろう。

キハは新たに生きる理由を得て、
タムドクの守護者から体制の破壊者へと変貌を遂げました。
タムドクを愛する気持ちに変わりはないけれど、
天意に従う彼の生き方とは相容れない場所に立つこととなります。

しかし、天はどこまでも容赦がありません。
どうせ奪うものなら最初から与えなければよいのに、
キハにタムドクを与えておいてから遠ざけ、子どもを授けながら抱くことも許しません。

キハは自分自身よりも大切なものを二度も失って、
自分がタムドクを鍛錬するための道具として天に利用されてきたことに気づきました。
「私は天と闘う。これ以上、天が地の人に干渉できないようにする」と決意します。
天が去った後の地上が地獄となろうとも、
自分の運命を自分でつくれるほうがよいのだ、と。

キハは目的達成のためにホゲと手を組み、火天会と行動を共にしますが、
それは表向きのことでした。
彼女を突き動かしていたのは、
消えることのないタムドクへの想いと、天に対する強烈な拒否。
天がしつらえた王座からタムドクを引き剥がし、
キハの生きる理由だった彼と共に生き終えることで、
天との闘いを終わらせようとしています。





王タムドク

キハと訣別し高句麗王に即位したタムドクは、
国内の敵対勢力も賞賛する戦績をあげました。
王位を狙っていたホゲは罪を犯して国外追放となり、タムドクの地位は安定しました。
誰もが彼を天の遣わした王と認めたようです。
タムドクは彼なりに考えるチュシンの理想を力説します。
周辺諸国との戦による領土拡張を諫め、
高句麗が中心となる経済圏を構築し、百年の平和を確保しようというのです。

しかし、彼を慰め励ましてくれたスジニが天意を受けて姿を消します。
天はタムドクにまずキハを、次にスジニを与えますが、ふたりとも奪い去りました。
民の幸せのために身を削りながら、タムドク自身は人としての幸せを得られません。
「チュシンの王」という名と引き換えにどれほど多くを失ったことか。

「私は天と闘っているかのようだ。」

王位と神器をめぐる争いで数知れぬ命がなくなりました。
そんな争いの元となった天への反感?
天意と自分の意志との齟齬が生んだ疑念?
無批判に天を崇め過度に天に依存する人々への苛立ち?
タムドクは天の力に頼らずチュシン国を造ってゆきたいと思うに至ります。

しかしその前に、彼には知らねばならないことがあります。

父王は自害だったこと。天意を成就させるために、父自らキハに濡れ衣を着せたこと。
タムドクの王としての歩みはキハの冤罪から出発したこと。

キハに裏切られたとの思い込みが、彼に新しい恋を促したこと。
恋というごく個人的な感情でさえ天意の介入から逃れられなかったこと。

天がチュシン国再建という大義のためにキハを蹂躙したこと。
タムドクも無自覚に天の企みに加担して、彼女の心を切り裂いたこと。

そして、キハが自分自身の意志による人生を切望して天と闘ってきたこと。

タムドクはすべてを知って、取り返しのつかない年月を悔いなければなりません。
王として、ひとりの女性の犠牲から始まった国造りにどんな意味があるのか、
答えねばなりません。
人として、父王の死以降一度もキハとまともに向き合ってこなかったおのれを恥じ、
彼女の孤独と絶望を受けとめてやらねばなりません。

所属する共同体から個人として生きることを禁じられ、
共同体の利益を最優先するよう強制され続けたタムドクとキハは、
片や天に従い、片や天に抗いながら、合わせ鏡の人生を送ってきました。
いつも誰かに守られてきたタムドクの気づきはキハに遅れをとりましたが、
二人はまったく別の道筋を経て同じ地点に到達しつつあります。
そこは、タムドクが人として成長しチュシンの王として完成されるために
用意された場だったのでした。





スジニ

大酒呑みの大飯喰らい、怖いもの知らずで礼儀も知らない。
粗野で、短慮で、男装のスジニは、型破りな女の子。

しかし、しだいに明らかになるように、
彼女は与えられた運命に従順な保守的人物でした。
たおやかなキハがタムドクに試練を与え、
がさつなスジ二のほうがタムドクに癒しを与える。
一見矛盾しているようですが、
天と闘う者と、天の支配に疑問を持たない無邪気な者の違いが現れたようです。

何から何まで対照的なキハとスジニは、
朱雀の神器を守る家に生まれ、幼い頃に生き別れた姉妹でした。
そうとも知らずに再会したとき、
ふたりは同じ男性を愛するようになっていました。

天がスジニに与えた最初の使命は、タムドクとキハとの間を裂くこと。
ふたつめは、ほとんど切れかけているふたりの絆を守ることでした。

愛し合うタムドクとキハの間にくさびを打ち込み、無理やり離そうとしたのは先王ですが、
そのくさびをさらに押し込んだのがスジニです。
スジニはタムドクの前で嫉妬もあらわにキハを非難するかと思うと、
ピエロ的に振舞って王の孤独を紛らわせます。
常にタムドクと一緒に行動して、彼がキハについて深く思考する機会を奪い、
結果的にキハへの断ち切りがたい未練を封じる手伝いをして、
彼が王の任務に専念できるようにしました。

そして、スジニ自身がタムドクの心にしっかり住み着いたところで、ふいに姿を消します。
この世に災いをもたらす伝説の黒朱雀がスジニである可能性が高まり、
身を引いたのでした。

タムドクにとって、キハの裏切り(事実は違うのだが)による古傷よりも、
スジニ不在による新しい痛みのほうが当然生々しく、
彼の意識は一気にスジニへと傾きます。
タムドクの中に残っていたキハへの想いはいっそう深いところに沈められ、
もう見えなくなってしまいました。

旅に出たスジニは、
天が仕組んだ偶然により、キハの産んだ子を育てることになりました。
キハが自分の姉であり赤子の父がタムドクだと知って衝撃を受けますが、
葛藤をかかえながらも立派に子どもを育て、タムドクとの再会の時を迎えました。
彼女が大変な苦労をして守ってきたに違いない子、アジクが、
タムドクとキハを物語の最終地点で引き合わせることになります。

スジニはふたりの間に割って入りましたが、
完全に関係を引き裂く前に踏みとどまり、スジニ自身がくさび―
物を割るのではなく接合を固定させる一片となって、
タムドクとキハの縁をつないだのでした。

火天会大長老が四つの神器すべてを入手し、幼いアジクを誘拐しました。
タムドクは息子を救うために神檀樹跡に向かいます。





タムドク

キハが炎に包まれて空中に浮かんでいます。

アジクの心臓を狙う大長老を、キハは悲痛と憤怒の頂点で退けましたが、
感情の爆発は、朱雀の神器の守り主である彼女を黒朱雀に変えてしまいました。
タムドクは天から授かった弓の力で大長老を粉砕すると、キハと瞳を合わせました。
ふたりで肌を温め合った遠い日以来初めて、
タムドクはキハの心の中に分け入ろうとしています。

神の子ファヌンは、怒りを暴走させ黒朱雀となった妻を射て、火を鎮めました。
天孫タムドクもキハに向かって天弓を構えます。
黒朱雀の炎が世界を焼き尽くす前に、キハの心臓を射抜かなければなりません。

キハが涙を流しながらほほえんでいます。
嬉しいのです。
妹が息子を守り続けてくれたことも、
タムドクがついに自分と向き合ってくれたことも。

キハの望みとは、なんとささやかなものだったのでしょうか。
愛しい人と、思うままに心をかよわせたかった。
大切な人たちが健やかであるよう見守りたかった。
そんなことすら許さない天を排除するために、キハはひとりで闘ってきたのです。

タムドクは炎に揺らめく悲母のほほえみを見つめながら、
まったく突然、キハの命の軌跡を感得しました。
タムドク以上に天意に翻弄されたキハの人生をまるごと抱きとめたとき、
彼はチュシンの王に課された務めを悟ります。
それは、愛と感謝にあふれたこの悲しい女性に矢を放つことではなかった。
天からの自立と、天による統治、
地上の人間はどちらを望むのか?
その問いに答えるのが、チュシンの王がなすべきことだったのでした。

父王の策略によりキハを失ってから
タムドクはひたすら公人として生きるほかありませんでした。
スジニとの恋は、恋を自覚する前に終わっていました。
そんな彼がスジニと再会し、抑え込んできた私心をほとばしらせました。
神檀樹跡の祭壇には四つの神器が並べられています。
タムドクが念じさえすれば封印が解けて天の力と不老不死の命が彼のものとなり、
世界を掌握することができます。

私的幸福と公的栄光の両方を目の前にして、タムドクは一切の欲を捨てました。

天弓が破壊されれば天の封印を解く鍵である神器も壊れ、チュシンの王は死ぬという。
けれどもタムドクはためらいも気負いもなく、
日常のありふれた動作を行なうように天弓を折ります。

真のチュシンとは、天意による王が天意を実現する天の属国などではなく、
人が人を益する所、人の善なる意志が結実する場。
地上の人に天の力は要らない。
人は人の力を尽くしながら、この大地に生きるべきなのだ。

タムドクは命を差し出して、天からの自立を選びました。

「過ちがあれば悔い改め、知らないことがあれば学んでゆくのが人間だ。」

そう語るタムドクの過ちとは、キハを信じ切れなかったこと。
悔い改めた彼が学んだのは、人を信じることでした。

「私は人間を信じる。
最後にはチュシンの国が勝利することも信じる。
私が果たせなかったことは、後世の誰かが成し遂げてくれると信じる。」

長かった誤解と不信の日々を経て、
タムドクは人間への揺るぎない信頼にたどり着きました。
おのれの意志を受け継ぐ者たちの存在を確信したタムドクの精神は、
ここに永遠の命を獲得したのです。

「天の力は天に返す。
だから、もうおまえは大丈夫だ。」

タムドクはキハの闘いが終わったことをささやくように告げました。
彼の滅私の選択が人間を天の縛りから解き放ち、
苦しみぬいたキハにも平安をもたらしました。
キハの放っていた炎が白く浄化されてゆきます。



タムドクはひとり、光の中へ歩み入る。
輝きを増した光が炸裂し、四方に広がり、やがて、
タムドクの精神が大気に満ち渡る。




(2008年6月9日‐7月7日 記 / 9月‐10月 修正)


作  成  日:2008.9.15
最終更新日:2008.10.12
Copyright 2008 副所長@木村言語研究所. All rights reserved.



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