PIANOと私
ピアノは好きじゃなかった・・・子供時代。



思えば、物心がついた頃から私のまわりには、音楽がありました。
音大こそ出てはいないけれどピアノ好きな母は、近所の子供達にピアノを教えていましたし、
父はいつも古ぼけたステレオでモーツアルトのレコードをよく聴いていました。
そんな、音楽好きの両親に育てられました。
夕方になると、あちこちの家から夕食の支度の匂いと共に、ピアノの音が聞こえてくる・・・。
女の子の習い事のトップはピアノ。そんな時代でした。
私も4歳の頃からレッスンをはじめましたが、
私はそんなにピアノが好きにはなれませんでした。
ピアノの前におとなしく座っているのはニガテでした。
外で暗くなるまで走り回っている方が、ずっとずっと好きな、おてんば娘でしたから・・・。


私の両親は、いつでも家の中にピアノの音がある・・・そんな暮らしに憧れていたらしいのです。
そして、
ぜひ、娘を音大のピアノ科へ!と自分達の夢を娘に託したのです。
親が子供に夢を託すという事は、よくある話ですが・・・
これは、子供にとっては大迷惑!!でもありますよね。

でも、あの頃いやいやでも、続けていたからこそ、
ピアノ好きの今の私があるのでしょう・・・から、感謝しなければいけませんが・・・。

思い立つと、即!行動!・・・!!!
・・・の母には今まで何度、驚かされたでしょう!
でも、この時の驚きは、今でも忘れる事が出来ません。
ある日、学校から帰ってみると・・・
昨日までのアプライトピアノが、グランドピアノに変身してるではありませんか!

「いい音で練習しないとね!」と軽く言う母。
目が点!!!というのはこういうことを言うのですよね!
うらやましい環境!のはずですが・・・普通なら。
正直、うれしくなかった私でした。
『ああ〜。もう、逃げられない!!』
・・・という思いだけが重く重く、のしかかっていました。

それでも、おそるおそる、一番はしの鍵盤をそっと押してみる・・・
ちがう・・・。
昨日までの音とはちがいます。奥深い響き・・・?
キラキラした高音、重みのある低音・・・。

練習中のソナチネの第1楽章を弾いて見ます。
モノラルで聞いてた音が、ステレオ再生されたというような感じ・・・。
確かにグランドピアノの音は、惹きつけられるものがあったけれど、やっぱり、練習は苦痛。
元気一杯、外であそびまわる方がずっと魅力的でした。





小学校高学年になっても、状況は変わりませんでした。
相変わらず、他の子が遊んでいるのに、自分は遊べないという気持ちが強く、
ピアノに関しては母がとても厳しかったし・・・
なにしろ授業で疲れて帰って来ても家に着くや否や、まずピアノ!という毎日がすごく苦痛でした。
母に対しては、
・・・そんなにピアノが好きなら自分がやればいいじゃない!と心の中ではいつも思っていましたが、
まさか口に出してなんか言えません!
少しでもミスをしても許さず、怠けようなら平手が飛んでくるのは年中です。
当時は、母に叱られるのが怖くて、仕方なく練習していたというのが正直なところです。



イヤイヤながら続けている日々が過ぎていきますが、
中学から高校進学という頃から、ピアノの方もどんどん難しい曲に入っていきます。
両立も大変だし、何といっても嫌いなのですから進歩も見えない状態が続きます。
自主性もやる気もないのですから、母も早く気づけばいいものを!
そして、とうとう、母の夢が儚く消え去る日が訪れますが・・・。
当の本人の私は、何の未練もなくすっきりとした気分で、ピアノとお別れしたのでした。

こうして、私の音楽の道に進む為のレールは、ここで閉ざされてしまったのでした。

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