「なぁ、美坂。今度の日曜日映画に行かないか?」


休み時間、毎回撃沈すると分かっていても美坂香里にアタックし続ける北川


もちろん香里は即断即決、笑顔で


「嫌よ。」


北川を斬る


これは既に俺達のクラスでは日常茶飯事になっていて気にも留めない出来事だった






ある愛の詩  涼秋



「あいざわぁぁぁ、なんで美坂はあんなに冷たいんだよぉ」


撃沈するたびに俺の席でクダを巻く北川


「まぁ、これも青春の苦い思い出として胸にしまうのも必要な経験なんじゃないのか?」


それを、宥める俺


「俺、何回その必要な経験味わったか覚えてないよ。」


さすがに、撃沈回数がゼロ二桁の大台に乗った男は俺の机で号泣していた


「俺だって、健全な男子高校生なんだ。彼女が欲しいんだよ」


「なら、香里以外の奴にすればいいんじゃないか?」


これは、毎回俺が北川を宥める時に使う言葉だ


そして、必ずといっていいほど北川はクラスに響き渡る大声で


『美坂じゃなきゃ駄目なんだよ!!』


恥ずかしげも無くキッパリと言い放つ


まったく、聞いてるこっちが恥ずかしくなる


もちろん、その叫びは香里の耳にも届いている


だから、今回もてっきりそのセリフが出るものとばかり思っていた


「・・・そうしようかな・・・」


・・・・は?・・・・・


俺は一瞬、自分の耳を疑った


「北川・・・お前、今なんて・・・?」


しかし、丁度その時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った


「じゃあな、相沢」


そういい、北川は席を立った


俺は釈然としないまま北川の後ろ姿を見送った


「祐一、北川君どうしたの?」


名雪がいつもとは違う俺達のやり取りに気になったのだろうか、俺の所へ聞きに来た


香里の奴も俺のほうを見ていたが俺と目が合うとプイっと横を向いた


「さあ、な」


俺はそれだけを言った


放課後


帰りの支度をしていた俺は北川の方をみた


いつもなら「美坂ぁ、一緒に帰ろうぜ」と必ずと言っていいほど香里の席に向かう北川


でも今日の北川はボーっとしていただけだった


どうせ、明日になればまた元の北川に戻ってるんだろう


俺は、とりあえず深く考えるのを止め


「じゃあな」


とだけ北川にいい、教室を出た


廊下を歩いて昇降口へ向かう途中


「祐一ー。待ってよー」


名雪が追いかけてきた


「おう、どうした」


「今日は部活、お休みだから一緒に帰ろうと思って」


名雪はそういい俺の横を歩き出す


「ねぇ、百花屋に寄っていこうよ」


「またか、お前ほんっと百花屋好きだな」


というより、イチゴサンデーというべきか


「うん。美味しいもん」


「言っとくが、奢らないぞ」


俺は先に釘を刺した


「うーーー」


不満げに唸る名雪


「そんな目で見るなって。俺だって財布、かなり軽いんだから」


実際、名雪に毎回奢っていては夏目漱石が一人俺とお別れしなければならない 


高校生である俺には彼との別れは正直かなりキツイ


「今回はワリカンな。じゃなきゃ行かないぞ」


「うにゅ・・・わかったよ」


残念、という様な感じで肩を落とす名雪


何故か罪悪感を感じた俺は


「来月、小遣い入ったら奢ってやるよ」


と、思わず言ってしまった


「ホント!?わーい、祐一大好き」


俺の腕にしがみつく名雪


「ば、ばか。くっつくな!!」


まだ、廊下には下校する生徒が結構いたりする


俺と名雪が付き合っている事は他のクラスの奴でも知っている


周りからは冷やかしの声が上がる


「ぐあっ、離れろ名雪」


「あ、う、うん」


流石に名雪も周りの声が恥ずかしかったのか顔を真っ赤にして俺の腕から離れた


そんな中、俺達の様子を遠回しに見ていた奴がいた


北川だった


俺たちを自分と香里に投影してるのか溜息を吐いた


俺はそんな北川に気付かずに追い立てられる様に学校を後にした




翌朝、俺達は毎度の事ながら遅刻寸前で教室に入った


今日の名雪は特に手強く、起こすのにかなり手間取った


その為、いつもなら担任が来る前には教室に入れるのだが今日は担任の方が一足早かった


「相沢、水瀬。もう少し早く来い」


「ぜ、善処・・します」


肩で息をしながら担任の注意を受け俺は席に着いた


「今日は欠席は北川だけか。若干二名、遅刻ギリギリだがな」


担任の冗談交じりの言葉に俺は驚いた


北川が休み!?


「あの、先生。北川が休みって・・・どうしたんですか?」


思わず俺は質問する


「ん?ああ、今朝連絡があってな。今日は欠席するそうだ。これで我がクラスの皆勤賞はなくなったな」


残念、とでもいう感じで呟く


北川は特に優等生でも無い


でも、入学以来、無遅刻無欠席で皆勤賞でも狙ってるのか?という会話を以前した事があった


その時の北川の答えは至って単純なものだった


『だって、休んだら美坂に逢えないだろ?』


キョトンと当たり前の事の様に答える北川


俺は、その時の事を思い出していた


チラリと香里の方を横目で見ると香里と目が合った


なに?相沢クン


香里は肘を付きながら不機嫌な視線を俺に返した


俺はなんでもないという視線を香里に送り、視線を担任に戻す


担任は連絡事項を説明していたが俺の耳にはほとんど入らなかった


昨日の北川のいつもと違う様子が俺にはどうにも引っかかった


『・・・そうしようかな・・・』


どこか自嘲めいた呟き


あいつ・・・いつもは明るく振舞っていたけど実は傷ついていたのか?


俺はモヤモヤした気持ちで4限目を終えるチャイムを聞いた


今日の授業内容はほとんど頭には入らなかった


昼休み、俺たちは三人で学食へと向かった


俺と香里は無言で歩いていた


学食までの短い距離が今日はやけに長く感じる


「わたし、Aランチー」


名雪は相変わらずだった






学食に着くと毎度の事ながら大繁盛していた


既に席はほとんど埋まりようやく座れたのは昼休みの半分を過ぎた時だった


俺はラーメンをトレイに乗せ席に着いた


「ふう、ようやく昼飯にありつけるな」


「おなかペコペコだよー」


名雪はAランチを乗せたトレーを置き俺の隣に座った


「まったく・・名雪は来るたびにAランチね」


香里は向かいの席に座り購買で買ったパンを取り出した


「だって、好きなんだもん」


「イチゴムースが、でしょ?」


「うー。そうだけど・・・」


「香里だってパンばっかりじゃないか」


俺はからかうように言った


「ここのは、ボリュームがあり過ぎるのよ」


「そうか?安いし、俺たち育ち盛りの身には至れり尽くせりじゃないか」


「でも、太りたくはないわ」


「香里は少しくらい太った方がいいんじゃないか?」


「・・・どういう意味かしら?相沢クン」


ジロリと俺を睨む香里


「べ、別に深い意味は無いって、なぁ、名雪」


身の危険を感じ名雪にバトンを渡す


「大丈夫だよ、走ればすぐに痩せるよー」


「答えになってないわよ。名雪」


溜息混じりに呟く香里


他愛無い会話をしながら食事を続ける俺達


でも、正直、違和感があった


いつもは4人で会話しながら食事をするのが当たり前だった


俺の隣には名雪、そして香里の隣には北川がいた


おそらく香里もその違和感に気が付いてるのだろう


でも、俺も香里も敢えて口にしなかった


一人を除いては


「なんか、北川君がいないと変な感じがするね」


名雪が口にした途端、俺は思わず箸を止めた


「そういえば、昨日北川君となに話してたの?」


構わず名雪が質問を続ける


俺は香里の方を見た


「・・・・・」


香里は黙っていたが俺と視線を合わさない様に横を向いていた


「なぁ、香里・・・」


俺はできる限り自然に香里に声をかけた


「・・・・なに?」


面倒くさそうに俺を見る


「実は北川の奴さ、昨日」


俺は昨日の北川の様子を話し出した






「・・・という訳だ」


要点と若干の俺の感じた素直な印象を香里に伝えた


「そうだったんだ。だから北川君、昨日元気なかったんだね」


名雪は話し終えた俺に相槌を打つように言った


「もちろん、俺の考えすぎで単なる風邪って線も捨て切れないけど、な」


俺はおどけた調子で香里の言葉を待った


「・・・それで?」


香里は俺から視線を外さずに言った


「それでって、お前・・・」


その視線はどこか冷たく俺はとっさに言葉が出てこなかった


「香里・・・」


名雪も普段とは違う顔を見せた親友の様子に戸惑っていた


「別に私と北川君は恋人同士じゃないわ」


「そりゃそうだけど、アイツなりに一生懸命」


「知らないって言ってるでしょ!!」


俺の言葉を遮り香里が怒鳴った


普段冷静な香里にしては極めて珍しい行動に俺は思わず言葉を飲み込んだ


「私の事は諦めるって言ってたんでしょ?なら、それでいいじゃない!!」


まるで押し留めていた感情を一気に爆発させたかの様に声を荒げる


しかし、すぐさま我を取り戻した香里は今の激昂した自分自身に驚いていたかのように見えた


「香里・・・」


名雪が心配そうに尋ねた


「何でもないわ・・・ごめんなさい」


香里は既に普段の香里に戻っていた


ちょうどその時、まるでタイミングを見計らったかのように昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った







コンコンッ


「名雪、ちょっといいか?」


夕食後、俺は隣の部屋のドアをノックした


「うん。いいよ」


部屋から名雪の声がした


俺はドアを開けると名雪の部屋に入った


「実は香里の事なんだが・・・」


あの後、誰が告げる訳でも無しに会話は打ち切られた


「うん。わたしも驚いたよ」


長年付き合っている名雪ですらあの時の香里の様子は以外だったらしい


「まぁ、俺たちがどうこうって話じゃないだろうけど」


「でも、なんか香里、無理してるみたいだったよ」


暫くの間、俺たちはなんとかできないかと話し合っていたが


「やっぱり、俺たちは黙って二人の成り行きを見守るしかないか」


「うん・・・辛いけどそれしかできない、ううん。しちゃいけないんだと思う」


結局、それが俺たちの出した答えだった







「はぁ・・・」


翌朝、俺は心の底から溜息を吐いていた


なんだって、こんな時に・・・・


俺はガラガラに空いている教室の自分の席にいた


手には一枚の手紙が入った封筒


俗に言われるラブレターという奴だ


なんで俺が溜息を吐いているかというと


宛名に書かれていた名前に視線を移す


『北川先輩へ』


可愛らしい女の子特有の字がそこには書かれていた


なんで北川宛のラブレターを俺が持っているのか?至極当然な疑問である


それは、月に一度あるかないかという確率で名雪が早く目覚める日がある


普段全力疾走で登校している分、今日は余裕を持ってかなり早く家を出た


結果、8時前には登校できた


この時間帯、登校している生徒はまだ少ない


余裕で教室に向かう廊下の途中で突然俺たちは呼び止められた


「あ、あの」


声の方を見ると栞や天野たちと同じリボンの色をした女の子が立っていた


「うん?なあに」


隣を歩いていた名雪が答える


「いつも北川先輩といる方ですよね?」


顔を赤くし早口でいう一年生に俺は


「そうだけど?」


とだけ答えた


「あの、これ・・・北川先輩に・・・渡して頂けないでしょうか?」


そういい、表彰状を授与するかのように両手で手紙を俺に差し出す


はい?


俺の思考は一瞬停止した


「あ、あの・・・本当は自分で渡すべきなんですけど・・・すみません」


ひたすら謝る一年生


いまだ硬直している俺の服の裾を名雪が引っ張る


ようやく、我に返った俺は


「き・・・北川って・・・あの北川?」


なんとも間の抜けた声を出した


「はい。いつも一緒にいるのを見たものですから」


真剣な表情で俺と名雪を見つめる


うっ・・・こ・・・断れない・・・


俺は倒れそうになるのを何とか堪えて名雪に目だけで助けを求めた


「わかったよ。ちゃんと渡しておくからね」


名雪は名雪だった


誰だ・・・早起きは三文の得なんていった奴は・・・


俺は心の中でぼやかずにはいられなかった






「はぁ・・・」


俺は先程の出来事を思い出しまた溜息を吐いた


北川・・・なにも最初に貰えたラブレターがこんな時じゃなくてもいいだろう?


タイミングとしてはまさに最悪だ


俺はしばらく渡すべきか悩んだ


しばらくして、クラスメート達が教室に入ってきた


その中には香里や北川もいた


「おっす、北川。もういいのか?」


俺は普段通りに装い挨拶をした


「ん・・・ああ、大丈夫だ」


まだ少し元気が無いようだ


さて・・どうするべきか・・・


手紙を隠すのも一つの選択だ


だけど、あの一年生の真剣な気持ちを考えると俺は躊躇った


まてよ・・・


ふと、俺は一つの事を思いついた


「なんだ、元気が無いじゃないか。仕方ない。いいものをやろう」


芝居が掛かった口調で言う俺


「見ろ。なんとお前にラブレターが送られた」


そういい、俺は例の封筒を掲げた


「へ・・・・?」


北川は目を丸くしている


「お前言ったよな?香里から別の奴に乗り換えるって」


俺はわざと香里に聞こえるように大きな声で言った


「いい機会じゃないか。どうするんだ北川」


「おい、相沢」


「可愛い子だったぞ。こんなチャンス二度と来ないぞ」


「止めろっ!相沢!!」


北川の大きな声に辺りが静まる


クラスの連中が俺たちの方を見る


「・・・とにかく・・ちゃんと読んでやれよ」


俺はそういい、北川に手紙を渡した


「・・・ああ。分かってる」


北川は俺から手紙を受け取ると席に着いた


名雪は俺の机に来ると


「祐一、今のはあんまりだよ」


非難を込めて言った


「ああ、分かってるよ」


俺は横目で香里を見ながら言った


香里は机に座りただ目を閉じていただけだった


「・・・ねぇ祐一?」


名雪が覗き込むように俺を見る


「ん、なんだ?」


「どうして笑ってるの?」


「・・・笑ってないぞ」


内心、ドキッとした


「嘘だよ。今、笑ってたよ」


「名雪。先生が来るぞ」


「うー。はぐらかそうとしてる」


「してないって。ほら、行った行った」


「うーうー・・・わかったよ」


渋々、自分の机に戻る名雪


俺はそんな名雪を見ながら再び頬が緩むのを感じた







放課後


「で、結局どうするんだ?北川」


手紙を読み終えた北川の横で俺は聞いた


内容はというと放課後、屋上前の踊り場で待っていますというものだった


「俺・・・会って来るよ」


そういい、席を立つ北川


チラッと香里のほうを見る


「そっか。まぁ、お前が決めることだからな」


俺はそれだけ言った


北川が教室を出るのを見届けてから俺は席を立った


そして、香里の席に向かう


「香里、いいのか?」


「・・・なにがよ?」


「言わなくても分かってるだろ?」


「私には関係ないわ」


「じゃあ、なんで今朝俺が大声で言った言葉に反応したんだ?」


「別に反応なんかしてないわよ」


「嘘をつくな。お前イラつくと目を閉じる癖があるんだろ?」


これは香里の無意識の癖だ


以前、北川に教えられるまで俺は全く気付かなかった事だが


「っ!!」


言われて驚いたかのように香里は目を開けた


「じゃあ、行くぞ」


「行くって・・・どこによ?」


「決まってるだろ」


そういうと、俺は悪戯の計画を練る子供のように笑った






「わたし、やっぱり帰るわ。」


「待て、ここまで来てそりゃないだろ」


声を潜めながら俺は香里の腕を掴んだ


「こんなの、私の趣味じゃないわ」


「またまた、ホントは嫌いじゃないくせに」


うりうりと肘で突っつく


「覗きなんて最低の人間がやる事だわ」


「覗きじゃないさ」


「じゃあ、なんなのよ。これは」


「親友の一大事だろ。見守ってやるのが男の友情だ」


「私は女よ!!」


「二人とも、静かにしないとだめだよ」


「・・・ねぇ・・相沢君」


「・・・・なんだ?」


「なんで、名雪もここにいるのよ」


「俺に聞くな」


「うー。ひどいよ。わたしだって気になるもん」


俺たち三人は踊り場のすぐ下の階段に張り付いていた


数メートル上では北川と例の一年生の声が聞こえる


俺たちは息を殺して二人の会話に耳を傾けた






「これが私の素直な気持ちです」


例の一年生の声が聞こえてくる


「・・・・・」


「お願いします。わたしと付き合ってください」


声だけしか聞こえないが緊張してるのが十分伝わってくる


「・・生まれて初めてだよ。こんな事言われたの」


北川の声が聞こえた


「ありがとう。凄く嬉しいよ」


「っ!!」


北川の言葉に香里の体が緊張したのが俺に伝わった


「じゃあ」


一年生の声が明るくなる


「・・・でも・・・・ごめん」


北川の意を決したような言葉


「えっ?」


戸惑う彼女


「おれ、どうしようも無い位、好きな奴がいるんだ」


ゆっくりと話し出した北川に声を出せない彼女


「そいつはさ、凄く高飛車でわがままで人を人と思ってなくて、例えるなら女王様って言葉が似合うんだけど」


俺の後ろにいる香里からさっきまでの緊張がみるみる殺気に変わっていくのを肌で感じた


「それでも・・・おれはやっぱりアイツじゃなきゃ駄目なんだ」


「で、でも・・付き合ってるわけじゃないんですよね?」


それでも、食い下がる一年生


「うーん。そこなんだよなぁ」


まるで他人事のように溜息交じりに呟く北川


「実はさ、一番最初にデートに誘った時、そいつなんて言ったと思う?」


「え?」


急な質問に戸惑う彼女


「『北川君とデートなんて99%あり得ないわ』なんて言われてさ。なら、100回誘えば一回はできるってことだ
ろ?」


それは違うと思うぞ・・・北川


「だから、100回誘ったんだけど結局、駄目でさ」


「は・・はぁ」


「それで、昨日学校休んで真剣にアイツの事、考えたんだ。で、結局出た答えなんだけど・・・100回が駄目な
ら1000回誘えばいいんじゃないかってさ」


まるで、自分自身に言ってるかのようだ


でも・・・それも多分違うと思うぞ・・・北川


しばらくの沈黙の後、一年生の彼女が口を開いた


「・・・わかりました・・・私じゃ・・・その人に勝てないですね」


「大丈夫、キミは可愛いからさ・・俺なんかよりいい奴すぐ見つかるよ」


「はい。ありがとうございます。先輩」


そういうと、彼女は階段を降りだした


ま、まずいっ!こっちに来る!!


俺たち三人は慌ててどこか隠れるところを探すが見つからず降りてきた彼女と目が合った


彼女は驚いたような表情をしたが、すぐに視線を逸らせ軽く会釈をして通り過ぎた


彼女は・・・顔をくしゃくしゃにして泣いていた






俺はそっと北川の方を覗き見る


北川は勿体ない事をしたと言うような感じで座り込んでいた


「よぉ、色男」


俺はできる限り明るい声で呼びかけた


北川は座ったまま、力なく首だけを動かした


「なんだ相沢。やっぱりいたのか」


「まぁな」


さすが北川、俺の行動はお見通しだ


「こうなるの、わかってたのか?」


「まぁ、な」


「はは、馬鹿だよなぁ、俺・・」


「全くだ。あんな可愛い子振るなんて滅多にできないぞ」


「うらやましいか?」


「少しな」


俺たちは軽口を叩き合った


すると、階段の方から


「本当に馬鹿よね」


香里がやれやれというような感じで踊り場に上がった


「み、美坂!?」


北川は驚きの余り飛び跳ねた


「アンタの事好きになってくれる娘なんてきっとあの娘で最後よ」


「べっ、別に俺は・・・」


「しかもなに?100回誘って駄目なら1000回ですって?」


「なっ、・・・聞いて・・たの?」


「全く、1000回も断る身にもなりなさいよね」


いや、一回ぐらいはOKしてやれよ


思わずツッコミたくなるのを俺はグッと堪えた


香里を見るとまるで怒ったかのように明後日のほうを向き


「仕方無いから一回だけしてあげるわよ」


「・・・・へっ?」


北川がなんとも間の抜けた声を出す


「か、勘違いしないでよ、仕方無くだからね。いい、分かった?」


「・・・・・・・・」


呆然とするだけの北川


「返事は!?」


「ハ、ハイ!!」


北川は背筋を伸ばし立ち上がった


「よろしい」


顔を赤くし頷く香里


やっぱり、北川が言っていたように女王様って言葉が香里には良く似合う


「なによ?相沢君」


ジロリと俺を睨む香里


「なんでもないぞ」


俺はそれだけ言うと階段を降りた


「待ちなさい!なによ。その含み笑いは!!」


追いかけてくる香里


「うおお、俺はついにやったぞーーー!!」


上からは北川の心の叫びが学校中に響いたのだった






END




あとがき

長げぇよっ!てのが自分の感想です(SSは短く読みやすくが目標なんで)

追記1・タイトルは想良さんに命名してもらいました(この時点では僕も知りません)

追記2・素敵なタイトルありがとうございました


涼秋さんのHP『空色の砂時計』はこちら
です

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