競走馬育成牧場記
3.仔馬の仕事

昼11時頃、いよいよ調教の開始です。育成中の仔馬とは、ないない尽くしの馬です。

>そばに寄らせない
>体を触らせない
>手入れをさせない
>馬装をさせない
>人を乗せない
>扶助がわからない

臆病で繊細な仔馬達をなだめつつ、少しずつ、時間をかけて慣らしていきます。
これが馬が人間から教わる一番最初の訓練であり、ここでの経験が馬の人間観を決めてしまうのです。

>ハートと感覚が大事なんだ
>確かに乗馬の技術も必要だけど、乗馬クラブでは、どうのこうのと理屈うんぬん教わるでしょ?馬は理屈じゃないね
>お前ら育成できんのか?って聞いてみたいよ

と、国体ジャンパーとしても活躍した牧場長。パニックをおこした馬に体当たりされて、馬房の壁に叩き付けられて骨折した胸がまだ痛む
と言っていました。
育成牧場スタッフに無傷の人はいませんでした(^_^;)


仔馬達は2つのグループに分けて調教されます。
人を乗せられる様になった仔馬達は調教用トラックに出て、人間の体重に耐え、扶助を覚えつつ、主に歩く事によって
徐々に筋力を付けていきます。
十分に体がつくれて駆足ができる頃になれば、競馬場に向かう日は近い♪…とはいえ油断大敵の事件も起こります(^_^;)

担当スタッフを乗せて、やっとの思いでヨチヨチ歩いていた仔馬が、担当スタッフを乗せたままペタッとお尻をつけて、
犬の様にお座りしてしまったのです。担当スタッフも仔馬の背をすべり、仔馬のお尻を抱く様に一緒にお座りをする形になってしまいました。
アッと思った瞬間、仔馬だけが勢い良く立ち上がりました。仔馬の後脚は正に担当スタッフの目の前です。
仔馬と言えども300キロを超えています。至近距離で頭部を強蹴された時のダメージなんて想像したくもありません。

>死ぬかもしれない…

そう思ってしまったのはその瞬間でした。幸いな事に、急に体が軽くなった仔馬は、

>あ〜スッキリした

と、言わんばかりの顔で、呆然とした担当スタッフを一人あとに残し、足取りも軽く♪先行馬を追って歩いていきました(-_-)


まだ人を乗せられない仔馬達は、狭い馬房の中で、人間と1対1の恐怖の真剣作業に耐えなければなりません。
入房を拒否し、

>入口で立ち上がって前足で蹴る仔馬
>クルッとお尻を向けて後足で蹴る仔馬
>逃げ回る仔馬

…育成中の仔馬はいつも無口をつけていて、顎に短いヒモを下げてあるので、タイミングをはかってそのヒモでつかまえます。

>タオルやブラシが怖い
>触らせない(特に背中、お腹、お尻は敏感です)
>足をあげない(バランスが悪くなるので、3本足で立つのを怖がります)

…見慣れない物は何でも怖いし、まだあんまり人間にベタベタされた事がないのでドキドキです。

>鞍を乗せない
>腹帯をさせない

…特に敏感な部分に物を乗せ、締めるのですから、たま〜に垂直跳びや体当たりなどの大技が炸裂します(^_^;)
あまりに素晴らしい垂直跳びに、障害馬としての将来を期待されちゃう事も(^O^)

>人を乗せない
>扶助がわからない
…乗る時にバランスが傾くし、重いし、人を乗せているのでバランスが悪いし、何を言われているかわからないしで、
仔馬の目つきが変わってきます。この段階から知力、体力が本格的に養われていくんです。

仔馬達の反応は様々ですが、性格や頭の良さが結果を左右します。人間が自分に何をしようとしているのか?
それを理解しようとする頭の良い仔馬は、調教の進むペースが早いし、スムーズに調教が進むので、嫌な思い出をたくさん作らずに済みます。
闇雲に恐怖から逃れようとするだけの仔馬は、調教に時間がかかり、トラブルを起こし易いので、人間との信頼関係も作り難いのです。
それでも、慣れて一度覚えてしまえば何の事はありません。あの騒動は何だったの?って感じです(^O^)

カガジョウは、人を乗せる段階にはあるものの、

>すぐパニックになっちゃって、そうなるともう全然きかないから…わがままなんだよ

と、担当スタッフの評。子供が悪さをして、幼稚園に呼び出された母親の気分でした(^_^;)