競走馬育成牧場記
2.仔馬の生活

育成牧場の朝6時に朝飼。競馬の仕事は鳥より早いと聞いていたのに…

>歴史が浅いし、小さいし、自由にやってるんだ
>だから、あんまりいい馬こないよ〜
>ウチにくるのは問題のある馬ばっかりよ(^_^;)

と、牧場長。

全力で厩舎の鉄扉を開けると、もう中は大変な騒ぎ!(*_*)お腹が空いている育ち盛りの仔馬達が、猛烈な音をたてます。

>いななく
>蹴る
>前掻きをする
>走り回る
>鉄柵に歯をこすりつける
>体当たりをする(@_@)…etc

やっと知能と体力がついてきたばかりの仔馬達は、あんまり考えずに行動しちゃいます(^_^;)
大急ぎで飼桶に複数の飼料を入れて、大急ぎで各馬房に吊り下げれば、一安心。飼桶はドラム缶素材で鎖がついているので、まるで筋トレです。
今度は、猛烈な勢いで食べる仔馬達が、別の音をたてます♪
平和で満足感のあるひととき(*^_^*)子供の食事を見守る母の気持ちって、こんな感じでしょうか?

その中に、一頭だけ食いの浅い仔馬がいました。アラブの2歳牝馬、鹿毛。最初に私が近づいた時は、馬房の奥に逃げられました(^_^;)
ウサギの様な耳に、鼻先のうぶ毛が柔らかそ〜♪良家のお嬢様だそうで、なるほど上品だけど、小さく細い。
横目で人を見ず、首を高く上げて、真正面からこちらを見る黒い大きな瞳に、長い長いまつ毛♪
育成牧場では、仔馬にニックネームをつける決まりがあって、彼女はカガジョウと呼ばれていました。



朝飼の後は放牧。まずは、放牧場、調教用トラック、馬場、育成牧場の周辺を見回ります。
すぐに柵の入り口を閉めないと、うれしさや不安で興奮した仔馬が人を倒して飛び出してしまう事もあるので、放牧場の入り口をチェック!
見慣れたはずの車でも、駐車場所が違うと仔馬が警戒し、驚いてパニックになる事があるのでチェック!
だから、見慣れぬ物がないか景色もチェック!
その後、口の回りをヘイキューブで緑色に染めた仔馬達を、一頭一頭、放牧場に連れていきます。
狭い馬房の中を逃げ回る仔馬もいるので、放牧に出すのもひと騒動です(^_^;)

>数歩進んでは彫刻になる仔馬(だるまさんが転んだ♪して遊んでる暇はな〜い)
>スイッチが入りそうになって注意される仔馬(サイボーグ009の奥歯についてる様な加速スイッチで、ターボ全開で走ります)

仔馬達の様子は様々ですが、荒れ狂うゴムマリ…なんて感じの仔馬もいました。
アラブの3歳牡馬、芦毛。大きく首を振り回し、跳ね、立ち上がって前足で蹴り、噛む(*_*)
カガジョウは、いつも一番最後にふわふわ♪と出ていきます。仔馬の性格に合わせて、放牧場に出す順番が決まっているからです。
寂しがり屋の馬を一番最初に放牧場に出すと、他の馬がいないのでパニックになる事も。カガジョウは極端な寂しがり屋でした。



仔馬達が放牧場にいる間に馬房掃除。

>スキ、ザル、一輪車で床掃除、軽トラで運搬(潮干狩り業者になった気分です)
>飼桶と水桶の掃除(また筋トレです)

カガジョウの水桶はいつも真緑色によどんでいるので、毎日洗いました。他の仔馬達の水桶は澄んでいて、水を足せば済むのに…
謎の答えは、彼女のお遊びでした(*^_^*)
食いの浅い彼女は、残ったヘイキューブをくわえては水桶に落として遊んでいたんです。
グイッポや前掻き等の悪癖が母親からうつると聞いたけど、ヘイキューブのおかゆ作りを伝承する家系なんてあるんだろうか?
手のかかる彼女とは接する機会も多く、その頃には私にもだいぶ慣れて、鼻でスリスリ♪するようになりました。
その仕草がおっぱいを探しているみたいで、うれしいやら、せつないやら(^_^;)

もうダウンジャケットも着ませんでした。あの衣擦れの音も仔馬達を警戒させていたし、何より暑いし動きにくかった。
やっぱり乗馬スタイルが一番(^_^)v



馬房掃除が終わったら、放牧も終わりです。
放牧場から戻る時は、行く時以上に注意が必要です。安全で落ち着ける馬房に早く帰りたくて、どんな仔馬もスイッチが入りがちです。
仔馬に引きずられて牧柵に激突し、大流血、入院という事故があったばかりだとか(^_^;)育成の仕事は命がけです。
カガジョウを先頭に、行きとは逆の順番で仔馬達を厩舎を戻します。
立ち止まる仔馬は一頭もなく、追い風に吹かれる様にあっさり馬房へ戻ってきます。