山の俳句鑑賞(2)


 新聞、雑誌では読者の投句による俳壇欄を設けている。その俳壇欄での入選において、入選上
位の秀句に入ると選評も掲載される。選者の諸先生は、俳壇の第一人者である。以前、読売新
聞、山岳誌「岳人」に投句していたときの、私の句の選評を次に紹介する。これらの選評が、飛
躍へのステップとなったといえそうだ。


連山に簾掛けたるごと冬木

 「簾掛けたるごと」という比喩に意外性があった。感覚の鋭い句。
(岳人俳壇、皆川盤水先生)


大雪渓風を集めて吹き下ろす

 静を破る一瞬の大雪渓よりの風の迫力。
(岳人俳壇、皆川盤水先生)


岩稜の鎖の艶も夏めけい

 梅雨晴れ間の艶な鎖の一場面をとらえてました。
(岳人俳壇、皆川盤水先生)


焼きながら饅頭売られ神無月

 焼きたてだから香ばしい匂いがするだろう。皮のところだけ焙るのである。
(よみうり文芸、倉橋羊村先生)


マスクして花粉症なることあらわ

 この時期だからあれは風邪のマスクではない ― と見る作者もまた花粉症か。
(よみうり文芸、藤田湘子先生)


雪渓に囲まるる沼魚棲まず

 標高二千メートル以上であろうか。神秘な色をたたえた沼にちがいない。
(よみうり文芸、藤田湘子先生)


凍星や空全体が壁画なす

 冬、満点の星を仰いだときの壮大な感じがとても素直に表現されている。
壁画という縦の構図を、天空に置いて横に見た楽しい句。「空全体が」という
ぶっきらぼうな言い方がいかにも若い。
(読売俳壇、宇多喜代子先生)


木の匂い秋の匂いとなりにけり

 自然界のものにはすべて色や匂いがある。それらは季節によって微妙に変化する。そのもの自
体に変化はなくとも、それをとりまく風や光によって変化する。「秋の匂い」とは、鼻で嗅ぐ匂
いに限定されるものではなく、秋の風光と理解してもいいだろう。
(読売俳壇、宇多喜代子先生)



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