◇-詩集『扉の向こう』より-前川整洋(6/12-20:44)No.141 ┣Re:詩集『扉の向こう』より-小林登茂子(10/19-21:38)No.151 ┗Re:詩集『扉の向こう』より 「扉の向こう」呼んでくださって、ありがとうございます。-小林登茂子(10/19-21:43)No.152 ┗拙句訂正。-前川整洋(10/23-11:19)No.155
141 | 詩集『扉の向こう』より | 前川整洋 E-mail | 6/12-20:44 |
現代詩創作集団「地球」同人の小林登茂子氏から詩集『扉の向こう』(地球社、2003年)を戴きました。小林さんは「地球」の大会や研究会で幹事をされていて、「地 球」の運営を担っています。 『扉の向こう』から2篇紹介します。 扉の向こう 木下順二作「夕鶴」のつう 五十分間に 安らぎ 憂い 迷い 喜び 怒り 希望 哀しみ 祈り 目まぐるしく演じて 白くなって消えていく つう セリフも憶え 日常のシーンも 狂乱のシーンも 別れもシーンも 出来上がったけれど 与ひょうと愛し合うことができない 「ほんとうはあんたが好き」 与ひょうを抱きしめ−ここで 芝居は中断する 扉の前で立ちすくむ 型通り抱き合えばセリフも型通り流れて それぞれが 一人芝居 連日 型を変えて頭 肩 腰を抱きしめる なぜ私たちは抱き合っているのだろう 私はなぜ 芝居をしているのだろう 本番までの一週間 ふと与ひょうの腕が 柔らかくつうを抱きしめてくれるのを感じた そのとき 扉は開き 私は足の先まで 鶴になった モンゴルからの手紙 南ゴビの草原から ウランバートルに向かうプロペラ機 乗り込もうとする私たちを 強い風が追い立てる 旅の終わりを告げるような 八月末の突風 プロペラ機の高度は低い 私は ゴビ砂漠の赤茶けた地肌が広がる窓に 額を押し当て 地平線の彼方へと続いていく 無限を見つめていた 機体が旋回し 下降をはじめる と くるくると カーブを繰り返す緑の帯 幾重にも重なり交じわり 離れては寄り添う ほどいたばかりの毛糸 風に吹かれるままに揺れる 女のカールした長い髪 水の流れの足跡 地下水脈の 透きとおった影 緑の濃淡は生命の強さ あるいは 地下水脈に 比例するのだろうか 生命の源 水が描いた絵 簡単に詩評を述べておきます。 それぞれの詩が、出来事の核心を適確に捉え、読者の心に響くように表現 している。 モンゴル旅行は「地球」主催によるものであることが、「あとがき」に書 かれている。この旅行での一連の詩は、映像では映り出されない、モンゴル の風土の内面が描出されている。 「扉の向こう」では、つうの役を演じている作者の体験が、緊張感ととも に切実に語られている。つうになかなかなりきれない、しかし演じているう ちに役者は役の人物へと変わっていく。それは台詞や演技などが、役者が演 じている人物そのものへと導いているのである、とこの詩からは受け取れ る。 「モンゴルからの絵手紙」は、ポロペラ機から見下ろしたゴビ砂漠を好奇 心とともに眺めていることから詩がはじまり、意外な光景が詩人を待ってい た。地下水脈による緑の帯である。それを絵手紙と断定したドラマチックな 展開を描出している。 「モンゴルからの絵手紙」を拝読して、一句思いつきました。 ゴミ砂漠見渡すかぎり風光る |
151 | Re:詩集『扉の向こう』より | 小林登茂子 E-mail | 10/19-21:38 |
記事番号141へのコメント 前川整洋さんは No.141「詩集『扉の向こう』より」で書きました。 > 現代詩創作集団「地球」同人の小林登茂子氏から詩集『扉の向こう』(地球社、2003年)を戴きました。小林さんは「地球」の大会や研究会で幹事をされていて、 「地 >球」の運営を担っています。 > 『扉の向こう』から2篇紹介します。 > > 扉の向こう > >木下順二作「夕鶴」のつう >五十分間に 安らぎ 憂い 迷い 喜び >怒り 希望 哀しみ 祈り >目まぐるしく演じて >白くなって消えていく つう > >セリフも憶え 日常のシーンも >狂乱のシーンも 別れもシーンも >出来上がったけれど >与ひょうと愛し合うことができない >「ほんとうはあんたが好き」 >与ひょうを抱きしめ−ここで >芝居は中断する 扉の前で立ちすくむ > >型通り抱き合えばセリフも型通り流れて >それぞれが 一人芝居 >連日 型を変えて頭 肩 腰を抱きしめる > >なぜ私たちは抱き合っているのだろう >私はなぜ 芝居をしているのだろう > >本番までの一週間 ふと与ひょうの腕が >柔らかくつうを抱きしめてくれるのを感じた >そのとき 扉は開き >私は足の先まで 鶴になった > > > モンゴルからの手紙 > >南ゴビの草原から >ウランバートルに向かうプロペラ機 >乗り込もうとする私たちを >強い風が追い立てる >旅の終わりを告げるような >八月末の突風 > >プロペラ機の高度は低い 私は >ゴビ砂漠の赤茶けた地肌が広がる窓に >額を押し当て 地平線の彼方へと続いていく >無限を見つめていた > >機体が旋回し 下降をはじめる と >くるくると カーブを繰り返す緑の帯 >幾重にも重なり交じわり >離れては寄り添う ほどいたばかりの毛糸 >風に吹かれるままに揺れる >女のカールした長い髪 > >水の流れの足跡 >地下水脈の 透きとおった影 >緑の濃淡は生命の強さ あるいは >地下水脈に 比例するのだろうか > >生命の源 水が描いた絵 > > 簡単に詩評を述べておきます。 > それぞれの詩が、出来事の核心を適確に捉え、読者の心に響くように表現 >している。 > モンゴル旅行は「地球」主催によるものであることが、「あとがき」に書 >かれている。この旅行での一連の詩は、映像では映り出されない、モンゴル >の風土の内面が描出されている。 > 「扉の向こう」では、つうの役を演じている作者の体験が、緊張感ととも >に切実に語られている。つうになかなかなりきれない、しかし演じているう >ちに役者は役の人物へと変わっていく。それは台詞や演技などが、役者が演 >じている人物そのものへと導いているのである、とこの詩からは受け取れ >る。 > 「モンゴルからの絵手紙」は、ポロペラ機から見下ろしたゴビ砂漠を好奇 >心とともに眺めていることから詩がはじまり、意外な光景が詩人を待ってい >た。地下水脈による緑の帯である。それを絵手紙と断定したドラマチックな >展開を描出している。 > >「モンゴルからの絵手紙」を拝読して、一句思いつきました。 > ゴミ砂漠見渡すかぎり風光る |
152 | Re:詩集『扉の向こう』より 「扉の向こう」呼んでくださって、ありがとうございます。 | 小林登茂子 E-mail | 10/19-21:43 |
記事番号141へのコメント 前川整洋さんは No.141「詩集『扉の向こう』より」で書きました。 > 現代詩創作集団「地球」同人の小林登茂子氏から詩集『扉の向こう』(地球社、2003年)を戴きました。小林さんは「地球」の大会や研究会で幹事をされていて、 「地 >球」の運営を担っています。 > 『扉の向こう』から2篇紹介します。 > > 扉の向こう > >木下順二作「夕鶴」のつう >五十分間に 安らぎ 憂い 迷い 喜び >怒り 希望 哀しみ 祈り >目まぐるしく演じて >白くなって消えていく つう > >セリフも憶え 日常のシーンも >狂乱のシーンも 別れもシーンも >出来上がったけれど >与ひょうと愛し合うことができない >「ほんとうはあんたが好き」 >与ひょうを抱きしめ−ここで >芝居は中断する 扉の前で立ちすくむ > >型通り抱き合えばセリフも型通り流れて >それぞれが 一人芝居 >連日 型を変えて頭 肩 腰を抱きしめる > >なぜ私たちは抱き合っているのだろう >私はなぜ 芝居をしているのだろう > >本番までの一週間 ふと与ひょうの腕が >柔らかくつうを抱きしめてくれるのを感じた >そのとき 扉は開き >私は足の先まで 鶴になった > > > モンゴルからの手紙 > >南ゴビの草原から >ウランバートルに向かうプロペラ機 >乗り込もうとする私たちを >強い風が追い立てる >旅の終わりを告げるような >八月末の突風 > >プロペラ機の高度は低い 私は >ゴビ砂漠の赤茶けた地肌が広がる窓に >額を押し当て 地平線の彼方へと続いていく >無限を見つめていた > >機体が旋回し 下降をはじめる と >くるくると カーブを繰り返す緑の帯 >幾重にも重なり交じわり >離れては寄り添う ほどいたばかりの毛糸 >風に吹かれるままに揺れる >女のカールした長い髪 > >水の流れの足跡 >地下水脈の 透きとおった影 >緑の濃淡は生命の強さ あるいは >地下水脈に 比例するのだろうか > >生命の源 水が描いた絵 > > 簡単に詩評を述べておきます。 > それぞれの詩が、出来事の核心を適確に捉え、読者の心に響くように表現 >している。 > モンゴル旅行は「地球」主催によるものであることが、「あとがき」に書 >かれている。この旅行での一連の詩は、映像では映り出されない、モンゴル >の風土の内面が描出されている。 > 「扉の向こう」では、つうの役を演じている作者の体験が、緊張感ととも >に切実に語られている。つうになかなかなりきれない、しかし演じているう >ちに役者は役の人物へと変わっていく。それは台詞や演技などが、役者が演 >じている人物そのものへと導いているのである、とこの詩からは受け取れ >る。 > 「モンゴルからの絵手紙」は、ポロペラ機から見下ろしたゴビ砂漠を好奇 >心とともに眺めていることから詩がはじまり、意外な光景が詩人を待ってい >た。地下水脈による緑の帯である。それを絵手紙と断定したドラマチックな >展開を描出している。 > >「モンゴルからの絵手紙」を拝読して、一句思いつきました。 > ゴミ砂漠見渡すかぎり風光る |
155 | 拙句訂正。 | 前川整洋 E-mail | 10/23-11:19 |
記事番号152へのコメント 次の句に書き違いがありましたので、訂正いたします。 「モンゴルからの絵手紙」を拝読して、一句思いつきました。 ゴミ砂漠見渡すかぎり風光る 訂正 ゴビ砂漠見渡すかぎり風光る 失礼致しました。文藝学校の塩見鮮一郎先生には、提出したエッセイに対し誤記が多い、と注意をうけています。真剣に読み直しは、しているのですが。 |