タイトル: Re:詩集『扉の向こう』より
投稿者 : 小林登茂子<tomokko@theia.ocn.ne.jp>
URL : 未登録
登録時間:2004年10月19日21時38分
本文:
前川整洋さんは No.141「詩集『扉の向こう』より」で書きました。
> 現代詩創作集団「地球」同人の小林登茂子氏から詩集『扉の向こう』(地球社、2003年)を戴きました。小林さんは「地球」の大会や研究会で幹事をされていて、
「地
>球」の運営を担っています。
> 『扉の向こう』から2篇紹介します。
>
> 扉の向こう
>
>木下順二作「夕鶴」のつう
>五十分間に 安らぎ 憂い 迷い 喜び
>怒り 希望 哀しみ 祈り
>目まぐるしく演じて
>白くなって消えていく つう
>
>セリフも憶え 日常のシーンも
>狂乱のシーンも 別れもシーンも
>出来上がったけれど
>与ひょうと愛し合うことができない
>「ほんとうはあんたが好き」
>与ひょうを抱きしめ−ここで
>芝居は中断する 扉の前で立ちすくむ
>
>型通り抱き合えばセリフも型通り流れて
>それぞれが 一人芝居
>連日 型を変えて頭 肩 腰を抱きしめる
>
>なぜ私たちは抱き合っているのだろう
>私はなぜ 芝居をしているのだろう
>
>本番までの一週間 ふと与ひょうの腕が
>柔らかくつうを抱きしめてくれるのを感じた
>そのとき 扉は開き
>私は足の先まで 鶴になった
>
>
> モンゴルからの手紙
>
>南ゴビの草原から
>ウランバートルに向かうプロペラ機
>乗り込もうとする私たちを
>強い風が追い立てる
>旅の終わりを告げるような
>八月末の突風
>
>プロペラ機の高度は低い 私は
>ゴビ砂漠の赤茶けた地肌が広がる窓に
>額を押し当て 地平線の彼方へと続いていく
>無限を見つめていた
>
>機体が旋回し 下降をはじめる と
>くるくると カーブを繰り返す緑の帯
>幾重にも重なり交じわり
>離れては寄り添う ほどいたばかりの毛糸
>風に吹かれるままに揺れる
>女のカールした長い髪
>
>水の流れの足跡
>地下水脈の 透きとおった影
>緑の濃淡は生命の強さ あるいは
>地下水脈に 比例するのだろうか
>
>生命の源 水が描いた絵
>
> 簡単に詩評を述べておきます。
> それぞれの詩が、出来事の核心を適確に捉え、読者の心に響くように表現
>している。
> モンゴル旅行は「地球」主催によるものであることが、「あとがき」に書
>かれている。この旅行での一連の詩は、映像では映り出されない、モンゴル
>の風土の内面が描出されている。
> 「扉の向こう」では、つうの役を演じている作者の体験が、緊張感ととも
>に切実に語られている。つうになかなかなりきれない、しかし演じているう
>ちに役者は役の人物へと変わっていく。それは台詞や演技などが、役者が演
>じている人物そのものへと導いているのである、とこの詩からは受け取れ
>る。
> 「モンゴルからの絵手紙」は、ポロペラ機から見下ろしたゴビ砂漠を好奇
>心とともに眺めていることから詩がはじまり、意外な光景が詩人を待ってい
>た。地下水脈による緑の帯である。それを絵手紙と断定したドラマチックな
>展開を描出している。
>
>「モンゴルからの絵手紙」を拝読して、一句思いつきました。
> ゴミ砂漠見渡すかぎり風光る
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