◇-アルペンフロラ-前川整洋(3/11-14:55)No.270
270 | アルペンフロラ | 前川整洋 | 3/11-14:55 |
横浜文学学校・合評において尾崎喜八の詩「アルペンフロラ」のアルペンフ ロラはそいう花があるのかどうか、宮原昭夫先生から尋ねられましたが、私 としてはアルペンフロラという花があると思いこんでいました。2連からな るこの詩の後の連は次のように書かれています。 アルペンフロラ 尾崎喜八 ―略― 凛々たるアルペンフロラ! 世に狎(な)れしたしみ、 たやすく己れを興へ去ろうとする時、 自己内心の最も貴きものを護るため わたしの見る清らかなヴィジョンはこれだ。 アルペンフロラは、厳密にはアルペンフローラです。インターネットで調べ ると、マイセンのコーヒーカップに花柄模様のアルペンフローラがあり、国 内ではペンションの名になっています。言葉通りのアルプスの花ということ が分かりました。他方、わが国では、北アルプスの花、白馬岳の花、八ヶ岳 の花、大雪山の花、早池峰山の花などといった詩で、広く知られた詩はない ようで、何処そこの花として、ある種の花々が浮かんでくることはないよう です。この詩のアルペンフローラは高山植物を指していますが、アルプス地 方においては牧草地や山麓の花も含んでの言い方かもしれません。 上記の崇高な語り口からは、固有の花があるかのように受け取れます。詩 は言葉の多義性や曖昧性を利用してイメージや新しい意味を作り出すもので す。アルペンフロラもそのような花があるような、ないような漠然としてい てもよいようにも思われます。 それから串田孫一の詩「落葉松の林」に出てくる延齢草ですが、改めて調 べてみると、山林に生息していて、先端の大きな3枚葉の先に小さな紫褐色 の花を1つつけ、胃腸薬にもなるが毒性があるということです。枯淡の林の 情景を思い浮かばせられるかなり地味な花といえそうです。 |