タイトル: 詩集『群青の円盤』より
投稿者 : 前川整洋<maekawa.seiyo@ebara.com>Locked!
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登録時間:2003年4月18日22時13分
本文:
山の掲示板であっても、時には海についての話題も目新しさがあって興味
を誘われると思います。私と同じ現代詩創作集団「地球」同人である柳原省
三氏より詩集『群青の円盤―ある外航船員の詩―』を戴きました。柳原氏は
プロの海の男であり、一般にはあまり知られていない海の男の歓びと悲哀、
海外の景観などが語られています。その中より2編を紹介します。
アカバ湾のイメージ
炎熱の陽光照り込む紅海では
蛸は赤くうだって保護色を忘れ
蟹はホルモンのバランスをくずし
あきれるばかりに肥大する
そのずっしり重い肥満蟹が
船体の着岸に驚き逃げ込んだ
エメラルド色の水の底から
再び岸壁を伝い登るころ
イスラムの若者は簡易な迷彩服に身を包んで
入港手続きのために乗船してくる
台風三号
でっかい台風がやってくる
乗船早々仕事に慣れていないのに
うっとうしいやつがやってくる
休暇の間の様々の出来事
苦い記憶や所帯の悩み
そういう頭はきっぱり捨てて
プロフェショナルな時間がやってくる
波は寝返った大軍のように攻めてくる
風は有らん限りの罵声を呼ぶ
人はただ我慢に身を任せるだけの
情けなさをかみしめる時がやってくる
それにつけても悪意に満ちた
この嵐の前の静けさよ
簡単に詩評を述べておきます。
「アカバ湾のイメージ」では、まず、アラビア独特の照り付けるような光景
が、投げかけられている。東洋人、また西洋人には理解しがたい土地であ
る。迷彩服の若者からは、戦争や反乱のムードが伝わってくる。アラビアと
は絶えずそういったことに染められてきたようだ。
「台風三号」では、台風の来襲は陸上生活者とは違ったいろいろな意味があ
ることが窺がえる。それは台風との戦いであり、自然との戦いである。「プ
ロフェショナルな時間がやってくる」の一文には、海の男としての自身が垣
間見られる。
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