詩集『カムイエト岬』より へのコメント
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前川整洋さんは No.169「詩集『カムイエト岬』より」で書きました。 > 現代詩創作集団「地球」同人のささきひろし氏から詩集『カムイエト岬』 >(柳桃社 2004年)をお送り頂きました。ささきさんは「地球」の大会 >や研究会で幹事をされていて、「地球」の運営を担っています。 > 『カムイエト岬』から3篇紹介します。 > > 烏賊(いか) > >「キュッ キュッ」 >烏賊が鳴く >釣り上げられた瞬間 >故郷の海に跳ね返る >小さな生命の叫び > >水晶のように透き通った肌 >斑点はプリズムのように >光を屈折させ >虹色に輝き >やがて赤味を帯びる >生きている宝石のようだ > >鮮魚コーナーに並ぶ >乳白色の烏賊のパックを見ると >記憶の波間に >兄のイカ釣り漁船が浮かぶ >耳の奥に響く故郷の波の音 > >「キュッ キュッ」 >今夏も烏賊は鳴いているだろうか >集魚灯の光に誘われ >擬餌針に釣り上げられた >産卵前の生命の叫びを >ゆらめく漁火に軋ませて > > > ふるさとの川 > >ふるさとの暑寒別川に >季節はずれの鮭が遡上する >暑寒別岳は すでに冠雪 >ひゃこい水が流れ >なつかしいその匂いに >鮭は勢いづく > >急下降するセグロカモメの群れ >浅瀬の鮭の群れを襲う >本流を遡れない鮭は >岸辺のゆるやかな流れに >疲れ切った身をまかせる >ハシブトカラスの群れが >傷だらけの鮭を狙っている >おこぼれにあずかる雀たち > >やがて産卵も叶わず >力つきた鮭は >まだらな白い腹を浮かべる >川原には散乱した鮭の骨が >竹ぐしのように >吹き晒しの川風に揺れている > >上流にたどりついた鮭も >ヒグマが待っているのだ >だが ふるさとの >母なる川は >何ごともなかったように >ゆったりと 流れつづける > > > 駅 > >木枯らしの吹く横浜駅ホームに立ち >埼玉までの通勤電車を待つ間 >鈍く光るレールの先をたどる > >青函トンネルをくぐり >石狩平野を抜け >鉛色の日本海にでると >白波立つ海岸線がつづく >彼方にかすむ岬に向かって走ると >留萌本線終着駅 増毛(ましけ) >そこが私のふるさとの駅だ > >かつて鰊漁で栄えた駅 >ヤン衆や行商人で賑わい >鰊を運ぶ蒸気機関車が力強く >白い煙をたなびかせていた >いつしか幻の魚と共に煙も消える > >三十数年前の私の始発駅 >磯の香りを胸いっぱいに吸い込み >見送りの父母の姿を心に刻むと >飛び交うカモメの鳴き声が >学生服姿の私の出立を急きたてた >―身体に気をつけ > しっかり勉強するんだよ >今でも暗闇のレールの彼方から >心に響いてくる亡き母の声 > >こみ上げるふるさとへの思いを >胸に押し込め すべり込んで来た >重苦しい満員電車に >ひとり 身を細める > > 簡単に詩評を述べておきます。 > 鮮明な描写とともに、作者の思想的感慨が表現されている。 >「烏賊」では、釣り上げられた烏賊が、宝石の煌きを見せていることを克明 >に描出している。マーケットに並ぶ烏賊のパックに、烏賊の煌きとともにさ >まざまなことが想い出される。「キュッ キュッ」と鳴く烏賊と漁師との生 >き残りの戦いは、果てしなく続く。 > 「ふるさとの川」では、ふるさとの暑寒川に鮭が遡上する様子が、具体的 >に書かれている。そこは生命の闘争の場でもある。ゆったりと流れる川は、 >自然の摂理とか原理のあり様を象徴しているのであろう。 > 「駅」は埼玉文学賞の受賞詩とのことである。この詩の書き出しの「鈍く >光るレール」に、辿ってきた人生の光と影が彷彿してくる。作者のふるさと >は、北海道の日本海側にある増毛である。鰊漁とともに栄え衰退した町だ。 >増毛駅で両親に見送られ、東京の生活へと旅立った。満員の通勤電車に乗っ >たときの、都会生活のやるせな、味気なさが伝わってくる。
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