「新刊・大雪山とトムラウシ山」 発行所:株式会社 白山書房 202ページ カラー写真 4ページ 四六判 初版 2002年4月19日 定価 2000円(税別) 1.概要 大雪山は東京を含めた首都圏からは遠い北海道の山であること、連峰の総称であることなどか ら、知られているようで知られていない山といえる。最高峰は旭岳2290メートル、お鉢平と呼 ばれるカルデラの外輪山を中心にした連峰であり、南端のトムラウシ山も含めると南北35 キロメートルにわたっている。永年、日本アルプスを登り続け、主要峰を踏破したことから、次ぎは 北海道の山となった。そうなると最高峰の大雪山である。避難小屋のような山小屋しかないなど の問題があったが、十分な計画と準備をして、二度にわたり大雪山をトムラウシ山まで縦走でき た。絵巻物の中を歩いているような縦走路だった。 この縦走路を大掴みにすると、次ぎのようなことがいえた。日本アルプスにある氷河に削られ た尖峰や急流に浸食された深い谷はない。あっても稀である。峰と峰は台地で結ばれている所が 多い。岩稜は少なくナイフリッジはまったくない。鎖場のある岩場も稀である。大斜面に大雪田 。雪渓は規模が大きく、谷が浅いことから雪田のようである。沼と湿原が至る所にある。高山植 物の群落は他の山域に例をみない程の規模である。絵巻物の中を…・・、といったのは、これら のことによるのである。 本書は登山道、山小屋の状況についても詳しく書いてあるので、ガイドブックとしても読める が、詩、俳句を中心としたエッセイであり、文芸書であることに重点を置いている。自然は、科 学や芸術など、人の叡智の原点と見なされるようにもなってきた。大雪山はさまざまな自然の宝 庫であり、それらが登山者に限らず山に登らない人々にもいかに潤いと感動を与えるものである かを伝えるための、大雪山からのメッセージとも考えている。 2.目次 1部 旭岳〜黒岳〜トムラウシ山縦走 第1章 羽田空港より旭川へ 第2章 旭岳から間宮岳、北鎮岳、黒岳へ 第3章 北海岳から白雲岳、白雲小屋へ 第4章 北岳、七倉岳から船窪小屋 第5章 高根ヶ原から忠別岳、五色岳 第6章 化雲岳からヒサゴ沼へ 第7章 ヒサゴ沼の一日 第8章 トムラウシ山 2部 縦走にあたって 第1章 大雪山の山名について 第2章 アイヌ語の地名 第3章 探検・登山の歩み 第4章 山の生いたち 第5章 ツンドラ北極圏の飛び地 第6章 未確認の氷河地形 第7章 動物 第8章 羆の習性と対策 第9章 水場とエキノコックス 第10章 詩と俳句について 3部 再び大雪山へ 第1章 層雲峡 第2章 黒岳から北海岳 第3章 北海平から白雲岳、白雲小屋へ 第4章 高根ヶ原と化雲岳 第5章 ヒサゴ沼からトムラウシ山 3.本の一節 登りは徐々にきつくなり、道幅は狭くなり、這松が道に覆い被さるようになる。這松の枝を 跨いだり、手で払ったりしながら進む。籔漕きではなく、這松漕ぎである。少し広くなった所に 飛び出ると、白い躑躅風の花、磯躑躅が咲いていた。這松帯では羆に出くわす危険が大きいとさ れている。磯躑躅が不気味に見えた。
熊でそう磯躑躅咲く縦走路
登っていると稜線上に岩塔が見えた。あれが五色岳らしい。 相変わらず這松漕ぎの登りである。うんざりしながら登っていると、岳樺の潅木林となり、中央 に大岩が転がっている開けた山頂に飛び出た。岩塔は頂上ではなく二00メートル位右手であった 。正面にトムラウシ山が大きなスケールで聳えている。知らぬ間にこんなにも近くになっていた のだ。息を飲むといった光景である。山頂部には流れ雲が懸かり、山頂は見えたり隠れたりして いる。緑をおびた紺色の山体は、独立峰ならではのどっしりした風格である。ここまで来れたか 、の思いが湧いてきた。
トムラウシ山横長に夏の空
夏雲にトムラウシ山消えては見ゆ 4.著者からの一言 登山口から下山までの、一つ一つのことを言葉で表わしています。些細なことまで書いていま すが、些細なこと、単調なことの積み重ねが登山をなしているともいえます。道すがらの光景に は、稜線に湧き出した水、稜線伝いに点在する沼や湿原、日本アルプスにはない広さの礫原、礫 原に拡がる構造土、広大な礫原台地に座すピーク、オブジェのような岩塔の散在などがあり、そ れらを見逃すことなく書いてあります。 詩と俳句を織り込んであります。俳句の表現は写生が中心で、現地の情景を読者と作者が共有 できる特徴があります。詩は客観に主観を織り込みなが展開し、情景の向こう側にあるものまで 捉え、自然の何に感動し、癒され元気づけられたりするのか、登山の目的は何なのかを伝えてい るはずです。 大雪山を訪れたことのある人には、大雪山の再発見と再認識に、これから訪れようとする人に は大雪山の何に注目すべきかを知ったり、危険を避ける情報を得るために、訪れる機会のもてそ うもない人には、どんな所でありどんな感動があるかを知るのに、本書は役立つものと考えてい ます。 |