「雲ノ平と裏銀座」 発行所:日本図書刊行会 181ページ カラー写真 5ページ 四六判 初版 1994年6月30日 定価 1800円 1.概要 30年ほど掛けて日本アルプスの主要峰は踏破した。その中で幾度も訪れてみたくなる場所となると、雲ノ平を 先ず挙げたい。雨に降られたため、翌年も雲ノ平を訪れ、好天に恵まれその感動が、本を書くきっかけとなった。 雲ノ平には3回訪れ その経験も活かしてある。 雲ノ平の魅力。2600mの高地にあること、岩と這松のコントラストが庭園のようであること、周囲には3000m 級の山々、そして雲ノ平はそれらの山々の盆地ではなく、黒部源流の本流である黒部川の谷と、やはり源流の 一つである岩苔小 谷により周囲の山々と隔てられ、独立した台地となっている。それでとりわけ明るい高原をなして いることなどにある。 裏銀座縦走コースは、燕岳から槍ケ岳までの表銀座コースより、ただ行程が長いというだけで なく、全行程に渡り2500メートルを下ることのない高度感があり、雄大なスケールと変化に富んだ山また山の縦走 コースである。 日本アルプス登山で経験したさまざまなことや過去の遭難事件についてなども織り込みながら書いた。また詩、俳句 を挿入し、要所を明確にするとともに情景などに余韻と広がりをもたせてある。 2.目次 はじめに 第1章 有峰ダムと登山口・折立 第2章 太郎小屋と愛知大生の遭難 第3章 薬師沢と黒部川 第4章 雲ノ平そして薬師岳と黒部五郎岳 第5章 祖父岳 第6章 黒部源流と岩苔乗越そして鷲羽岳 第7章 水晶岳 第8章 野口五郎岳 第9章 登山の雨具 第10章 荒川岳での昭和山岳会パーティーの遭難 第11章 台風の荒川岳 第12章 三ッ岳と赤牛岳 第13章 烏帽子岳 第14章 烏帽子小屋にてそして高瀬ダム あとがき 3.本の一節 昨年の雨降りでは、雲ノ平山荘に向かう途中の「奥日本庭園」辺りで、雨の中にいる自分を再認識するかのように 立ち止まってみました。茫然としつつも佇んでいればこの雨の真っただ中でも、何かが見えてくるような気がしました。 そのとき 周囲の池塘らしきものが目に入ってきました。これはひょっとすると池塘ではと、よく見ると確かに池塘でした。 それまでは周囲に池塘があることに気が付きませんでした。写真では雲ノ平の池塘は見ていましたが、過去二度とも 雲ノ平で池塘を見 ることはありませんでした。写真の池塘は雲ノ平のどこで撮影したのか、本当に雲ノ平に池塘がある のか疑っていました。ところが今は見渡した至る所が、池塘だらけでした。まるで道の所と池塘の境目だけに地面が出て いるようでもありました。八月初めでしたが、梅雨の光景だったようです。茫然とした気持ちと交叉するように、池塘には 自然の深みとか、自然のやさしさが感じられました。 いまだ梅雨雲ノ平は明けきれず 雨降れば登山忘れて池塘見る 池塘だけやさしく見えて夏の雨 チングルマ降る雨に咲くチングルマ 4.著者からの一言 雲ノ平には3度訪れました。雨の雲ノ平と晴天の雲ノ平とを対比させながら書き進めてあることにより、雲ノ平の素晴ら しさがより鮮明になっているはずです。 途中の太郎小屋は愛知大生の1パーティーとしては最大規模の遭難があった場所 です。当時の新聞などを調べ遭難の原因などを詳しく考察してあります。 日本アルプスは紹介され尽くしている観があり ますが、多くのエピソードを加え 、また詩、俳句で表わしていることで、ささやかな発見や新たな出会いがあるようにしてあり ます。 山々の景観とその場の感動、登山の臨場感や厳しさが感覚的に伝わるように、詩と俳句が挿入してあります。文章の方も 折立からの入山から高瀬ダムへの下山まで を詳細に書きました。本書により日本アルプスの素晴らしさだけでなく、自然の スケール・パワー・美しさ・可憐さ、オリジナリティーなど、そしてこれらが私たちにとって掛け替えのないものであることを語ること ができたと考えています。 |