四国山行の詩

剣山


山道を登りだすと
ときおり石仏があった
ここは遍路の国 仏の国である

バスを降りた葛籠(くずろう)から
夫婦池まで登りは続いた
そこから緩く下って
剣山主稜との広い山あいに出ると
辺りは開け
剣山がずんぐりと鷹揚に座していた

安徳天皇の宝剣が
山頂に埋められたという伝説の山だ
三嶺(みむね)までの主稜が見渡せた
穏やかな山々の連なりは
三嶺の鋭い頂で行き止まっている
仏の国というより
山は山の個性を堅持している

剣山の隣は次郎笈(じろうぎゅう)
引き締まった台形状の山体は
剣山より立派ともとれる
次郎笈の隣は丸石
名の通り丸い山
山肌は山頂から中腹まで黄緑色のじゅうたん
笹の覆われているためだ

剣山を中心に緩やか山並みは
平家落人伝説の祖谷渓谷へと連なる
平穏さの中に
仏の在所があるかのようでもある



剣山縦走


剣山 次郎笈 丸石
と稜線はすき間なく熊笹に覆われている
他の山域にない自然の生態
遊び心を誘われる解放感
四国ならでは自然の趣
青空に黄緑色のハーモニーの中で
夢心地への心の彷徨へと入って行く

ほとんどの山々の斜面は穏やかな傾き
説明板には
熊笹に似た笹は四国笹となっていた

石鎚山つぐ
剣山は西日本第二の高峰
ではあるが
抜きんでた高さではなく
盟主を唱えるということはない
隣接の山々ものんびり座している

丸石に近づくにつれて
山道に笹が被さり
笹の丈は胸近くにまでなった
徐々に丈は短くなり膝くらいになる
丸石山頂に立った

登路を振返ると
次郎笈 剣山と
四国笹に覆われた黄緑色の
丸みのある山体が
どっしりと並んでいた
四国は平和な山の国である



石鎚山


屏風をなす岩壁に
山頂は形造られ
まさに霊峰
山全体がご神体とされている石鎚山

走っては立ち去り親を待つ子供
坂の踊場で一休みの老夫婦
心が通い合っているから黙々と歩く若いカップル
談笑しながら歩く仲間同志と
どんどん登ってくる
白装束の一団もいる

信仰のフィールドであるとともに
野外活動のテーマパークのようでもある
それほどいろいろな人たちが登り
山は自然の多様さを見せている
とはいえ信仰心が湧き起るような景観が展開している
アウトドアースポーツという信仰があるかのようでもある

屹立する岩壁は
信仰心を煽るパビリオン
それはこの山の意向である
三段階に別れた岩場には
登山者が群がり取り付いている
一の鎖 二の鎖 三の鎖
と登るほど岩壁はスラブ状となり
厄介となって犯す危険は大きい
一時でも修験者になろうとしている

山頂に辿りついたとき
周囲の景観に
歩きそして攀じ登ったことに
神聖なものに触れた思いが込み上げる