時代劇に出演している。相手役の俳優Nは薄茶色の格子柄の着物。背中や腰の辺りに布がたわんでいるし、丈は短く膝下くらいだし、パジャマの上に羽織るガウンのようですごく変。緩くうねる茶色い癖毛をやや伸ばし、頭頂部だけ結んでいるのも、柔道のヤワラちゃんみたいですごく変。大きなライトを背に立つと、くっきりと脚のラインが透けて見える。華奢で短い脚。ストーリーの上では私の危機に助けに駆けつけるはずなのだった。こんなにイケてなくていいの?と思う。役柄に入り込んで盲目なほどに恋する気持ちと、妙に客観的に価値判断している部分と、両方が混じることなく並列していて、あまりにもはっきりと分裂して存在して、それがとても奇妙に感じる。
::::: 1/29 :::::

スキー場は渋谷の街みたいに若い人だらけで、奇抜な格好をした人達も沢山。従姉妹たちがその中でとても浮いて見える。私もこんな風に浮いてるのかな?とぼんやり思う。雪は泥だらけで真っ黒。一面凸凹なゲレンデ。皆そこへプールに飛び込むように身を投げ出す。体の前面を泥だらけにして数メートルすべっては立ち上がり、また同じことを繰りかえす。従姉妹たちは満面の笑み。これ以上なく楽しそう。
::::: 1/23 :::::

海外旅行から帰ってきた。自分自身へのお土産にチョコレートを3箱。それぞれ欧州の違う国で買ったもの。一粒ずつ丁寧にデコレートされている。鞄から出してみてみると、きちんと保冷剤が入っていて溶けてはいなかった。むしろかちかちに凍っている。保冷剤は板ガムのような形状で、ドライアイスのように煙がでているけれど気化して小さくはならない。
鞄には写真も入っていた。マイクロフィルムのようなものや、すでにプリントされたものや様々。ざっと目を通すと、どれも自分が数人と一緒に写っている。いかにも観光地で撮りましたという大嫌いなタイプの写真ばかり。自分で思っているより背が高く、色黒で、髪も短く、顔が大きい。写真うつりが悪いなと思うけれど、こんなものかという諦めの方が若干強い。
真っ暗で薄気味悪い駐車場に向かうと、タワーパーキングの入り口にあるような丸く回転する台の上に、私の車がすでに乗っている。車に乗り込むとしんしんと冷えて、手がかじかむ。隣の回転台の車から中年の女性が寄ってきて、私の車のメーターを指さして何か言っている。赤く光る針は危険域ギリギリを示している。何に対する危険なのかわからない。私の車にはいつの間にか両親も乗っていて、母が教えてくれた女性にお礼を言っている。私は、余計な口出しをされたという気分で面白くない。このままでは大変なことになるとその人はいう。そんなの私の勝手だろ、とぶつぶつ心で呟く。
::::: 1/16 :::::

体育館のような場所でパーティが催されている。縦長のテーブルが何列か置かれて、おせち料理などが並んでいる。私の後ろの列に好きな人がいて、私は彼に話しかけなければならないと思っている。私はその人を知っているけれど、その人は私を知らない。これが最後の機会かも知れないと思う。
おせち料理のなかの黒豆は彼が作ったものだった。それはとても美味しかった。「黒豆が美味しかった」といって話しかければいいと考える。パーティはもうお開きの時間。とても怖くて、私は席を立ったもののトイレに逃げ込んでしまう。トイレはとても不潔でタイルが一面真っ黒。通常よりかなり広い個室がいくつかあったけれど、どれも入れたものではなかった。悲しくなって外に出た。
屋外は真っ暗で人気がない。数人のチンピラにからまれた。話しかけられなかったあの人が走ってきて、喧嘩になった。彼はひどく殴られて病院に運ばれた。話しかけていたらこんなことにならなかったと思って、私は自分を責めた。泣きたかったのに涙が一滴も出ない。謝ろうとすると、彼の口から全く同じ言葉が出た。話しかけていれば良かったと。その人も私に話しかけたくて出来なかったんだと知った。
::::: 1/14 :::::

リビングにかなり大きな画面の液晶テレビがある。明るい日中、スイッチを消した状態の黒い画面の左上に、小さな深緑色のハートマークが輝いている。ハートが横倒しになった形で、輪郭はギザギザとしている。近づいてよく見る。するとハートの部分は表面がぼろぼろになって穴が開いた状態だとわかった。画面全体がごく小さな正方形の整列した集合体で成り立っていて、パズルのピースがぼろぼろと抜け落ちるように後ろ側へ落ち込み、みるみるうち画面いっぱいに無数の細かな穴が開いた。スイッチを入れてみると、なぜかテレビは問題なく映る。穴が開いているとは全くわからない。
::::: 1/13 :::::

大きく現代的な建物。一階はショッピングエリアで、一周すると一番奥まったところに巨大な抽象彫刻のようなものが二つ展示されていた。一つは、細い金属製の骨格が空に突き刺さるように鋭角的な角錐型を形作り、そのなかに大きな蛍石の結晶が包み込まれている。高さは数メートルで、上層部は骨格である金属が込み入って金色の屋根のようになり、輝いている。下層部には、蛍石の幻想的な紫と緑の饗宴。透き通り、内部からほのかに発光している。 もう一つは、同じような大きさだけれど骨格の金属がもっと単純なつくりで、内部の鉱石はシトリンのような黄色いものだった。並んでいると、蛍石の吸い込まれるような光の方に、圧倒的に優れた存在感がある。二つは、著名な彫刻家の作品のようだった。
幼なじみのYちゃんに似た人が現れて、二つのうちどちらを購入するか悩んでいる。親へプレゼントすると言っている。私は漠然と、それじゃ彫刻を作った本人にプレゼントすることになってしまい、意味がないじゃないかと思った。自分の作ったものがはるばる旅をしてまた自分の所に戻ってきてしまうなんて。そんなことも知らずに悩んでいる彼女の姿を、ただぼんやりと俯瞰していた。
けれど、彼女の親と彫刻家は完全に別人なのだった。誰にプレゼントしたとしても彫刻は自らの意思によって作った人の元に還ることになるのか。それともすでに、誰によって作られたかなんてどうでも良くなったのか。彫刻はそれ自身の魂を持ち、人知を超えた何かを悟っていた。過去も未来も、現実を自分で書き換えていく。
::::: 1/12 :::::

ばっさりと髪を切ってボブにしている。前髪も真っ直ぐ過ぎるほどに切りそろえている。鏡をのぞき込んでいろいろな角度からチェックすると、頬が今までより丸く太って見えるような気がする。完全に他人の顔。それがとても新鮮ですっきりしたような気分もあり、自分が誰でもなくなったような奇妙な浮遊感もあり。ひたすら鏡を見続けている。
::::: 1/11 :::::

人混みでごった返す露天市にいる。バス旅行の途中らしい。メープルという名の露天商の前に立ち止まる。桃が4つ入ったプラスチックの透明な箱がある。近づいてよく見るとそれは桃ではなく、鉱石だった。陳列棚にローズクオーツと書かれている。桃の他に、細かな細工のされたオブジェのようなもの、金とクオーツで編まれた籠のようなもの、結晶をただポリッシュしたようなものなど、いろいろ雑然と並べてある。淡い桜色だけでなく、チェリーレッドのような赤に近い濃い色のローズクオーツがたくさんあった。濃い色ではあるけれど透明度は素晴らしく高い。それは今までに見たことのないもので、「ロゼ」とか「ロザクオーツ」とか書かれていた。
声をかけられて振り向くと、子供の頃の友達、Tさんがいた。中年になったその人はすっかり太って、顔が月のようにまん丸。赤ら顔には皺も刻まれて、随分時間が経ったことを知らしめられる。彼女は葉巻のように細く丸めた旅行者向けのパンフレットのようなものを広げて見せて、この辺りの歴史的遺産について私に尋ねる。ここに書かれている史実が正しいのかどうか、詳しく知っているだろうから教えて欲しいというようなことを。私はそのパンフレットの細かな文字を読もうとしたけれど、何か得体の知れない嫌悪感を覚えて、よく知らないしわからないと言って突き返した。
::::: 1/09 :::::

いつもとは違う道を通ろうと角を曲がってみる。金色の午後の日差しが眩しい。しばらく行くと右手はサバンナのような広い草原で、草むらのかげにサイやシマウマのようなこんな所にいるはずのない動物がいる。私は少し恐怖を感じ、足音をひそめた。同時に彼らとコミュニケートしてみたい欲求もあった。しかし、彼らは私にほとんど無関心のようだった。結局勇気を出せぬまま長くくねった坂を下りていくと、大通りにぶつかった。そこを左折するとよく知った道に出ることがわかり、ほっと胸をなで下ろす。
大通りに沿ってショッピングセンターがあり、そのなかを歩く。後ろから声をかけられる。高校のクラスメイトB君。実在するけれど、久しく思い出したこともない人。背が高くなってとても痩せていた。昔のままに一方的にしゃべる人で、生返事をしているうちに私の家までついてきてしまった。
自宅だという認識はあるものの全く見知らぬ家。上がっていくと藺草の匂いも生々しい新しい畳の敷き詰められた部屋があり、中央に置かれた低いテーブルに腰を下ろした。五段飾りの雛人形が置かれている。真新しく、天井近くまで届く大きなもので、人形は10体ほど。ひとつひとつが驚くほど丁寧に作られている。背景の明度の高い真っ赤な布に相反して、人形たちに着せられた服はどれも無彩色に統一されている。家に昔からある雛人形と全く別のものなので、昔からあるものはどうしたんだろうと思った。まさか捨ててしまったのか? とても歯がゆいようなそれでいてほっと安心したような、不思議な感情。
::::: 1/05 :::::

高校の卒業が迫っていたのだと思う。西日の当たる校舎を歩く。すべてがくすんだオレンジ色に敗北したかのように色という色を譲り渡している。私自身も圧倒的な何かに負けたような心持ちで、とても感傷的になっている。想い出を紡ぎ出そうとするのに大切なことほど曖昧に思えてくる。確か二年生の時に同じクラスだったはずのF君。私にいろいろ悪戯をしたりした。かすかな恋愛感情を抱いていたはずだったのに、その記憶が真実味を失っていく。本当にその人が実在したのか疑問に思えてきて、私は名簿のなかにその名前を探した。どこにも見つからなかった。違う名簿を探した。そこにもなかった。私の中にある記憶のすべてが置かれた現実と少しずつ噛み合わなくなっていくのを感じる。異次元に迷い込んだようで、言い知れぬ不安に満たされる。
::::: 1/02 :::::


Past_log  Home