友達とファストフード店にいる。見かけないチェーン店、黒で統一された店内。友達はみな注文し終わりトレイを手にしてテーブルに着く。店員は人が良さそうでそれ故に無神経そうな四十がらみの女性で、ちゃきちゃきと注文をさばく。メニューはいい加減で売れ線のものしか書かれていない。私はおずおずと、肉のはさまっていない、あっさりしたものはないですかと訊く。店員は大きな声でこれとそれとあれがあるけどどうします?と返してきた。シンプルなドライフルーツ入りのパンを頼んだ。
同席の友人に、フランス人の友人(実在しないけど)から携帯メールが届く。仏語と英語と日本語と絵文字がごちゃ混ぜの文面。それでも伝えたがっている内容は不思議なほどよく分かる。友人は外国語がまったく駄目なので私に返事を書けという。私は各国語とり混ぜの拙い言葉でこんなに軽やかに楽しげにコミュニケートできることに感銘を覚えて、同じやり方で返事を書こうとする。けれどついつい硬くてつまらない、教科書然とした英語ばかりになってくる。それも文法的に正しいかどうかばかりいつも通りに気になってくる。そんな自分に少しうんざりしつつ、これじゃ駄目と思いつつ、懸命に「楽しい」メールを打とうと努力してしまっている。
::::: 12/08 :::::

好きな男性がいて、彼は外国人だった。私はその言葉がわからず、まったく接点もなく、近づいていく術などあるはずがないと思った。夢の中で、私はこれが夢であると強く意識した。夢なんだから自分の思い通りにしてもいいんだ、誰も咎めはしないと思った。その途端、ディテールはあり得ないことばかりだけれど、本質的に真実だと言い切れる事象がほとばしるように夢の表層に溢れこぼれた。真実と言い切れるのは、そこで味わう感情が現実よりももっと現実的だから。笑えるほど簡単に私は彼の心を得られて、とても幸せに過ごした。現実に幸せを感じる時に感じる後ろめたさや、それをやがて失うことへの恐怖、時間軸や世界の仕組みに対するぼんやりとした不信感、そういったものは欠片もなかった。CD-Rの表面のように青白く光る電磁気的な光りが平坦な円盤状に広がり、そのなかに思うままの事象が書き込まれていく、そしてその一瞬後、ディスクを再生するように事象を体験する。
::::: 11/12 :::::

旅立つために荷物をまとめた。黒いボストンバック、革の大きいのとナイロンの小さいの、二つの中にすべての荷物が入った。分厚い辞書を一番上に入れると、はみ出していた衣服などがみな素直に従うように小さく凋んだ。案外あっさりと纏まったので拍子抜けするくらい。ところが洗濯した衣服を忘れていた。ハンガーに掛かったモーヴ色のシャツワンピース、あとデニム地で膝上丈の巻きスカート。デニムなのに軽いシフォンのようにひらひらと風を孕み揺れている。こんな服があったっけ。しまった、また失敗したと思った。寸分の狂いなく完璧にパッキングされた荷物をまた開く気にならない。あ、なーんだ、これを着ていけばいいんだ、と急にひらめいた。もしこれも荷物に入れていたら着ていく服がなかった。ちょうど良かったんじゃん。我ながら馬鹿みたいだと思いながら安堵した。でもどこか狐につままれたみたいな気分。
::::: 11/10 :::::

卒業式にとうとう出た。今までに何度も卒業式が嫌で逃げ回るような夢ばかり見ていた。授業やテストが終わり卒業式まであと何日かの筈なのに、それがいつなのか判らないし、そもそも出たくない気持が強いので人に訊く気にもならない。持って帰らなくてはいけない荷物が整理しても整理してもどこからか出てきて、うんざりするばかりだった。
今回は卒業式が終わったあとの教室だった。みんな和やかなムードで談笑している。仮面と仮面の無音のせめぎ合い。日暮れでもないのに差し込む光りは弱く、その昏さに捕らえられ目に映るすべてが一瞬ごとにセピア色に褪せていくように思われる。私は兎にも角にもここから解放されることが嬉しいのだけれど、表情を殺している。この後、京都に行って何かの公演をするという企画があることを知る。数日に渡って拘束されるのは嫌だ。それは自由参加なのかどうな私はさりげなく訊ね、別に強制されるものではないと知る。嬉しかったけれどそれでも、何かまたしなくてはいけないことから逃げ回っているような気分だけがしつこく付きまとっていて、少し不快な心持ちもある。嫌なことを避けて通りたいあまり自分に言い訳を擦り込みすぎてそれを現実にまでしてしまったのか、実際は逃げていないのに繰り返し体験した逃避の気分だけが未だに自分を支配しているのか、深読みしすぎて心が晴れない。それでも兎に角なにかが終わったという朧気な実感が次第に形をなしてきて、脱力感に似たものが体の芯に緩やかに走っていた。
もう逃げることは嫌だと思った。逃げたいようなことは二度と向こうから近づいてこないように出来るはずなんだと思った。なぜだか鉛筆の芯のような匂いがしていた。
::::: 11/01 :::::

左手の親指と中指で何かをつまむように持ったら、傷が付いた。中指の方はみるみるうちに治った。親指は傷のまわりの皮がむけてきて、それを神経質になってはがしていたら、幾重にも重なる赤い花びらのようになった。薬を探していたら、見つかったものは小さな試験管のような入れ物に入った香水だった。いつの間にか薄暗い香水店にいて、私はこっそりと試験管の蓋を外して香りを嗅いだ。そこから、音楽が香った。聞いたことのない美しい曲が聞こえた。大好きな作曲家の曲だということがすぐにわかった。調べに耳を傾けると、同時に香りが聞こえてきた。完璧な薔薇の香りだった。薔薇の花が実際に咲いている時の完全な香り。まったく作り物じみてもいないし、無理に抽出した不自然な自然もそこにはない。香りは音として聞こえ、音は香りとして香っている。互いが混ざり合っているのか、いつの間にかすり替わっているのか、わからないけれど、世界を鏡に映して左右を反転させて見るようで、えもいわれぬほど瑞々しく真新しく感じられた。このままこの瞬間を瓶に詰めて永遠に保存したい誘惑に駆られた。
::::: 9/19 :::::

宇宙旅行をするためシャトルに乗り込む。内部は普通の旅客機とほとんど同じで、ただシートベルトだけがジェットコースターのそれに似ていた。ネル(犬)を連れていたのだけれど、犬は犬専用のスペースがありますからそちらにお願いしますと言われる。私は渋々ネルを連れて専用スペースへと向かう。そこは大きな厨房の一角で、すぐに犬用のフードが供された。いつも食べているドライフードではなくて、ウェットフードしかない。シャトル内では缶詰しか与えてはならないのだという。ネルは思わぬご馳走に大喜びで、尻尾を振りまくって係の人について行く。なんだか解せない感じがして、巧妙に仕組まれた罠にはまっていくような気分。時空を超えて見ず知らずの世界に行くはずなのに、私の望んだ世界にようやく出発するはずなのに、行き先が間違っているような気がする。私は家に電話をして、クレジットカードを盗まれたからカード会社に連絡してほしいと告げた。早く手を打たないといけないと私はとても焦っていた。
突然、私は大きな屋外プールにいることに気づく。自分の荷物はウエストバックひとつだったけれど、それが水に流されていくのに気づく。周囲にいるのは白人男性ばかりで、慌てている私を訝しげに見ている。それでも私はここでは異邦人ではないのだ、という気がしていた。もっと高い場所から、大きな視点から見れば、私がいて私が足掻いている世界はとてもちゃちなオモチャのよう。小さなプールという世界に閉じこめられた私と、それを遠くから見つめる私。
::::: 8/20 :::::

舞台の袖、黒っぽいベルベットのカーテンが幾重にもなっている陰で、私は何かの整理をしているらしい。段ボール箱のようなものが見える。作業中、背後から視線のようなものを感じて、カーテンの向こうに誰かがいると知る。多分、かつての親友Mに間違いないと思う。戸惑いながらも、カーテンの向こうに顔を出してみると、やはりそこにはMがいた。まるで前々から約束でもしていたみたいに、Mは当然といった感じで話しかけてくる。赤みがかったブラウンのスーツを着て、癖毛だった少し茶色い髪はストレートになっている。メイクもしっかりしていて、アイラインや唇の輪郭をはっきりと際だたせている。以前の感じとはかなり違う。私の方は化粧もしていないし、汚れた白いTシャツという格好。それをちょっと意識する。するとMは私の気後れを察知したように、鈴鹿ちゃんすごい綺麗だね!と言ってくれた。彼女は、バックのような箱のような、あるいは籠のようでもある不思議な薄黄色の物体をさしだして、プレゼントだという。固いのにふわふわと起毛していて、外側のあちこちに立体的な黄緑色の飾りが付いている。透明な鉱石、たとえばペリドットで出来たような飾りで、花のようでもあり、球体のようでもあり、それは何なのか認識できない。とにかく上部の中心に穴があって中に何かを入れられるようになっている物体であることしか判らない。私は笑顔でそれを受け取った。そのクリーム色の名付けようのない物はとても価値があるような気がした。とても久し振りに会ったMは、やはり変わらずMのままだったという気がした。
::::: 7/17 :::::

高校時代の友人Sと飛行機に乗っている。向かう先は九州のようで九州でない場所。日本地図らしきものを広げる。日本のようで微妙に日本でない国。大分によく似た県に降りる。この辺りにはかつて来たことはない。地図を見ると、県と県の境目がとても曖昧だった。細かい路地や商店などの情報が嫌という程書き込まれているのに、県境の線もはっきりしないなんて。細かすぎることによって全体像がぼやけてしまっている。大小の秩序が混乱している。日本らしき国の地図は、国中どこを見ても不自然な曖昧さにあふれ、混沌に目を眩まされる。行ったことのある県はどれだけあるだろうと数えると、ほんの少ししかないことに気づいた。でもこの旅で九州らしき場所は網羅できるだろうと考えた。大分らしき街の地図を見ながら市街地をうろついた。テレビから通り魔事件のニュースが流れている。通り魔は大分らしき県に出没しはじめているという。すれ違いざまにナイフで斬りつけるのだという。私は街の小さな本屋でコミックスの並ぶ棚を前にして、急に通り魔が怖ろしくなる。怖いので、漫画をあれこれ読みふける。地図を再びよく見ると、大分には私の住んでいる市と漢字が一字だけ違う市がある。そこを細かく見ていくと、私の住む町とまったく同じ名前の町があった。私は自分の家に帰りたくなる。
自分の家に帰ってきたのだけれど、家がかなり変わっている。数十年の時差があるみたいだ。私たちはどこか別のマンションか何かに引っ越している。車を走らせると、4車線くらいある太い道路があるはずのないところに通っていて、その先に巨大なマンションが見えてきた。こんなのあり得るはずがないと思う。何もかもが不自然で、世界そのもの、太陽までも偽物のような気がする。
::::: 7/14 :::::

教室のように机が規則的に並んだ部屋で、数人が机の上にあぐらをかくように座って、芝居の台本を読み合わせている。台本といっても本はなく、天井から短冊の大きめなものが幾つもぶら下がっていて、そこに台詞が書かれていた。私は経験がなくて、どことなくおどおどしている。自分の番になって短冊の台詞を読めば良かったのだけれど、そのまま読むのは芸がないようで、それではバカにされるような気がしたのか、私は何故か咄嗟に自分で台詞を創作してしまった。プロの俳優Yが見かねて、小声で正しい台詞を教えてくれた。自分の台詞ではないのに、短い言葉に込めた表現力は素晴らしいもので、私はとても圧倒された。自分のしたことがとても惨めで穴があったら入りたい気持ちになった。Yはそれでも見下したような態度は全くなく、温かく私の態度を見守っている。他の俳優たちも同じだった。それが余計に苦しかった。
::::: 7/13 :::::

古びたアパートに住んでいる。ドアをきっちり閉めても鍵がかかっていないことがある。窓もいつも半開き。夜中に外の階段を上ってくる足音がして、不審な男が私の部屋を覗く。慌てた私は、白く毛足の長いカーペットの上で寝たふりをする。男が入ってきた。ドアの外から黄色い明かりが漏れて入ってくる。私は3人の私に分裂した。3人の私が1つのクッションを枕に寝転がっている。仲良しの友達が集まって泊まっているように見えるだろうと思った。何故か私はそれならば安全に違いないと思ったのだった。男は3人それぞれの顔をのぞき込むと、安心したような顔をして部屋から出て行った。
::::: 7/10 :::::

何かの災害が起きて、避難所のような場所に集まると、そこはいつの間にか大規模なパーティか何かに変わっている。着飾った友人達や、知らない人や、何千人と人があふれている。ホテルのホールのような名前の付いた部屋が幾つもあって、それぞれに分類された人達が収納されている。私は全部の部屋を覗いて回る。誰かを捜している。災害のために自分の犬を犠牲にした人達の部屋もあった。そこを覗くと、苦しむ犬たちの様子が透視でもするようにありありと見えて、とても辛かった。
部屋を渡り歩くうち、中庭のような場所に出た。ブルーブラックのインクを零したような宵闇に、雨が煙っていた。緑の気配がした。植物が夜の空気にまき散らすイオン。私は携帯電話をとりだし、どこかに電話をしようとする。番号がわからないのか、電話の扱い方がわからないのか、なぜなのかもわからないけれど、私は電話をかけられない。緑色に点滅する小さな光を見つめている。両親に連絡しなくてはいけないと思う。でも両親の居る場所は安全だったと私は知っていた。でも私の安否を知らせるという義務はある。私は黒っぽいイブニングドレスのようなものを着ていた。自分が闇に溶けていきそうで少し気持ちが良かった。
中庭を過ぎるとまた広間があった。外国人の初老女性がいて、私を迎えてくれる。私はそこにホームステイしていることになっていて、私が帰ってきたといってその女性は喜んだ。私はそんな人はまるで知らず、何のことだかまったく覚えがないのだけれど、誤解されたまま演技を続けた。そんなことをしているうち、捜している人のことを忘れかけた。
次の部屋に向かうと、披露宴会場のような大広間。テーブルに着いた沢山の人達。普通の披露宴よりも明らかに人口密度が濃いのだけが不自然。人をかき分けるように中を進む。いつの間にか、私はその模様が中継されているのをテレビで見ている。あるテーブルにカメラが寄った。私の捜していた人がいた。同胞たちと一緒に楽しそうな笑顔。私はその人に話しかけなければと思ったけれど、周囲の仲間は誰も知らないので、ためらって、そのまま通り過ぎてしまった。カメラも移動して次のテーブルを映す。ただ、その人が無事でいてくれたのが判っただけで安心した。それでも私は次々とテーブルを巡り、捜すことを続けていた。誰を捜しているのかも判らずに。他にすることがなくなってしまったし、何をして良いかも判らなかったし、惰性だけで探し続けていたようだった。
::::: 6/28 :::::

私は多分高校生で、英語の授業を受けている。先生は陰険な顔つきの太った中年女性で、不思議なほど似合わない形の眼鏡をかけていた。教科書の1ページ目には、たった1行の文章が書かれている。部分的に太字になっていて、文字の配置に際だった美しさがあると感じるのだけれど、英語とは思えない見知らぬ言語。私は指名され、その文章を音読し和訳しろと命じられる。さっぱり解らずもじもじとしていると、教師はものすごい形相で機関銃の如く嫌みたっぷりの言葉を発する。延々と続く言葉に、気が遠くなるような感覚が波のように迫ってきて、いつの間にかうつ伏して眠ってしまう。うつらうつらしながらも隣の席の男子が指名され答えているのがわかった。彼もすらすらとは答えられないようだった。よく考えると、彼は隣の席じゃなく私の席に座っている。でも私も確かに私の席にうつ伏しているのだけれど。
たくさんの学生が椅子を持って講堂に向かって歩いている。教室の机は後ろの方に集められ、もう椅子は何個も残っていない。私は講堂に行くことにとても嫌悪感を感じている。仲の良かったひとりの友達がいて声をかけるのだけど、彼女は部活の仲間と一緒に賑やかに歩いていってしまった。私は仕方なくひとりで講堂へ向かう。椅子がとても重い。薄暗い階段を上ったり下りたりする。奥まってゆるくカーブした廊下の先にガラス製のシャッターがあり、その向こう側は空調が狂気じみた異常な稼働をしていて、屋内スキー場のようにとても寒い。左側にトイレがあったので私はそこに逃げ込むように入った。つきあいづらかった馬の合わない同級生がいて、彼女は笑顔で話しかけてくる。蜘蛛の巣に捕まったような気分。講堂にはオーケストラの部員がたくさんいて練習をしている。私はなぜだかその集団に入り込んで一緒に演奏しなければならないことになっている。
::::: 6/18 :::::

ケレンアンの二枚目のアルバムにリミックスが存在するということを知り、早速入手する。聴いてみると知らない曲ばかりで、リミックスじゃなくミニアルバムだった。甘酸っぱい切ない声は昔のままでなんだか嬉しい。生き生きとして断然艶っぽい。湿気の感じられる音。これは東洋的な湿度だと感じる。日本での休暇というのがコンセプトみたいで、確かに、西洋から見たエキゾチックな東洋の匂いを意識して作られている感じ。古き良き昭和の時代の、お菓子のパッケージ等をコラージュしたようなアートワーク。そのコラージュは音の世界にも連なり、細やかに編み上げられている。レトロでありつつ近未来的。このころはパートナーだったバンジャマン・ビオレーがアレンジしてるはず、と思っていると、3曲目の導入部で無表情な呟くようなコーラスが聞こえてくる。やっぱりこの声。どこまでも調和がとれていると思う。ふたりの魂の波動は不可分なものだと強く感じる。世界にこんな完全な調和が有り得るというだけで素晴らしい、理想的なモデルだと感じ、秘やかに憧れている。とても切なくて胸が裂けそうな心持ち。
::::: 6/04 :::::

車に荷物を積み込んでいる。母と私、後部座席に知人の女性とその娘さん。冷凍した魚がたくさん座席の右側に置かれていて、3歳くらいの娘さんはそれを嫌がった。魚を袋にも入れずにただ放り入れたのは母だったけれど、私が罪をかぶって謝ることになった。荷物が多くて積みきれない。部屋に戻って本棚を見ると大切なものは皆残っている。大切な人にもらったプレゼントがあって、それをすっかり忘れていたことに気づく。大切なノートもたくさん積まれていた。猫の形をしたブローチもあった。それを持っていくのがいいのか、ここに残すのがいいのか、まったく判らなくて途方に暮れた。
::::: 6/03 :::::

有名な占い師に運命を鑑定してもらっている。私のトラウマチックな部分も色々ピタリと言い当てられ、中でも多分一番デリケートな内容を囁くような小声で言い当てられて、私は泣き伏してしまった。可哀想で強くは言えないね、と言ってとても優しく慰めの言葉をくれた。きついので有名な人で怖がっていたのだけれど、安心する。
私の望みも何もかも先刻承知で、満面の笑みで「よかったねえ」と言われた。その願いはまもなく叶うと。今年から3年間が私にとってとても運気の落ちる時期で、さらにもっと大きな流れにおいても最悪な時期の真ん中にいるのだという。そのどん底で掴む幸運は本物中の本物なのだというようなことを言われた。
父親との関係の中で問題が残っているそうで、その問題を大きくとらえずに他人事のように受け流しなさいと言われた。父と思わずいい意味で他人として接したらいい、受け入れすぎるから反発もあるのだと。
夢の途中でこれは夢だという認識が生まれてきて、同時に夢の中の感覚が鈍っていって、最後の方は顕在意識に邪魔されたような形で途切れてしまった。
カーテンを閉め切らず月明かりに当たりながら眠っていた。満月だった。
::::: 5/24 :::::

鏡の前で髪を切っている。どうも上手い具合に切れず、手直ししていくうちに変になってしまった。俯いて頭頂部を映してみると、前髪におろした部分が異常に後ろの方の髪で、不自然なマッシュルームみたいになってしまっている。うんざりして誰かに直してもらおうかと思うけれど、この頭ではどこにも出かけられない気がする。これなら切る前の方がずっとましだった。いつでも、何をしても、無駄な行為をして改悪するばかりだという気がする。一番はじめに戻りたいと強く思う。
::::: 5/22 :::::

作曲家は兄で、その妹と私は並んで彼の前に立っていた。彼はどちらかを選ばなければならないようだった。妹と私とはそれぞれに用意した自作の曲を演奏したか歌ったかした。自信がなかった。作曲家は私の曲を支持した。私はとても胸が熱くなり、その瞬間に彼をずっと愛していたことが判った。私はこれ以上ないくらいに誇らしく感じたけれど、妹は兄の選択など些細なことのようにまるで堪えていない様子だった。それが私には不思議だった。私にとって彼は神の如き存在で、全てがその胸三寸にかかっている。選ばれた私は自分自身も神になったようにすら感じた。全能で、無限で。あるいは自分が完全な無になったように感じた。無能で、やはり無限で。それはどちらでも同じことだった。
::::: 5/07 :::::

冷凍された缶詰のパイナップルスライスの上で、スケートをしている。巨大なパイナップルは土星の輪のように宙に浮いているようで、不安定に揺らいでいるけれど逆にそれが心地よくもある。パイナップルの端は切り立った崖のようで足下に暗黒の宇宙が広がり、一つ間違うとそこに吸い込まれていくことが判っている。それが何故かとても心地よいので、私は気分良く滑っていた。私はやがてその円盤から足を踏み外し落ちそうになる。となりで滑っていた人に咄嗟にしがみついた。それが誰だかわからない。けれど絶対の信頼を置いていて、私は少しも不安ではなかった。こんなふうに誰かに頼ったことがかつてもあった気がした。それが何時のことだったかとぼんやり考えた。
::::: 5/02 :::::

鶏の料理を大量に作っている。たくさんの鶏の首を折り、羽をむしる作業。肩の骨を脱臼させるのが何故か一番悲しくなり、辛かった。料理を仕切っているのはとても尊敬する師と呼ぶべきような人で、彼の前で涙を見せたりすると軽蔑されるような気がして怖かった。大きな寸胴の鍋にお湯をなみなみと注いで、鶏を次々に放り入れる。可哀想がっても料理が目の前に並べば私だって平気で食べるのに...。ただ幼稚なバカと思われたくなかったためだけに、その作業を黙々と続けていた。
::::: 3/09 :::::

目が大きすぎる、睫毛が長すぎることをコンプレックスに感じている女の子と出会った。それが魅力なのに、本人はとても嫌っている。化粧していないのに睫毛が目に覆いかぶさるくらいに黒々と伸びている。それを誉められることをなおさら嫌っている。私は彼女の容姿にまったく構わなかったので、彼女は私に心を開いてきてくれた。
::::: 2/09 :::::

スキー場にあるリフトは2人乗りだった。上の一人は座り、下の一人は両手でぶら下がる。修練が必要で、私たちはその練習に来ていた。私とペアを組むことになったのは大和田くん(実在しない人だけど名前だけは認識していた)で、男性だし遠慮して下のぶら下がる方を選んでくれた。いざリフトに乗る順番が来ると、私は何か大事なものを忘れたことに気づいて、大和田くんに謝って取りに走った。
ロッジのような場所はショッピングモールに変わっていて、マクドナルドみたいな大きなファストフード店が安っぽいテーブルと椅子を一面に並べていて、向かいには家電量販店があって、中央の広場では何やら賑やかなイベントが開催されている。それに併設してチョコレートを展示販売している。そんな中を慌てて走り回り、私はリフト乗り場へ帰る道が分からなくなってしまった。ファストフード店で部活の仲間が昼食をとっていて、そのなかにFがいた。仲良くしてくれていて、向こうから声をかけてきた。道に迷ったと言うと、バカじゃん?とからから笑って、リフト乗り場への行き方を教えてくれた。確かにさっき走り回っていた時には何故かまったく見つけられなかった入り口があった。しんと冷たく湿った雪の気配がする。これは間違いないと思う。長く薄暗い渡り廊下を走った。
リフト乗り場に着いた時には、すでに誰もいなかった。家電量販店の販売員が歩み寄ってきた。大和田さんから伝言がありますけど、あなたのお名前は?と訊ねる。なんで名前を言わなくちゃいけないのかと思っていると、本人だと確認しなければ伝えられませんから、と言われた。
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