目的の階にいるのに、その部屋が見つからない。 何度もうろうろと歩き回っていると、トイレが掃除されていなくてとても汚かったりするのが目に入った。 途方に暮れていると、非常時に開けるようなドアがガッと開いて、なかから中年の男性が顔を覗かせた。 名前を呼ばれたので、この人がセミナーを主催する人だと分かった。 安心してついて行くと、非常ドアの向こうに部屋がいくつもある。 見つからなくて苦労したと伝えると、不思議そうな顔をされた。 主催者を中心に、円を描くように椅子を並べて、10人ほどの人がすでに座っていた。 すぐにセミナーが始まり、全員に何かのエネルギーが流された。すると私は勝手に体が左右に揺れ始め、それが激しくなって両隣の人にぶつかってしまった。 主催者は問題児を見るような顔で私を見ながら、セミナーをストップして言った。 「あなたには決定的な欠落がありますね。エネルギーを受け取ることに傲慢です。もっと神にはひれ伏すように、従順な気持ちにならないと。」 私はなにも考えていないのに勝手に体が動いてしまったと主張するのだが、ますます軽蔑のまなざしで見つめられた。参加者のひとりが、「そんなに傲慢でいられるなんて信じられない、私たちはもっと感謝してへりくだっているもの。」と言う。 主催者は私への態度をガラッと変えて、新入社員をこき使うかのように、全員にプリントを配る役をさせた。 私は真面目に、心を込めて配ったが、あからさまに軽蔑されている空気が肌に突き刺さる。主催者はその様子を鼻で笑っている。 私のなかでブチッと何かが切れて、どうせレベルが下の人間だと思われているなら構うものかと、持っていたプリントを机に叩きつけて言った。 「こんな態度をとるのが{神}なんですか? 傲慢なのはどっちですか!」 主催者はきっと、哀れむような顔をしているに違いないと思った。が、実際は、図星を指されてうろたえているかのような顔をしていた。 一刻も早くここを去りたいと、エスカレーターが逆流するなかを無理矢理泳ぐように階下へと急ぎ、ビルの出口を探す。 隣のビルへの狭い通路があり、隣のビルに入っている蕎麦屋の店内につながっていた。お蕎麦屋さんを抜けて外に出られますか? 通路の入り口に行列していた人たちに訊くと、みな笑顔で快く、出られますよ! と答えてくれた。 ::::: 2009/9/21 ::::: 私の方が先だったのだし何も私が悪いわけではないのに、なんだか悪いことをしたような気がしてきた。このレインボークオーツもなんだか自分にはそぐわなくて、その女性の方が似合っているような気がしてきた。 とうとう私は、その女性にこの丸玉を譲ることにする。女性はとてもとても喜んで、まさに満面の笑み。 私は、いいことをしたはずなのに、晴れない心を抱えていた。 ::::: 2009/8/27 ::::: お正月だったらしく、お雑煮を作ることにする。体が温まるし、お餅を食べれば力もつくだろうと思った。とっておきのだしと味噌があるので、それを使って作ることにした。食器棚から器を探すけれど、端が欠けていたり、大きすぎたり小さすぎたり、丁度いいのが見つからない。これでいいか、と思うものが見つかってコンロの前に戻ると、母がすでに、近所のスーパーで買ってきた特別美味しくない味噌で味付けをしてしまっていた。文句を言いながら味見をすると、お砂糖でも入っているように甘い。甘酒のような味がした。K君はそのお雑煮を、心から喜んでいる様子ですっかり平らげてしまった。美味しくなくてごめんなさいね、と謝ると、とっても美味しかった、こういう大衆的な味に飢えていたんですとK君は言う。K君はなんだか韓国人俳優のJにそっくりに見えた。韓国のJ君に似てますね、この間テレビで一緒に出てましたよね?と言うと、急に曇った表情になり、僕はJなんて人は知りません、会ったことはないし、嫌いです、と言う。そう言っているK君はどんどんJ君に似て見えてくる。俳優なんかに知り合いはいない、一般の、普通の家庭の団らんが恋しいという彼は、完全にJ君になっている。切れ長の特徴的な美しい目で射るようにこちらを見ている。少し充血した赤い目をしていた。 私はコーヒーを心を込めて淹れて、ソファーに腰掛けている彼のところへ持っていった。ソファーの前のテーブルは雑然と物がたくさん置かれたままで、掃除も行き届いておらず隅の方にほこりが溜まっていた。カップを置く場所もなくて、私は恥ずかしい思いをしながら片づけようとする。J君は、そんなこと全く気にならないから、そのままでと言って、その汚いテーブルの隅っこにコーヒーカップを置いた。J君はそのままうつらうつらし始め、電車のなかで居眠りする人のように、私の肩に頭を預けて眠ってしまった。 ::::: 2009/11/23 ::::: とても華やかな装飾の施された靴を見つけた。ジャスミンの蔓が左右から巻き付いているような柄のストラップパンプスで、花や葉の部分は凹凸があり、よく見ると蔓は実際に細かい細工で靴に巻き付けられていて、立体的になっている。第一印象でとても素敵だなと思ったけれど、装飾過多で履きにくそうだとも思った。 次の瞬間、私はお店でその靴を試し履きしていた。足を入れると驚くほどふわっとしていて、ソールにエアの入ったスニーカーのよう。あるいは、低反発素材の枕のようで、グッと沈み込むと、靴は私の足の形そのままに変形した。 踵に華奢なストラップがあるだけなのに、驚くほど安定感があって、こんな靴が本当に存在するのかと訝しく思うほどだった。 もう一足、同じデザインで踵の低いタイプのものもあり、光沢のあるグレーで美しいのは同様だったけれど、少しずんぐりとした見た目の印象。こんなに履きやすいのならヒールのある方が良いと思い、はじめに気に入った方を買おうかなと思った。 履きやすさと美しさと、どちらも完璧に叶えられるものがこの世にあるんだ!と感激していた。それと同時に、両方を叶えられるものなんて在るわけが無いという思い込みを、今まで持っていたことに気づいた。 ::::: 2009/11/18 ::::: 目的地にはあっと言う間についた。そこは何故か私の実家の前にあるロータリーだった。指定の場所に車を止めると、私の両親が闇の中に佇んでいるのが見えた。両親は表情もなく、機械的な動作で車の後部座席に乗り込んできた。泉谷しげるに似た男が何か話しかけるが、よく聞こえない。周辺で若い男たちの集団が何か大騒ぎしている。泉谷しげるは腹を立てて、彼らに苦言を呈するために出ていった。ドアを荒々しくばたんと締める音。 若い男たちは花火のような発煙筒のようなものを振り回していて、その炎が小さなスポットライトのように彼ら自身を不規則に照らしている。悪意を秘めたようなすすけた笑顔が次々に映っては消える。その中の一人が私たちの車に近づき、運転席の開いたままの窓から顔を突っこんで、ウィンカーを付けたりワイパーを動かしたり、いたずらを始めた。それはだんだんエスカレートして、サイドブレーキを外してしまったりする。危険を感じるけれども「やめてください」と静かに言うだけしかできない。その時車の中から、うちの猫がどこからとも無く飛び出て、いたずらに忙しい男の顔をひっかこうとする。猫が窓から出ていなくなってしまうのを咄嗟に危惧した私は、猫の尻尾をあわてて掴んだ。猫はとても興奮して威嚇をつづける。私はすり抜けそうな尻尾を必死に握りしめた。両親はそれをぼんやり見ている。私は腹が立ってきて、見てないで早く窓を閉めてください!と叫んだ。なぜか他人行儀な話し方をしなければならなかった。母がそれでやっと気がついたように、後部座席から手を伸ばしてそそくさと窓を閉めた。 結局、両親がなぜ対立する勢力なのか、何について対立していたのか、私たち組織は全員、いつの間にかさっぱり分からなくなっていた。 ::::: 2009/11/10 ::::: ::::: 2007/1/05 ::::: 彼らはどことなく私を特別扱いにしている。馴染まない世界から久し振りにやってきたかららしい。その配慮とも差別ともつかない態度に私は苛ついた。テレビ画面に映っているコーンポタージュの缶詰のCMを見て、彼らはそのCMソングや踊りを真似して大騒ぎ。私はそんなCMを見るのは初めてで、ふっとこんなの見たことないなと口走ると、辺りの空気が凍りついた。窓辺にハンガーに掛けたコートが幾つもたなびいている。窓の外の景色は高速で流れていて、この部屋が新幹線か何かの内部にあるようだ。窓が全開で、私の着て来たカーキ色の長いコートが今にも飛ばされそうで気になる。案の定、しばらくして見るとハンガーだけが揺れていた。 帰りの車の中でぐったりしていると両親に起こされ、家が近づいてきたのが見えた。ほっとすると、私を迎えに来てくれている恋人の車が停まっているのに気づく。その人の気配はどこかチョコレートの香りと味わい、その官能性を思い起こさせるもので、私は長い間それから離れていたことを感じる。近づいて、車の窓をノックしようと考えるけれど、今までの私が背負っていた空気のせいで何か不自然な態度に見られてしまいそうで、私だと気づいてくれなさそうで怖かった。どんな風にノックしようか、どんな顔をしたらいいか、考えすぎてもっときごちなくなってしまう自分を感じる。 ::::: 2006/2/21 ::::: やがて新聞記事にジャンジャンの名を見つけるまで私は彼のことを忘れてしまっていた。なぜか彼のことが記事になっていて、私は他の様々な記事に混じったそれを読んだ。ジャンジャンにごはんをあげることも、存在すらも念頭に登らなかったことに驚愕する。そしてまたとても悪いことをしてしまったと悲しくなった。 ::::: 2006/2/15 ::::: 車は町中を過ぎ、狭い商店街のような場所を過ぎ、さらにもっと狭い、古い寺に続く坂道を上っていく。ようやく車一台が通れるほどの道には、左右に面している幾つもの店からはみ出して、本だのお菓子だの色々なものが置かれていて、車はそれらをはね飛ばして進んでいく。かつて来た時にはこんなに狭い道ではなかったのに、と私は考えている。寺には従姉妹や親戚たちや、さらにもっと遠い親戚なのか私の知らない人もたくさんいる。奥から尼僧が出てきて挨拶をする。かなりの年配なのだけれどある意味年齢不詳の、皺だらけの顔をさらに皺だらけにして、尼僧は私を迎えた。前に会った時はまだ小さかったのに、と彼女はしげしげと私を見て言う。昔から神経質だったけどまったく変わらない、と続ける。そして広い畳の部屋に並んでいる人々の中から私の従姉妹を選んで指さし、ほら、あの子も相変わらず大らかで昔のままでしょう、と愛おしそうに口走る。私は尼僧のことをまったく記憶していないので、致し方なくぎこちない作り笑顔で対応する。 私たちは大勢で雑魚寝するようにその寺に泊まることになる。ぎゅうぎゅうに詰め込まれ部屋の中で身動きがとれず、何も出来ないので本棚にある本でも読もうと思うけれど、そこには家の本棚にある本とまったく同じものしかなく、真新しい何かを期待した私はもう何をする気も失せてしまった。皆が同じ方向を向いて座っているので、同じ方向へと意識の上でのレースをしているよう。するといつのまにか実際に私たちはカーレースをしている。車が前後左右にひしめき合って一触即発。 次の瞬間、私たちは畳の上で並んで眠っている。右隣に寝ている男性は枕を抱きしめて熟睡していて、恋人の夢を見ているようだった。彼の求める人が私ではないのをよく悟って、私は右隣に背を向けた。左隣にいる人が、ずっと私を待っていてくれたような気がしていた。その人は眼鏡をかけていて、どこかで会ったことがあるような気がした。その人は俳優Bで、私は私ではなく女優Cになっている。これは昔ドラマで見たことがあるお話だったんだ、ああそうか、と腑に落ちた。 ::::: 2006/2/05 ::::: 小冊子が送られてくる。社会で成功している女性たちが数人紹介されていて、私は暇つぶし程度の感覚でパラパラと見ている。天然香料の画期的な調香法を編み出し、方程式に当てはめるようにシステマティックに、そして簡単に調合することが可能になったと紹介されている。その女性起業家の世に出した香水は100種近くあり、すべて小さな写真とともにリストアップされていた。香水瓶のデザインもひとつとして同じものがない。GoodLuck!とかなんとかいう名前がポップな字体で書かれた、蛍光色に近い濃ピンクの真四角の瓶に入った香水が一番人気だそうだ。小冊子には調香の方法論についても解説があり、植物の写真とともに香料の紹介がある。ありがちな、既視感の拭えないページデザイン。香料のイメージによって色分けされていて、黄色が他の色よりも不自然に多い気がする。かわいらしいお茶目なイメージが好まれるのかな、私は嫌いだけど。などと考えながら読み進む。縦軸と横軸に幾つかの香料を当てはめていくと自動的に最適な配合の分量が計算できるというグラフのようなものが出ていて、信じがたいけれど実際その通りにうまく出来そうだと、夢の中では思えた。賞賛と羨望の思いが入り交じって少し酸っぱい気分。でもリストを隅から隅まで見ても欲しくなるような香りが1つもなかった。諦観。でもそれによってほっとしたような心持ち。 ::::: 2006/2/03 ::::: ::::: 2006/1/31 ::::: ::::: 2006/1/30 ::::: ::::: 2006/1/28 ::::: ::::: 2006/1/10 ::::: ::::: 2006/1/06 ::::: ::::: 2006/1/03 ::::: |