起爆装置


わたしにとってこの世界とは
あの海でもなくあの空でもなくあの森でもなく
ただあなたひとりの存在となって

決して病むことのない
わたしという起爆装置

チケットを握りしめ
真新しい靴を履き
異国の地を旅しても
陽光の中に見たのはあなたの不在だけ
或いはあなたの残り香
あなたの予感

揺らぎのない整列した記号とそのルール
光しかない絵画
たましいを剥ぎ取られた意味のない音声

あなたを失うということは世界を失うということ
それでも稼働する歯車が怖ろしいだけで
あなたがその内部に透けて見えるのが怖ろしくて

蒼すぎる闇に沈み込むこと
背中に開いたどす黒い銃痕
燃える珊瑚の焦燥に似た歌声
水の底で浮遊する
結晶になりきらず破裂する細胞
還っていく
わたしはすべてに分割される
ここで輝く円舞を夢見る
あなたを深く呼吸するように生きる

熔けきる前に醒めなければならないのか
熔けきれば醒められるのか
まだわからない
おそらく両方かも知れない