聖杯


その神殿に立ち入るために
わたしは過去をもぎり取り
差し出すその手をはじかれた
魔物は汚物を愛さない
欲しいのはお前の今だと轟いた声

清き水の沸点は高い
わたしの今は濁された
指定された無機物は検知されない
わたしの今は拒否された
古時計は振り子を凍らす








哀願する涙には微塵も含まれはしない
酸化した鉄をあなたは要求する
矛盾を叫ぶ
それこそを献上せよとあなたは云った
わたしの空は低くなる
総てのものが聳え立つ
その森はいよいよ深く
扉の前で立ち尽くす姿は
ガラスのひずんだ表層に揺れ
飛び立つ鳥の羽音だけがした

今を零しつづけた聖杯は
後悔という名を持たず
それでも今日を零しつづける
魔物は天使の眼で笑う
こぼれてもこぼれても
聖杯は常に満ちていただろう
謎などはじめから解けていただろうと

2002/4/09