あるお伽話








わたしはあなたとしっかりと手をつないで、空を飛んでいました。つばめのように風を知り尽くし、風に同化して。
何もかもは滑るように滞りがなくて、永遠に続くと思われた風を切る心地よさのなかで、わたしたちは何かを感じることを忘れていきました。何かが間違っているような気がしましたが、ふたりのテレパシーによる会話のなかで、その思いはいつも打ち消されてしまいました。

気流の分岐点が、突然目の前に現れました。
そこへ、姿の見えない神が現れました。
神は告げました。
ここから先は別々に行くといい。ふたつの道はやがてどこかでひとつになっているから、心配はいらない。まだ見たことのない世界、感じたことのない思いを味わってみたいなら、今の退屈以上のものがそこにひらけているよ。

その声を聞くや否や、あなたはわたしの手を放し、いそいそと分岐点を越えて片方の道へと飛び去ってしまいました。
わたしはもぞもぞと、残されたもうひとつの道の前で翼を震わせ、不安に怯えていました。飛び立つための最初の一撃を自分に与える勇気が出せず、怖くて、「戻ってきて欲しい」といつものようにあなたに意識で語りかけました。しかしそのデータは受信を拒絶されて舞い戻りました。

何かの終わりは常に何かのはじまりでした。
本当は退屈の大嫌いなあなたも、自分を追い込まなくては動けなかったわたしも、舞台がはじまれば、新しい配役を演じるのです。
何度も何度も、姿を変えて違う物語を演じるのです。

ぬくもりの記憶を額縁に入れて枕元に飾り、夜ごとに眺め。
光のなかの闇として、闇のなかの光として、よく知った出口を、その手を、見つけ出すのです。





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