だんだん森は深さを増していく。辺りも暗くなる。道はより細く細くなり、糸の上を綱渡りをしているよう。足元がふらつく。その先にはぼんやりと光が見える。トンネルの終わりを視界に捉えたように。 やがて綱渡りの終了地点、大きな水晶の壁面が聳えている。そこに手を触れてみる。密度のある冷たさ。それが徐々にぬくもりに変わり、触れた部分が溶解しはじめる。すると荒々しく手を握られ引き摺り込まれたように全身が水晶のなかに吸い込まれる。
水晶のなかは目映いほどの白い光に満ちている。目が眩む。深い闇にそれまで真っ黒にしか見えなかった木々の緑色が水晶に映り込み、視界全体が淡く透明なパステルグリーンに染まっている。
隣に気配を感じる。とても懐かしく愛しいその波動。その人は私の隣に寝転がる。そっと手を握る。寄り添う肩にぬくもりが拡がる。
いつしかふたりの身体から悦びにも似て溢れ出たその模様は、水晶の球全体に拡がる。水晶はじわりじわりと膨張していく。それは風船が膨らむ時のような緊張では決してなく、浸透圧の差によって外界が雪崩れ込むような感覚。
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