被写体




誰かの彩りがふっと横切るたび
私は私の血を煮沸する
汚れないためにと閉じられた水門は
その池を濁して行くばかり
高みの見物
自分の細胞たちが今
こうしてよじられていくというのに

地下水脈を占う振り子に
この運命を委ねてみる
絞り込み押し込んだ小さな窓から
深海魚の鮮やかな発光が映る
私は夢中でシャッターを切った
ひとりきり
初めて世界を見た
世界は私に肩を組んできた
そんな気がしたから

水門の外の世界は群生した苔
見なくてもよく知っている風景
もう
そこへ戻れなくてもいい





2002/3/21