背徳

草いきれがまだらに染めていく残照の忘物
無数のくさびが降りかかったそのあとに
猫のような正確さであなたは濡れた頭を振るう

水源からの甘い気配に
波紋の描き取る同心円の喝采
耳のなかで羽音はくすぐる
蜜蜂のようなその声帯

苔のむしろに続く足跡が浮かび上がり
疼き切れぬ想い出が自暴自棄な試走を始める
交差する眼軸で語らいそれを背後に見やる
くるぶしの緑泥を薬指がなすりつける
石膏より起伏のない白さで
私の頬が応える

木々を縫い浮遊する瞳々
軌跡の彩なす濡れ羽色の夜会
殺めた果実が足下で淫らに熟し切る
かつてもぎ取られた飛翔の理由を
背中の二つの空洞は
放心したままに憶えていた

噛み切った口唇にすでに煮詰まった滴
薬指がなすりつける
月光より儚さを代謝する碧さで
刹那の海に禊が沈む