裸身


夏に後れた蝉は狂ったサイレンのように笑いつづけた
序章をせがみ遠い潮騒が転がる
光は眩しすぎ 影は黒すぎた
きみの居場所は何時も立ちのぼる蒸気のなか

きみの香りがするたび振り返った
眼に痛いほどの緑が其処で微笑んでいた
空を抱き 陽に晒す
すべての襞を焼き切るまでは

受信した声は胸に詰まって苦しい
きみの喉笛なら世界中の石の分身
聴かせて薔薇輝石 闇のほとりにも 無為な砂浜にも
死んだ魚が岸に溢れてもきみはすべてを愛している

放物線が水際へと墜ちる
雷鳴よりも轟くもの
涼しさに微睡む風が亜熱帯の嵐を抱擁する
透き通る海の裸身 砂は沈む

壊れそうに微かな息づかいだけを奏で
きみは長い間此処で歌っていたの
身悶えた地底の流線 名付けられぬ視線
押し殺した邂逅
呼吸を止めてしまいたい