太陽と月と青い鳥








夢を見た。
夜なのか昼なのか分からない空間。赤と緑のインクを混ぜ合わせて出来たような鈍く暗い、黒に近いが名付けようのない色彩が、天空一面にまだらに流れ出ている。

太陽がそこにあった。暖炉の炎のような、あるいはその前で微睡む老人の頬を思わせるような穏やかな色。それでも燃えさかっている様子が間近に手に取るように映る。プロミネンスの躍動がくっきりと見える。
空がばらばらと崩れ落ちたあと、大気の無くなった状態の空を仰ぎ見ているようだと思った。

追いかけるように、月が昇る。
シフォンのような柔らかに溶け入りそうなレモン色をしているが、望遠鏡で見たままの表面の凹凸の様子が、滲む光に反して際だって輪郭を保って映る。月は太陽より一回り小さく、周囲に何も発散していないが故に正確な円を描いている。しかしその正確さすら自ら忘れているかのように何も主張しない。

太陽と月が、少し距離を保ったまま空にふたつ。
自分たちで空を占領したかのように悪戯っぽく囁き合う。
彼らの間を盛んに電波が行き交うようだ。電波は乱反射し可視光線となって空に無数の細すぎる糸を引いた。私はそれを傍受できない。アンテナのように意識が空へと伸びていく。
私は、気が遠くなる。空のまだらな色がまた赤と緑に分離していくように思えて、その分離が行われるミクロな地点まで、どんどん細かさに吸い込まれてしまうようで。

その永い眩暈のなか、太陽と月の在処を見失って、もう一度目を擦ると、白いツバメのような鳥が旋回しているのが見えた。それを目にした途端、待っていたかのように鳥は私をめがけて墜ちるように飛んできた。錐揉落下するように。
鳥は横たわる私の上に乗って、猫のように咽をゴロゴロと鳴らした。近くで見ると、鳥は真夏の雲ひとつない空のように、力強く無邪気で、遠慮のない青色をしていた。塗り絵のように不自然なほど全身が均一な同じトーンの青だった。
未知のものへの恐怖から、咄嗟に私は鳥を払いのけようとした。しかし鳥は当然といった風情で私の首の上に居続ける。鳥の顔をよく見ると、どこかで見知ったような顔で、飼っている猫にそっくりだと思った。だがそれは確かに猫ではなく青い鳥だった。
なせ私を忘れていたの? とでも問いかけるように、鳥は私をじっと見つめる。私は何かを思い出そうと記憶の海のなかに潜りゆく自分を意識した。そのまま気を失うように全てが遠のいた。






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