ファバルス ファビエス ふたりのからだは連なっていた 奇形の双子 3本の腕と3本の脚 どんな色も溶かし込む空を映した 虹のおとし子 その瞳の色を語り継ぐ言葉はなかった 陽に焼けた洗いざらしの木綿布 天井のない部屋 壁に這う蔦の描く濃緑 羽を生やしたふたりの箱船は 嵐の夜 朱い月に光を射られ 崩れ落ちる 白い羽毛が一面に舞った 薄闇を覆い尽くすかのように ファバルス ファビエス ふたりのからだは切り離された 摂理という名の残酷な星 そのたびに血が流れないはずがなく 星屑の隙間を縫って 彼らの瞳はどこにいても宙を旅した もうひとつの地球を探して |
ファバルス ファビエス 互いの残り香に気づくたび 朱い月が嘲笑っていた 幾度でもふたりは涙を流す 嵐の夜 砂利石は海に降り注いだ 蘇る痛みの記憶の骸骨を 叩き割って壊しても 破片の数だけ小さな骸骨が現れた ファバルス ファビエス ひとつのからだに戻りたい 遠くで闇の倒れる音がした それでもふたりは真昼を怖れた 繰り返される宿命の足音だけに耳を塞いで ファバルス ファビエス 遠くで貝殻も泣いていたんだよ やっと気が付いたかい ふたつのからだを持ったから ふたつのからだは抱きしめ合える ひとつのこころで ファバルスは初めてファビエスに触れた 世界でいちばん柔らかな花びら そして花びらは散っていく 何故なら花は 冬を怖れることを知らない |