『パーフェクトブルー』 『心とろかすような』他    創元推理文庫 ¥620
 主人公は犬。警察犬を引退したシェパードの第2の人生は、探偵事務所の用心棒。その名も、「マサ」。
マサの目を通して、様々な事件と登場人物を生き生き描いている。
蓮見安定事務所は、所長、そしてその娘の加代子で運営されている、小さな探偵事務所。高校生の妹、糸子が加わって、3人と1ぴきの家族構成である。そこに、高校生の進也が加わって、首を突っ込まなくていい事件にまで、なぜか巻き込まれてしまう。

『パーフェクトブルー』
 マサ初登場の長編。蓮見家と進也の出会いは、彼の兄の事件がきっかけ。兄は将来を期待されていた高校野球界のヒーローピッチャー。プロ確実と言われた彼が、ある日突然焼死体で発見される。進也は兄の事件を自分で解決するべく立ち上がるが、そこに蓮見探偵事務所の面々がからんでくるというお話。もちろん、マサの活躍はいい味をだしている。
 怪我のため野球をあきらめた少年と彼を助けようとした進也の兄・・・・。様々な思惑が絡み合って、悲しい殺人事件に発展してしまう。また、優等生だった兄にコンプレックスを感じながらも、大好きだった兄の魂を救うためがんばる進也が印象的である。

「心とろかすような」他
 マサの事件簿、短編集。5つの短編がまとめられている。小学生の、高校生の、そして若者の、親の・・・それぞれの立場と行動がよく描かれている。小さな事件でも大きな事件でも精一杯がんばっている姿が表現されいて好感がもてる。まさがその時どう思ったか・・・でも言葉の話せない彼は人間に真実をつたえられない。加代子とマサの言葉を越えたつながりが、事件を解決していく。
『赤かぶ検事』シリーズ 角川文庫・光文社等数社より出版
 主人公は何ともユニークな検事。何故か赤かぶ検事と呼ばれている。赤かぶにじゃこ飯があれば大満足の柊検事。ある日、近所の人から大好きな赤かぶをもらい、それをもったまま法廷に出たのまではよかったが、公判中熱弁のあまり、赤かぶをぶちまけちゃったからさあ大変!法廷は笑いの渦・・・・。そんなエピソードから、ちまたでは「赤かぶ検事」と呼ばれるようになった。人情味たっぷりの人柄と名古屋弁でどんな頑固な被疑者でも口をわらせてしまう。赤かぶさんはカマキリのように痩せた子男だが、かみさんはど〜んとこい!タイプ。性格もあっけらかんと明るくそしてずうずうしい。この二人のやりとりもかなりおもしろい。また娘はエリート弁護士。ときどき、法廷で検事と弁護士として対決するこもある。勝気な娘に振り回されてしまう赤かぶ検事。また、法廷でまみえたことはないけど、息子は判事になって、別シリーズで、けん玉判事として活躍中。赴任先が高山や京都で、行く先々で捜査のコンビを組む、刑事もいい味をだしている。高山では榊田刑事。いい人なんだけどね、のタイプ。ちょっとドジででも純粋な人柄。京都では、美人刑事、行天遼子とコンビを組み何事件を解決する。こちらは美人で優秀、腕っ節も強いスーパーレディ。
 そんな登場人物が活躍するシリーズの数は数えられないほど。ほとんどはこの10年で読破したが、新シリーズも出ていくし、読んでない本もまだありそう。2時間サスペンスでもシリーズ化して、フランキー堺や橋爪功が赤かぶ検事を演じている。

『弁護士芸者』シリーズ 徳間書店より出版
 京都の気鋭弁護士・藤波清香。頼まれると嫌とは言えない性分の彼女の元には、依頼人が切れません。彼女はバツイチ、一児の母であり、恋人と同棲中でもある。それだけを聞くとあまり弁護士らいくないのだけれど・・・・。小学生の息子、公平は素直で子供らしく育っている自慢の一粒種。恋人の多喜男は新進のカメラマン。本当は自然写真を撮りたいが、夢を追いかけてばかりでは生活が出来ないため、ときどき商業写真の仕事もしている。普段は家にいることも多く、外で働く清香の代わりに、主夫となり家庭を守っていたりする。
 さて、清香にはもっとすごい秘密があったりする。実家が京都・祇園の御茶屋なので、ときどき母親からお座敷のヘルプがかかったりするのだ。そんなときは、華やかなお座敷着を粋に着こなし、美しく結い上げた銀杏返しの日本髪という年増芸者の艶姿で登場する。宴の席で思わぬ情報を手に入れ、法廷で弁護人を救うのである。
『弁護士猪狩文助』シリーズ
自他ともに認める事実だが、文助は棺おけに片足を突っ込んだじいさん・・・・・。「いつお迎えがくるかわからんで・・・。」が口癖だが、そんなお迎えなんて当分来そうにない元気者。いつもニスが剥げあがったステッキをついて、膨大な公判記録を風呂敷に包んで法廷に現れる。このじいさん、法曹界では法廷荒しと異名を取る、くえないしたたか者である。都合の悪いことは耳が遠くなったり、公判中検事が熱弁をふるっていても、気持ち良さそうに居眠りしたり・・・。それでも、反撃の時が来ると、しっかり答弁してるから、さすがである。さすがに高齢だけあって、証拠集めに飛び回るとまではいかないが、そこはイソ弁の若手弁護士がじいさんの面倒を良く見てくれるので、思わぬ情報も手に入る。法廷でも、警察でも強引に自分の意見を通してしまうところが、猪というより古狸といった感じだ。
夏樹 静子(なつき しずこ)
東京生まれ。慶應義塾大学卒、在学中にNHKの推理番組の脚本を手がける。結婚を機に文筆業をしばらく中断したが、1969年江戸川乱歩賞に「天使が消えていく」で応募、執筆を再開する。
代表作「蒸発」 「Cの悲劇」 「ダイヤモンドヘッドの虹」 「弁護士 朝吹利里子」シリーズ 他


『Cの悲劇』 光文社 ¥466
結婚10年目を迎える夫婦、芦田和賢と千巻。和賢は在宅勤務を許された優秀なSE。子供のいない寂しさをテニスのコーチをすることでまぎらわす千巻。そんなある日、隣に一人の男が引っ越してきた。梶と名乗った男はいつのまにか千巻たちと自然な近所付き合いをする仲となっていた。
お互いを認め、平穏無事な夫婦生活を送っているとばかり思っていたが、ある日帰宅してみると、夫は無残にも刺し殺されていた。事件の陰にちらつく妖しい女、まさかあのまじめな夫に愛人がいたなんて・・・・。かなしみに打ちひしがれていた千巻にはあまりに自然に梶が支えとなる存在になっていた。家には警察のほか、夫の会社の同僚、初岡が出入りする。彼は、和賢が会社の情報をライバル会社に横流ししていた証拠をつかむため、足げに芦田家を訪れていたのだった。夫の不正を突きつけられて動揺する千巻・・・・。そこに梶が現れ、二人が争う間に入った千巻は、猟銃で初岡を撃ち殺してしまった。二人で死体を始末して心の動揺を隠しながらも何事もなく過ごしていると、また反対側の隣に母親と娘が越してきた。未亡人のユカリは執拗に梶にモーションをかける。嫉妬に狂う千巻・・・。しかしそれはユカリの罠だった。ユカリは突然蒸発してしまった(殺されて隠されてしまった)初岡の妻だったのだ。ふたりが怪しいと考えていたユカリが仕掛けた罠にはまったふたり。そしてとうとう証拠の初岡の落したコンタクトを発見するのだった。芦田家に来なかったとされていた初岡のコンタクトが意味することは・・・・。
何気ないどこにでもいる男女の話だが、殺人の影に複雑な愛憎劇がかくされていた。
どの作品も非常によく取材・研究されていて、しかもストーリーの構成が丁寧に完成されています。何より、女性作家という甘えがないのが、すばらしいです。ストーリーだけなら、男性より男らしいものが感じられます。それなのに、女性としての、細やかさ、登場人物・・・特に女性の心理描写がよく描かれていて、不思議な雰囲気を作り出しています。全体的には、短編が多いのです。主人公も女性であることがほとんどです。作品発表のサイクルは遅いほうでしょうか。それだけに研究されている作品が拝めるので、本屋で新刊が出るとすぐ買ってしまいます。
『弁護士 朝吹理矢子』シリーズ 徳間書店
理矢子は薮原法律事務所にイソ弁として勤めている新人弁護士。薮原勇之進はいぶし銀のスリムでやり手の弁護士であり、司法修習生のころから理矢子の面倒を見てくれている。シリーズで何作か出ているが、修習生時代から、ひとり立ちするまでの様々なエピソードが小説となっている。時には危険なこともあるが、持ち前のガッツと負けん気で乗り切っていく。
門田 泰明(かどた やすあき)

昭和55年、「闇の総理を撃て」がデビュー作。ハードボイルド、医療サスペンス、政治小説等、幅広いジャンルで執筆している。
代表作 「大病院が震える日」 「癌病棟のメス」 「特命武装検事 黒木豹介」シリーズ          「村雨龍 企業暗殺」シリーズ 他
幅広いジャンルの作品が発表されているが、共通することは、どの作品の主人公も「カッコいい!」いい男、いい女でしかもその道のエキスパート。ここまでパーフェクトの登場人物なら、かえって中途半端にわざとらしくなくて気持ちよく読めます。医療舞台の作品を数多く読みましたが、かなり詳しく研究されていて、次が楽しみになってしまいます。
『東京駅で消えた』 新潮文庫 ¥640
大手建設会社部長の曽根寛はまじめなサラリーマン。毎日、判で押したように同じ時間に帰宅し、めったなことで遅くなることもなく、かならず連絡をよこすような男だったが、ある日突然蒸発してしまう。東京駅午後4時57分発、沼津行きの湘南電車に乗って、茅ヶ崎着5時50分。帰宅は6時15分と決まっているのに。その日の足取りを追う、妻と会社の部下たち。東京駅で会社の部下と別れてからの足取りがぷっつりと消えているのだった。やがて、曽根は東京駅の霊安室で死体となって発見される。東京駅になぜ霊安室が存在するのか?東京駅の知られざる歴史もかいまみえる。続いてステーションホテルの非常階段で若い女性の死体が見つかる。曽根と女性の事件に関連はあるのか?この事件の陰には、東京駅の東海道新幹線工事に伴う施工ミスがかくされていた。当時現場の責任者だった二人の人物の責任の明暗が何十年も過ぎた現在に作用していたのだった。
『白の重役室』 光文社 ¥640 
弱冠39歳にして、医療法人・神風会を築き上げた神坂哲。自ら外科医師としての優れた腕を持ちながら、首都圏にに9病院を持つ医療コンツェルンのドンである。彼の野望はとどまることを知らない。10番目に建設予定だった土地では、地元医師会の強固な反対運動が起き、全面戦争となってしまう。影でうごめく、腹の探り合い・・・・。そんな神坂と日本最大の医学部をもつ総合学園の若き会長に君臨している諸沢律子との出会い。帝和学園は実は内情火の車、大きな懐刀がほしいのが本音で、律子は結婚を神坂に迫る。神坂も医学部を創設するのが今までの夢だったため心が揺れるが、結婚は2の次、経営者として野望を達成するほうを優先させたかった。しかし、律子の強引な攻めに結婚を承諾させられてしまう。そんなとき、神坂の有能で右腕のブレーン名島深雪が女としての本音を追求する。ビジネスパートナーから神坂を愛する一人の女となった深雪は、毒殺という手段で神坂を手に入れるのだった。
『特命検事・黒木豹介』シリーズ 公文社
内閣総理大臣・倉脇の命をうけて、影で日本を救う、黒木豹介。CIAやKGBも彼には一目おいている。自ら手ほどきし、鍛えこんだパートナー沙霧とともに、平和のために戦う。数々の死線を共にくぐり抜けてきた愛銃ベレッタを片手に、AH64Aアパッチを自由自在に操る。

「黒豹」シリーズはかなりの冊数がでており、読み応えたっぷりです。痛快ハードボイルド、読んでいて疲れてしまいますが、なにぶんカッコいい。強く、やさしく、いい男なので、フィクションの世界ながら、ファンも多いはずです。


西村 京太郎(にしむら きょうたろう)
東京都出身。
代表作 「十津川警部」トラベルミステリーシリーズ 「消えたタンカー」 「ブルートレイン殺人事件」 「終着駅殺人事件」(第34回 日本推理作家協会賞受賞作)

トラベルミステリー、時刻表トリックの第一人者。中でも十津川警部のシリーズは数も多く、2時間サスペンスなどでも、シリーズ化されて人気があります。時刻表トリックの面白いところは、はじめから犯人はわかっていること。でも時刻表のトリックを崩せない限り、犯人を捕まえられないところが、普通の刑事物小説とは違うところです。また、船舶をあつかったミステリーも何作かあって、電車とまた一味ちがう面白さがあります。
『十津川警部』シリーズ  講談社他
刑事物に多い、うだつがあがらなくてカッコもよくないけど、実はすごい!っていう刑事ではなく、本当にエリートのカッコいい警部である。シリーズも長くなると、階級や年齢も上がってくるが、30歳そこそこで、警部、しかもキャリアでもあるので、優秀。しかしキャリアによくある、デスク上だけで物事を考えるタイプとは違って、動くときは自ら行動、部下たちに人望もある。自分と親子くらいの差がある亀井刑事とは、名コンビである。
『消えたタンカー』 光文社 ¥440
十津川警部のシリーズ、しかも船舶ミステリーの一作。
インド洋上で原油を満載した50万トンタンカーが謎の爆発炎上をおこした。乗組員32名のうち、船長をはじめ6名の乗組員は、脱出する。残りの26名の生死は不明のまま、タンカーは沈んでいく。原因不明のまま、捜査は打ち切られるが、そんな時船長が変死するという事件が起こった。この殺人は、沈んだタンカーに関係している!捜査の責任者、十津川警部のもとに、謎の脅迫状までが舞い込む。そして一連の犯人とされたのは、行方不明になっている乗組員のひとりだった。しかし彼はダミーでしかなかった。この事件の裏は単純な恨みからの犯行ではない。乗組員たちは、にせのダミータンカーを洋上で爆発させ、沈没事故にみせかけ、実は大半の原油を横取りし、それで財を築く予定だったのだった。
内田 康夫(うちだ やすお)

手元に資料がまったくないんです。すいません。ずいぶん読んだのですが、すべて借り物だったため、お伝えできません。
代表作 「名探偵・浅見光彦」シリーズ 他
『名探偵・浅見光彦』シリーズ
主人公の光彦は、浅見家の次男坊。愛車のソアラで各地を取材してまわるルポライターをしている。が、本業よりも、行く先々で巻き込まれる事件を見事に解決する名探偵でもある。長男はなんと、警視総監。立派な兄を持つ風来坊の光彦は、何かと肩身の狭い思いをしているのである。母親はしつけの厳しい厳格者なだけに、兄と比べて何ともたよりなくルポライターなどという横文字のいかがわしい?職業を持つ光彦に厳しい態度で接する。そしてお手伝いのふみこもまた、実は光彦に気があるようで態度は母親に習って、厳しいのである。家に変えると気持ちの休まる気がしない光彦ではある。
この作品で面白いところは、時々小説内で作者が登場すること。光彦の知り合いということで出てくるが、光彦曰く「軽井沢に住んでいるわがまま先生」なのだそうだ。時々、光彦も、作者の家に立ち寄って、事件のヒントをもらってきたりするのだ。
事件の起こった地元警察には、何とも胡散臭く、やっかいな探偵の出現に、非常に嫌な顔をされるが、結局警視総監の兄のことがわかると、手のひらをかえすことになる。
事件中、ロマンスに発展しそうな女性も何人か登場するのだけれど、うまくいった例はない。
松岡 圭祐(まつおか けいすけ)

愛知県生まれ。「催眠」で小説デビュー。「千里眼」は、大藪晴彦賞の候補となる。
代表作 「千里眼」 「千里眼/ミドリの猿」 「煙」 他
人間の心理をテーマにした作品が多数発表されています。ナーバスな部分での心の戦い等が多く出てくるため、いっしょにシンクロすると、暗い気分を引きずってしまうかもしれませんが・・・。引き込まれてしまう、不思議な作品が数多く発表されています。
『千里眼』 小学館文庫 ¥657 
東京晴海医科大付属病院は日本一のカウンセリング科をもつ病院。その病院の心理カウンセラー、岬美由紀。患者たちの信頼も厚く、若いが良きカウンセラーである。そんな彼女の前職は、自衛官。防衛大出の航空自衛官・幹部候補生という肩書きを持っていた。日々、男性に混じり、F15を操るスーパーウーマンだった。ある日、災害救助の際、命令違反をおこし、救難ヘリを操縦、被災地に単独駆けつけてしまった。命令違反で責任を取り、自衛隊を去ることになったが、このとき被災地で運命の出会いをする。東京晴海医科大学病院の院長、有里佐知子と知り合い、彼女のカウンセリングの様子に感動する。除隊後、有里のつてで晴海病院に勤めるようになるのだった。
横須賀基地から突然、都心に向かってミサイルが発射されそうになる。基地に忍び込んでミサイル発射のインプットした男は取り押さえられたが、その男は強い暗示をかけられている様子だった。時間内に解除のパスワードを割り出さなければ、大惨事になってしまう。有里と美由紀が基地によばれ、様々な方法で聞き出そうとするが、うまくいかない。間一髪のところでパスワードを割り出し、なんとか回避することが出来る。男は、宗教カルト集団、「恒星天球教」のメンバーだった。この教団は過激でかなり危険な集団であり、恐れられている。千葉・房総に立つ巨大観音像の隠し部屋には毎日少しずつ信者の男女が運び込んだ材料で組み立てられて行く、悪魔の装置が人知れずつくられていた。完成の暁には、羽田・成田を利用する航空機がすべて敵侵入機としてご判断するような、強力な電波を発するように出来るのだ。阻止すべく、戦う美由紀だったが、何よりも美由紀を驚かせたのは、一番信頼していた有里が恒星天球教の教祖だったこと。人を救うためカウンセリングをしているやさしい顔の裏は、実は悪魔のカルト集団の長・・・・。血も涙もない悪魔の計画を遂行するために、幹部の脳の一部を手術し自分の意のままに動く操り人形にしていたのだった。計画を命がけで阻止した美由紀は、逃げる有里を追ってF15で追撃する。そして、有里に向けて、運命のトリガーを引かなければならなかった・・・・。
2000年6月、水野美紀・黒木瞳・柳葉敏郎出演で東映で映画化された。
桐野 夏生(きりの なつお)

「顔に降りかかる雨」で第39回江戸川乱歩賞を受賞。
代表作 「顔に降りかかる雨」 「天使に見捨てられた夜」

 
先に「天使に見捨てられた夜」を読みましたが、この本との出会いは、ちょうど新しい作家を開拓しようと思っていた時期に、本屋で見つけ、まずタイトルに惹かれました。そんな不思議な魅力のある本だったのです。女性ゆえに、描写が細かく、そしてけしてきれいでない・・・・。飾りをなくして本音の文章を感じさせるため、引き込まれてしまいます。
『顔に降りかかる雨』 講談社 ¥619
親友のノンフィクション作家、宇佐田耀子が一億円という大金と共に消えた・・・。そして、彼女の最後の足取りは、主人公、村野ミロのマンション前で消えていた。一億円は耀子の恋人、成瀬時男が事業のために都合したもので、一時耀子のマンションで預かっていたものだった。金の出所は言わずと知れた暴力団がらみ。もちろん成瀬も疑われているが、ミロも親友と共謀して金を騙し取ったのではないかと疑われる。期日までに金がもどらなかたら・・・と脅しをかけられ、成瀬とふたりで耀子の消息を探すこととなる。耀子の足取りを追っていく途中、彼女がかなり危険な取材をしていたことに辿り着く。そして彼女が好んだ死体愛好家の劇作家が死に、プロテューサーと耀子のアシスタントの女が消えた。自殺した劇作家の自宅から、耀子が水死体となっている写真を見つける。耀子は、プロデューサーとアシスタントの共謀によって命を奪われ、金を取られて捨てられていたのだった。これで一件落着・・・・となるはずだったが、真相はもっと深いところにあった。一緒に恋人の行方を追っていた成瀬こそが、真犯人だったのだ。成瀬は仲間の山崎龍太と耀子を殺し、そして彼女が金を持って逃げたとしてその金を自分たちが奪う予定だった。ところが死体を隠しに行っている間に、プロデューサーとアシスタントが先に金を奪ってしまったのが真相だった。結局、成瀬はミロを利用し、金を取り戻すのが目的でいっしょにいたのだった。成瀬が海外に出発する直前、真相を知ったミロは、成田で自分の推理と証拠を成瀬に突きつける。ミロの心には、冷たくさびしい雨がふりかかるのだった。
大沢 在昌(おおさわ ありまさ)

1979年、「感傷の街角」小説推理新人賞を受賞。
代表作 「新宿鮫」 「B・D・T」 「天使の牙」 他


ハードボイルド小説を数多く発表しています。
『新宿鮫』 光文社 ¥590
単独行動で静に知らないうちに背後に忍び寄り犯罪者に喰らいつく・・・・。「新宿鮫」と恐れられている、新宿署刑事・鮫島。キャリアであり将来は幹部となる人材だったが、新人キャリアとして研修に行った先の警察署の刑事の不正行動を摘発したが、逆襲してきた刑事と対峙して相手に瀕死の怪我をおわせてしまった。そんないきさつから、エリートコースをはずれ、転々とした先が、新宿署。ここでも仲間刑事と組んで捜査することもなく、単独で行動するようになっていた。
歌舞伎町界隈で連続して警官が射殺された。警官に恨みを持つ者の犯行か?!犯人逮捕に躍起になる刑事たちをよそに、鮫島は銃密造の天才・木津を追う。
鮫島には以前の事件で知りあった恋人のような存在、晶がいる。彼女は最近人気を集めているロックバンドのボーカルで、近々メジャーデビューをひかえている。自由奔放、外見だけを見ればたたのフーテン娘だが、人の痛みがわかる芯の強い女の子である。一匹狼の鮫島と気が合う不思議な子でもある。
警官を射殺した銃は木津が作ったもの。やっとの思いで木津のヤサを見つけ出した鮫島だったが、単独行動があだになって窮地に陥ってしまう。間一髪のところで、万年窓際の刑事に救われた。彼もまた過去の事件のため窓際になってしまった一人だった。木津は鮫島を救うため射殺される。
木津死亡のため、以前警官殺しの犯人は特定できず、逃げ回っている。そして、新宿署に一本の予告電話。歌舞伎町の人の集まる場所で大勢の目の前で犯行を行なう・・・。しかしそれだけでは雲をつかむようなもの。その時間コマ劇場では女性歌手のコンサートが行なわれる。誰もがそちらに事件が起こると想像し、警備の手配をする。そんな中、鮫島だけがライブハウスに向かう。そう、晶のライブが行なわれている会場に・・・・。ターゲットは晶だったのだ! 寸でのところで、自分を盾に晶を救い、犯人を逮捕する。
数年前に映画化された、ハードボイルド。最後まで息が抜けず、楽しませてくれる。
                                                                                                                          
                                                                              
                                                                                                                           
    
  作 家 名              代 表 作
 森村 誠一  「悪魔の飽食」 「野生の証明」    
 宮部 みゆき     [スネーク狩り」 「RPG」 「レベル7」
 和久 峻三
 「赤かぶ検事」シリーズ 「弁護士芸者」シリーズ 「けん玉判事」シリーズ
 夏樹 静子  「天使が消えていく」 「東京駅で消えた」 「Cの悲劇」
 門田 泰明  「黒豹」シリーズ 「大病院が震える日」
 西村 京太郎  「十津川警部」シリーズ
 内田 康夫  「名探偵 浅見光彦」シリーズ
 松岡 圭祐  「千里眼」 「千里眼/ミドリの猿」
 桐野 夏生  「顔に降りかかる雨」 「天使に見捨てられた夜」
 大沢 在昌  「新宿鮫」
  実は、結構小説好きなんです。なにせ通勤時間が長いため、行き帰りで読めるんですよ。ほとんどが、日本のサスペンス&推理系ですが、ご贔屓作家とその作品たちを紹介したく存じます。、また、お勧めがあったら、書き込んでくださいね。
埼玉県生まれ。青山学院大学卒業後、ホテルに勤務。                             「高層の死角」にて、第15回江戸川乱歩賞を受賞する。                            代表作 「人間の証明」 「悪魔の飽食」 「忠臣蔵」 「死の器」 「異形の白昼」 他 

幅広いジャンルやテーマで発表されています。ノンフィクション分野でもベストセラーになるほど、研究熱心で緻密な取材を重ねてまとめられています。文章構成の傾向としては、別々の関連がないところからそれぞれ事件がおこり、最終的にはひとつに関連づけられていき、結果がわかる・・・ような構成が多く、最後まで気がぬけません。作者がホテルマンだった経験を活かし、ホテルを舞台にした作品、刑事物、サラリーマン悲話、ホームレス、社会・政治、極道、等々、様々な登場人物と奇抜なストーリーで楽しませてくれます。また、刑事ものでは名物刑事もでてきて、ストーリー的には別の次元でも登場人物が重なっていることも多く、「ああ、あのときの!あの本の!」と思えるおもしろさがあります。

森村 誠一(もりむら せいいち)
『流星の降る町』<星の町>改題    講談社 ¥495 
 日本最大の暴力団が考え出したとんでもない計画とは!?それは風光明媚な地方都市ひとつ丸ごと乗っ取り「首都」にすることだった。地元市民たちは、組の構成員のやりたい放題の悪行にも、泣き寝入りするしかなかった。そんな街で暮らす、7人の市民が立ち上がった!生涯の終焉の土地と考えやっとたどり着いた街を、守るために・・・・。引退した泥棒、元軍人、元SPなど特殊能力を生かし、近代暴力団相手に戦争を仕掛ける。生涯型マンションは、彼らたちの砦、兵糧攻め、水攻め、催涙弾・・・・様々な攻撃にも彼らたちの団結する力を前には、なすすべもない。そしてとうとう、街を守り抜く。しかしこの騒ぎのおかげで、彼らたちの過去が白日のもとに出てしまう・・・・せっかく守り抜いた終焉の住処も去らなければならなかった。しかし、彼らたちは、満足だった。もうさびついてしまったと思っていた力を出し切り、街を守ったのだから。
『異形の白昼』  ケイブン社 ¥724 
  はじまりは一丁の拳銃からはじまった。「夫を殺してほしい・・・」と愛人に預けたコルトガバメント。しかしその銃はコインロッカーから消えてしまう。ひょんなことから別の人間が銃を手にし、殺意を抱く人物を殺そうと考えるが、結局断念、また人知れずコインロッカーにもどす。「これさえあれば、あいつを消せる!」それからロッカーに戻すまでの気持ちの葛藤がおもしろい。また、銃が手をはなれてしばらくすると、その人間は不幸に見舞われてしまう。老婆や主婦、サラリーマンに学生を転々と拳銃がまわっていく。ストーリーのパターンは決まっている。それぞれの立場で憎む人物がいて銃が手元にあるがために殺意が生まれ、葛藤がはじまるが、最終的にはあんなに殺したかったのによく考えてみればそんな悪い人間ではないのでは・・・・と思ったときにはもう、不幸は自分の上。人の心の裏表が描かれている作品。
少年が主人公(中学生くらい)の作品が多数あります。また、現代の風潮、流行に敏感で、文章の中に引き込まれていく魅力があります。そうかと思えば、江戸を舞台にした歴史物や下町の人情物など、幅広いジャンルで楽しませてくれます。超能力を持った主人公が活躍する、SFやファンタジー的な作品もあります。
短編・長編とそれぞれに味があり、読み応えのある作品ぞろいです。
東京・深川育ち。法律事務所勤務を経て、「我らが隣人の犯罪」でデビューする。「理由」にて第120回直木賞を受賞。
代表作 「スナーク狩り」 「レベル7」 「ステップファザーステップ」 「RPG」 他。

宮部 みゆき(みやべ みゆき)
『RPG』 集英社 ¥476
 チャットで知り合った4人。ネット上での擬似家族が生まれた・・・・。それぞれに今の本当の生活に不満を感じる4人が、パソコンの中で理想の家族を演じている。そんな中突然、「お父さん」が刺殺されてしまう。犯人はだれか!?それぞれにお互いを疑いあう「お母さん」「娘」「息子」・・・・。でも、結局はネット家族は幻でしかなかった。犯人は「お父さん」の一番身近な人間。本当の親子なのに、本当になれなかったゆえ、悲しい結末を迎えてしまう。
『ステップファザー・ステップ』 講談社 ¥563   
 新興住宅地のとある1件に落ちてきたのは泥棒だった・・・・。その家に住む双子の中学生に出会い、なぜか二人の「お父さん」にされてしまった泥棒。不覚にも落ちた拍子に気を失ってしまい、双子に介抱されたのが運のつき。
 彼らの両親は、お互いそれぞれ相手をみつけて駆け落ちをしてしまい、双子は家に取り残されてしまっていたのだ。始末が悪いことに、お互いそれぞれが家に残って双子と暮らしていると誤解していて、生活費だけが銀行に振り込まれるってわけ。そんなところに落ちてきちゃった泥棒は、都合よくお父さんにされ、保護者にされてしまう。
「なぜプロの泥棒がお父さんにされて、親子面談に行かなくちゃならんのか!それに、お父さんと呼ばれる年じゃない!」の疑問をかかえながらも、いつしか双子のペースにはまっていくお父さん・・・・。3人の不思議な共同生活に、様々な事件が絡み合って、楽しい?!ストーリーが展開していく。
和久作品に出会って、12・3年が過ぎたでしょうか。それくらい数多くの作品を読みましたが、飽きることはありません。法廷小説の第一人者と言われるだけあり、裁判を扱ったものがほとんど。検察側、弁護側、判事側それぞれに味のあるキャラクターがいて、楽しませてくれます。おかげでマニアックな裁判通になってしまったことでもあります。普通あまり判例がないようなものじゃないと、小説にはなりませんから。また、カメラの腕前はセミプロ級。写真集もだしています。文庫本の中には、本人が撮影した小説の舞台となる土地の風景写真が掲載されていることも、多いです。
大阪生まれ。京都大学・法学部を卒業後、新聞記者を経て、司法試験に合格する。その後、京都で法律事務所を設立する。「仮面法廷」にて第18回江戸川乱歩賞を受賞。法廷小説の第一人者として現在に至る。
代表作 「赤かぶ検事」シリーズ 「弁護士芸者」シリーズ 「けん玉判事」シリーズ 『弁護士 猪狩文助」シリーズ 他

和久 峻三(わく しゅんぞう)