上福岡市教育委員会 1983年3月31日
「上福岡市在日韓国・朝鮮人児童・生徒にかかわる教育指針について」
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はじめに 上福岡市においては、従来から人権尊重の精神を強調し、あらゆる差別をなくす教育の推進に努めてきました。それにもかかわらず、1979年9月9日に林賢一君の尊い生命が失われるという誠に悲しいできごとが起こった。 この出来事の背景には、いじめの理由の中に林賢一君が朝鮮人であったために差別を受けたという事実があった。 本方針は、在日朝鮮人子弟林賢一君の自殺事故を、教育関係者としても深く反省し、二度と事故を繰り返さないようにするために作成するものである。 この事故は、中学1年生の同級生によるいじめ・暴力を直接の原因として発生し、そのいじめ・暴力の動機や言動の中に林賢一君が朝鮮人であったことに対する民族的な差別をも含んでいたことと、小学校から事故にいたるまで、林賢一君にたいする残酷ないじめや暴力が続発しており、この間、自殺未遂を含めて何度も指導の契機があったにもかかわらず学校はこれをとらえて生かすことができなかったという指導上の弱点を持っていたことが明らかになった。したがって、本指針では、その作成の趣旨からしても、学校教育を荒廃させている暴力行為を最大限の努力を払って克服する課題と、在日韓国・朝鮮人に対する民族的な差別をなくす課題の双方を同時に統一的に実践していくことを重視するものである。 この事故は、暴力や差別をなくす教育が徹底していなかっということのあらわれである。林賢一君及び日本人生徒に対して十分な理解・指導・援助の手をさしのべることができなかったことは、教育関係者としてこの上なく残念であり、深く反省するものである。 わが国においては、今なお民族的偏見や差別が根強く存在しているのが現状です。これらのことを踏まえて、広い視野から韓国・朝鮮の伝統・文化を学び、在日韓国・朝鮮人児童・生徒と日本人児童・生徒がお互いに理解しあい、心豊な人間関係を育てることが大切です。 今後、再び同じような悲しいできごとを繰り返さないよう決意をあらたにし、ここに「上福岡市在日韓国・朝鮮人児童・生徒にかかわる教育指針」を作成するものである。 ちなみに本市の小中学校に在籍する外国籍児童・生徒は14名であり、そのうち韓国・朝鮮籍のものは10名である。(1982年4月1日現在) 1 日本と韓国・朝鮮の歴史的かかわり (省略) 2 上福岡市立小中学校に在籍する外国人(主として在日韓国・朝鮮人)児童・生徒の指導について (1)基本とする姿勢 在日韓国・朝鮮人児童・生徒の教育をすすめるにあたって、教師は児童・生徒の生活実態を把握し、差別を見ぬく目を身につけ、差別を許さない姿勢を持たなければならない。そのためには、教師自らが厳しく自己を磨き、現実社会にある民族差別の実態や原因を科学的に学びとらなければならない。 (2)個人尊重の徹底 在日韓国・朝鮮人児童・生徒が在籍する学校では、個人尊重の立場に立って、当該児童・生徒が小数なるが故に疎外されたり、民族差別の対象になることがないよう配慮しなければならない。 (3)本名を呼び名のるための取り組み 氏名は個人を象徴するもので、人種や国籍の別とは関係なく本名を使うことが当然である。このことは、民族の自覚と誇りをもって生きるようになるステップでもある。 しかし氏名は、基本的人権にかかわることであり、また歴史的経過があって、在日韓国・朝鮮人の多くが「通名」を使用している実態がある。したがって、本名を呼び名のることは幾多の困難が予想されますが、教師は本名尊重を基本認識し、家庭教育を含め、機会をとらえ、環境づくりに取り組まなければならない。従って、偏見や差別が解消されていない現実をふまえながら、保護者、本人の理解のもとに本名が使用できるように努める。また家庭との連携を密にして相互理解を深めながら指導に努める。 (4)留意することがら ア 在日韓国・朝鮮人児童・生徒として自己確認をし、差別に負けない人間としての主体性を確立させるとともに、日本人児童・生徒の国際理解を深めるよう努める。 イ 在日韓国・朝鮮児童・生徒がかかえる諸問題を自ら解決できる力を身につけられるよう指導に努める。 ウ 民族的偏見や差別が今なお存在する実態やその原因を科学的に把握して指導し、偏見や差別問題の解消が図れるよう努める。 エ 各教科、道徳、特別活動など全ての教育活動の中で、同和教育、生徒指導、障害児教育、学年学級経営などが有機的に関連し合い、一貫性のある計画のもとに指導がなされるよう努める。 オ 在日韓国・朝鮮人児童・生徒の理解を深めるために、家庭訪問や個別指導を特に重視するよう努める。 (5)進路指導 ア 在日韓国・朝鮮人児童・生徒の進学・就職に関する指導・援助に努めるとともに、進学・就職に関する差別を排除するため、学校、企業等への啓発に努める。 イ 在日韓国・朝鮮人児童・生徒が自ら進路を選択し、差別解消に向かって主体的に生きぬいていく力を培うよう努める。 ウ 在日韓国・朝鮮人児童・生徒が社会生活の中で生きがいをもって生活できる基礎となる学力を身につけるよう努める。 (6)教職員の研修 ア 教職員の国際理解を深めるために、人権の尊重、民族理解等にかかわる多面的な研修を行う。特に在日韓国・朝鮮人が在日しなければならない経緯やその実態等を理解するために教育研究の自由を保障しつつ研修会等を推進する。 イ 指導に必要な資料の収集に努め、教材の作成を進める。 おわりに 林賢一君の事故を教訓として、この指針を作成した。この事故の要因には陰惨ないじめがあったが、今日、暴力問題への対応は緊急課題である。暴力には、@生徒間の暴力、A生徒による学校、教師への暴力、B教師の「体罰」がある。暴力の肯定、存在が弱い者いじめを発生させる。なかでも教師の「体罰」は暴力を肯定し、生徒による暴力を否定できない大きな弱点となる。本市教育委員会では、新たに「体罰」の禁止の通達を出したところである。「愛のむち」と称して正当化せず、説得的指導を徹底しなければならない。そのための観点と方法を全教職員が教職員会議、学年会議などで検討し、教訓を引き出し、力量を高めていくことが大切である。児童・生徒の学校疎外の現状を深くとらえ、わかる授業や生きいきとした学校生活の創造に力を注がなくてはならない。テレビや「まんが」を通して暴力や死を賛美する考え方があるが、これを否定し、人間の生命の尊厳、基本的人権を尊重することを指導しなければならない。 市内教職員がこの指針をふまえて、教育現場における偏見や差別の解消と暴力の一掃を目ざし、一層の研究、自薦を積み上げられることを切望する。 本市教育委員会としては、この指針をふまえ、「委員会」を設置し、一層の内容の充実を図ってまいります。 なおこの指針作成にあっては、県教育局指導課、人間教育指導課の緒先生方および朝鮮奨学会理事・李殷直先生、桜本保育園長・李仁夏先生の御助言に感謝いたします。 |
1 資料 教育行政資料(例規編)昭和54年改訂埼玉教育局編
在日韓国・朝鮮人児童・生徒の受け入れについては、文部次官通達(昭和40年12月28日)及び埼玉県教育委員会教育長の通達(昭和41年1月28日)により、日本国の公立小中学校へ入学することを希望する場合には、その入学が認められる。
ア 入学手続きの取り扱いについて
永住を許可された者の保護者が永住許可された者の公立小中学校への入学を希望する場合は、市教育委員会あて入学の申請をする。
教育委員会は申請に基づき入学すべき学校を指定する。(入学すべき学校を指定する場合は、日本人子弟と同様に扱う)
イ 在日韓国・朝鮮人児童・生徒の指導要録の取り扱いについて、(東京都教育委員会「教育指導について」昭和56.3.23)
児童・生徒の氏名について
外国人登録簿の記載に基づいて作成する。
氏名は「本名」を記載し、ふりがなは母国語の発音で記入する。
通名があるときは、( )で併記しておく。
事前に保護者とよく話し合い、誤解のないよう慎重に配慮する。
(イ)編入学について
外国にある学校等から編入学した場合は、その年月日、学年及び事由等を「入学編入学等」の欄に記入する。
ウ 在日韓国・朝鮮児童・生徒の出席簿及び卒業証書の氏名の記載について
(ア)氏名は個人を象徴するもので、人種や国籍の別とは関係なく本名を使うことが当然である。しかし、在日韓国・朝鮮人児童・生徒の場合には日本と朝鮮の歴的経緯があり、偏見や差別がいまだに解消されていない現実がある。記載にあたっては、日常における「本名」「通名」について、保護者・本人との共通理解を十分尊重し、形式的、一方的扱いにならないように特に配慮する。
(イ)卒業証書の氏名は指導要録から卒業証書授与台帳を作成し、それに基づいて卒業証書を作成するから「本名」を記載することになっている。ただし、呼び方については在学中、長期にわたって「通名」を使い学友たちも「本名」を知らないまま過ごしているような場合、卒業式において「本名」を呼ぶことによって本人や保護者を傷つけたり、学友達に不当な偏見を抱かせたりする恐れがあることも考えられるので、卒業式前に保護者や本人とよく協議して決める必要がある。