2003.6.19
「いい本に,出会おう!」

   
              司馬遼太郎の書斎

 私は小学4年生以来の歴史愛好家だが,そんな私が今まで司馬遼太郎に出会う機会がなかったのはなぜだろう。とにかく今年に入るまで,司馬さんの本は1冊も読んだことがなかった。今まで歴史小説といえば,吉川英治や池波正太郎を愛読してきた。この両氏の小説は確かに面白い。とくに私は池波正太郎の『真田太平記』が大好きで(もともとは同名のNHKドラマのファンだった),高校生のとき,大判で全18巻あるものを小遣いを叩いて買った。主人公は真田幸村と思いきや,実は兄の信之の方である。テーマは「生きる」の一言に尽きる。家康の首をひたすら狙い続けた弟・幸村と,父弟亡き後の真田家を守った兄・信之。それぞれの生き方に,私は感動した。

 話がそれた。司馬遼太郎,はっきり言って読まず嫌いであった。何となく敷居が高かったし,小難しい気もした。でも何を思ったか,今年になって突如,司馬さんの本に挑戦してみた。名作『坂の上の雲』である。時代は明治。日本はイギリス・フランス・ドイツ等の列強に追いつかんと,近代化に必死であった。そして日清・日露戦争を戦うことになるが,その過程を描いたのが『坂の上の雲』である。全8巻の長編だが,内容は小説というよりほとんどノンフィクションに近い。面白かった。面白かったが,読んでいるだけで,こちらまでくたくたになってくるような壮絶さであった。

 『坂の上の雲』ですっかり司馬ファンになった私は,続いて『峠』という作品を読んだ。保護者の方が「素晴らしいですよ」と紹介して下さったのだ。時代は幕末。越後長岡藩家老・河井継之助の壮烈な生涯を描いた作品である。これまた抜群に面白かった。継之助のことを司馬さんは「日本最後の武士」「もし,西軍(新政府)側の人物であったら,今頃お札になっていたであろう人物」と評した。陽明学を学んだ人で〜陽明学は当時,幕府から異端とされた学問で,一言でいえば有言実行の思想である。つまり思ったことは行動に移さなければならないという,場合によっては過激な考え方である〜よって自らの信念を貫き,新政府軍(薩長軍)と戦った。他藩に倣って早々に降伏し,城を明け渡してしまえば,長岡の町は火の海とならずにすんだだろう。しかし継之助はそうしなかった。討幕運動には参加せず,かといって幕府のために戦うわけでもなく,あくまで中立を目指し,最後まで戦った。そして,敗れた。継之助は,戦死した。継之助に対する評価は真っ二つに分かれるだろう。しかしどちらにせよ,その生き方〜いかなる批判があろうとも,最後まで自らの信念を貫き通す〜には多くの人が心惹かれるだろう。

 それにしても遅まきながらよい作家に出会ったものだ。今も早速『花神』という司馬作品を読み始めたところだ。今度の主人公は大村益次郎。またしばらく司馬ワールドで楽しむことができそうだ。ついでながら,私はどうも影響されやすい質のようで,本で読んだ場所にはどうしても行ってみたくなってしまう。案の定,『峠』を読んだら,長岡に行きたくなった。きっと行くだろうな。。。

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