9/1に横浜の県民センターで開催された「丹

沢のシカの保護管理に向けて」と題する講演会を聴講しました。その内

容についてレポートしたいと思います。

 

副題:丹沢大山保全対策事業説明会

主催:神奈川県自然環境保全センター

説明会の趣旨:丹沢大山における保全計画の推進方針について説明し、

県民の理解とコンセンサスを得る。

 

以下に基調講演および自然環境保全センターの研究員による講演の

要旨をまとめました。

 

1.基調講演:「野生動物の保護管理とは何か」・・・日本獣医畜産大

                          羽山 伸一先生

 ・最近、尾瀬の湿原にもシカが入って、ミズバショウなどの野草が

食べられ、絶滅の危機に瀕している。

 ・平地の大型哺乳類であるシカがなぜ標高の高い尾瀬や丹沢山系に登

  ったのか?江戸期までは平野で普通に暮らしていたシカは、明治期に

  入って乱獲され、平地から追い払われ始めた。その後、工業発展につれ

  て都市化が進み、ほとんどの平地は人間に独占され、シカは森林に逃

  げ込んでいった。第2次世界大戦後の高度経済成長期に大規模な天然

  林の皆伐を行い、スギやヒノキを植林する「拡大造林政策」が行われた。

  シカは生後1年で出産可能で、集団を形成する動物である。大面積の皆

  伐は一時的にササなどの下草が生え、牧草地と化したためシカは爆発

  的に増える結果となってしまった。ところが、スギ、ヒノキが成長するにつ

  れ下草は消え、餌が無くなってしまったため、シカはますます山に登って

しまった。

 ・野生動物問題の解決には従来の保護区設置や受益者負担での対症的

  対策ではなく、科学的計画的管理を基本とし、公共事業として、実行、フィ

  ードバックをサイクルに組み込んだ対策が必要である。長期的モニタリン

  グ、県民理解と積極的参加そして公共の思い切った財政を投入すべきで

ある。

2.「丹沢のシカをめぐる現状と課題」

 ・シカによる林床植生の劣化、樹皮食いの多発している。

 ・シカ個体群自身も貧栄養化により個体数が変動している。

3.「総合的なシカ保護管理に向けての提案」

 ・生物の多様性の保全、シカ個体群の保全、農林業被害防除のため保護

管理が必要である。

 ・平成12年に「神奈川県ニホンジカ保護管理指針」を作成した。

  H13年度の取組みを踏まえ、H14年度に「ニホンジカ保護管理計画の

策定を予定している。

 ・具体的には標高800m以上では自然植生の保護。標高800以下ではシ

  カの環境収容力の保障、すなわち森林整備による餌場の確保。そして防

鹿柵による農林被害対策を提案する。

4.「植生保護柵の設置と効果」

 ・H9〜12年度まで約12haの保護柵を設置(700万円/年)した。

 ・調査の結果、柵内の植生は高密度で明らかに有効である。

 ・今後、特別保護区1,867haの内、2006年までに175haを設置目標としてい

る。

5.「野生動物と共存する森林作りへの取組み」

 ・今後、野生動物の生息地整備、混交林・広葉樹林づくり、丸太積み工に

 よる土壌流出の防止、林床植生の回復を重点的に行う。

 

 講演後の感想 

 野生動物、特にシカの問題は深刻化しています。山からシカを下ろさせる

ゾーンニングや「緑の回廊」と呼ばれるエリア管理施策を行うためには、まず

個体数群の正確な把握、そして適正個体数の研究調査が重要であると感じ

ました。そのための財政投入、活発な情報公開、市民への理解そして参加

が必要です。エコ・ツーリズムなどを含めた自然環境事業の創出などによる

財政確保、駆除の際の補助金投入など早急な対策が望まれます。

戦闘機1機の100分の1でも良いから予算化すれば迅速な対策が取れ

るのにと考えるのは私の思い違いでしょうか?

NHK TVの特集で尾瀬のシカ問題が取り上げられてから、この問題にすご

く関心を持つようになりました。私達、森林インストラクターとしても今後なん

らかの活動に関われたらと思います。皆さんのご意見を聞かせてください。

 

追1.先日、白神山地のブナ林を見学してきました。ブナの稚樹が競争する

ように育っていました。白神にはブナの天敵ともいえるシカがいないそ

うです。

追2.7月に行ったイギリスの森に住むシカは13世紀にハンティングと食料

のためヨーロッパ大陸から導入されたものでした。1,800haに600頭

が適正個体数として、越える分はハンターによって駆除され、食料とし

て輸出されているとのことです。

追3.羽山先生著の「野生動物問題」と言う本はとても判りやすい解説書で、

お薦めです。

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