<1>
――何故、こんなことになってしまったのだろう?
海鳴駅の正面出口で、所在なく立ちすくんで。
恭也は、ひりひりと痛む頬を無意識に撫でながら、悩んでいた。
――今日、偶然ここで忍と会って、驚いた。
驚いたのは、偶然に会った事ではなく……忍が何故か興奮していた事だ。
何か起こったのかと、一瞬緊張したが、それは杞憂だった。
その事では安堵したものの、忍はどんどん怒りを加速させていく。
なんとかなだめようと、巧くもない舌をなんとか酷使していたが……徒労だった。
『バカッ!!』
平手を振り切った時の、忍の顔が脳裏に浮かんだ。
(泣いていた、よな……)
彼女には、もうそんな顔をさせないと。
誓ったはずの自分が、彼女を悲しませてしまった。
その心の痛みに比べたら、頬の痛みなど、論ずるに値などしなかった。
傷心を抱えて、恭也はもう一度、心中で呟いた。
――何故、こんなことになってしまったのだろう?
――どうして、あんなことしちゃったんだろう?
痛む手をさすりながら、忍は落ち込んでいた。
――ふと立ち寄った、海鳴駅前のロータリーで、偶然恭也の姿を見つけた。
喜び勇んで彼の元に駆け寄ろうとして――彼の隣にいる彼女に気づいた。
私もよく知っている、妙に世間ずれしていない、お嬢様の彼女。
そして、恭也が彼女に、彼をよく知らない人が見たら、気付かないほど僅かな――だけど、私の大好きな微笑を見せたとき。
私のなかで、なにかが燃え上がった。
気が付いたら、恭也に詰め寄っている自分がいて。
少し驚いているけど、ほとんどいつも通りな恭也に何故か腹が立って。
そして……彼の『あの言葉』を聞いた瞬間。
私のなかで燃え上がったなにかが、身体の外に吹き出した。
『バカッ!!』
振り切った平手の向こうで、呆然とした恭也がいた。
いたたまれなくなって、そのまま駆け去ってしまった。
自分の感情を、持て余したまま。
道端の電柱に背中を預けて、忍はもう一度、心中で呟いた。
――どうして、あんなことしちゃったんだろう?
「お帰り恭ちゃん……ってどうしたの!?」
家に帰って来た恭也を出迎えた美由希は、――彼とつきあいの長いものでないと分からないが――いつになく落胆した恭也をみて驚いた。
さらに、片側の頬が赤くなっているのを見つけて、もう一度驚いた。
「…………大事ない。気にするな」
そう言われて、はいそうですか、と納得するほど、美由希は幼くも甘くもなかった。
「忍さんと、喧嘩したの?」
その言葉で、恭也に走った僅かな動揺を、美由希は見逃さなかった。
「……そうなんだね?」
「…………違う」
嘘はついていない。だが、美由希はその言葉で、さらに核心を突いてきた。
「だったら――忍さんを怒らせたんだ。……しかも本気で」
恭也は呆然と、美由希を見下ろした。
美由希の瞳を見ているうち――あの時の、無力感が蘇ってきた。
そして、その無力感は、まだ子供だと思っていた美由希に見破られた、という動揺から、さらに理不尽な怒りへと化学反応を起こした。
「だとしたら……どうだというんだ?」
美由希は答えない。その態度が、恭也の無力感をさらに煽る。そして、次の言葉の弾丸を、舌の上に乗せて、吐きだした。
「お前には、関係な――」
吐きだした弾丸は、完全に形になる前に霧散した。
美由希の、無言の平手打ちによって。
「……関係、ない……?」
今度こそはっきりと、呆然とした恭也から怒りを引き取ったかのように、美由希は怒りを迸らせた。
「関係ないなんて!そんな事、絶対無い!!」
「……どういう、事だ……?」
やっとのことで言葉を絞り出した恭也を、美由希はきっ、と睨み付けた。
「恭ちゃんはさ。いっつも変なとこに気が利く癖に、肝心な所で鈍感だから、はっきり言うけど――わたしも、恭ちゃんの事、好きだったんだよ!?」
立て続けに衝撃を受けて、内心狼狽する恭也に、美由希はさらに追撃をかけた。
「わたしだけじゃないんだから。フィアッセも、那美さんも、晶もレンも。みんな恭ちゃんの事、好きだったんだから……」
動揺から立ち直れない恭也をみて、美由希は初めて、ほんの少し、微笑した。
「安心して。『だった』って言ったでしょ?今は、みんな恭ちゃんと忍さんの事、応援してるんだから。……だから」
先刻の怒りをさらに倍加させて、美由希は叫んだ。
「だから!こんな事でお終いになっちゃうなんて、そんなの絶対!絶対認めないんだから!!」
正直、忍と恭也が喧嘩したと察知した時、美由希の脳裏に『忍と別れた恭也が、自分と付き合う』という図を考えないではなかった。
しかし、そんな構図は考えただけでもおぞましかった。
そんな事を考えた自分に嫌悪を感じたからではない。そんな一面も確かに持っていると、既に美由希は自覚している。
『失恋』というハードルは、確かに美由希を少し大人にしていた。ある意味、恭也や忍よりも。
耐え難かったのは――もう恭也以外頼る者のない忍と、眠りについたノエルをおいて、自分の隣にいる恭也の姿だった。
(信じてるんだから)
美由希は、心中で密かに呟く。
(例え、わたしのそばにいなくても。恭ちゃんは、ずっと恭ちゃんのままだって。絶対、自分の誓いを破らないって――信じてるんだから)
「とりあえず……そんな所でぼーっと立ってないで、上がりなよ」
美由希に促されて、恭也は渋々、敷居を跨いだ。
「ただいまー……ってあれ、どうしたの息子?」
迂闊にもバニラエッセンスを切らせてしまい、慌てて家に取りに帰った『翠屋』店長・桃子は、悄然とソファに埋もれる恭也と、身を乗り出して説教する美由希の姿を見いだした。
(いつもと逆の構図よね)
頭の隅でちらりとそんな事を考えつつ、「どうしたの?」と主導権を握っているらしい美由希に尋ねてみた。
「恭ちゃんが忍さんと喧嘩したんだって」
「……ちが――」
「いいの!恭ちゃんは黙ってて!」
バン!と掌をテーブルに叩き付けて恭也の口を封じた美由希は、恭也から無理矢理引きずり出した情報を余すことなく的確に、桃子に伝えた。
「そう……」
概ねの状況を理解した桃子は、少し悩んだ。
実のところ、彼女は士郎がだれか別の女性といても、やきもちを焼いたという経験がない。それだけ士郎が成熟した大人であったという事も一因であろうが、彼女の気性に寄る所も大であろう。
正直、年かさだけで納得させる万全の自身は、桃子にはなかった。
そう。分かってみればなんの事もない、ただの『やきもち』。それが事の発端だった。
しかし、発端が単純だからといって、解決が簡単だというわけではない。
いや、事を収めるだけなら大したことはない。だが、根本を理解せずに表面だけ収めた所で意味がない。火種はくすぶり、また発火するだけの事である。
しばし悩んだ桃子は、やがて何人かの知り合いに思い至った。
「うちの昔の常連さんにね、風芽丘の近くで定食屋さんやってる方がいるのよ」
訝しる二人に構わず、桃子は続けた。
「そこのご夫婦なら、今の恭也にいいアドバイスをくれるんじゃないかなーって、ね?」
その言葉を聞いた途端、恭也の目に生気が戻る。
「……どこ?」
一挙動で立ち上がり、今にも駆け出さんとする恭也を、桃子はなだめた。
「まーちょっと落ち着きなさいな。いきなり押し掛けたら先方に御迷惑でしょ?」
「…………」
不承不承ながら、再びソファに身体を落ち着かせる恭也をみて、桃子は電話を掛けた。
しばし受話器を片手に話をしていた桃子が、不意に恭也の方を見た。
恭也は素早く、母の顔を見返した。
「明日にでもいらっしゃいって言ってくださったけど、恭也、大丈夫?」
「明日じゃ駄目だ」
きっぱりと言い切る恭也に驚いて、桃子は問い返した。
「どうしたの?なんでそんなに急ぐの?」
「……今日は、9月21日だから」
その日付の意味する所を、桃子は脳裏から引っ張り出して理解した。
「わかった。お伺いしてみるわ」
「……お願い」
数分後、家を飛び出していった恭也の背中を見ながら、桃子は感慨深く呟いた。
「時間は、誰でも限られてるものだから……せっかくお互いを想い合っている二人なんだもの」
「『離れたり、すれ違ったりしていたら勿体ない』、でしょ、かーさん」
美由希に台詞を奪われ、苦笑いを浮かべた後、桃子は美由希の頭を撫でた。
「美由希も、早くいい人、みつけなさいね」
「……努力してみます……」
「こんな所に、定食屋が出来ていたのか……」
風芽丘の正門前の、コンビニや食堂などが立ち並ぶ一画からやや外れた所に、『御食事処 はるかぜ』という屋号の、一件の定食屋ができていた。
建物はそう古くはないが、その位置といい、雰囲気といい、なんとはなしに『通』を思わせる店構えである。……有り体にいうと、渋い。
少しもの珍しげに店を眺めていた恭也だが、意を決して引き戸を開けた。
「いらっしゃい!」
恭也が店に入ると、カウンターの向こうにいる、若い女性らしき人の明るい声に出迎えられた。
「お冷やとお茶、どっちにする?」
少し低めの涼やかな声を、恭也は遮って尋ね返した。
「いえ、俺は食事に来たのではなくて……ここのご主人にお話をお伺いに来たんですが……」
ああ、と彼女は肯いて、
「じゃ、君が『翠屋』の店長さんの息子さんだね?」
その確認に恭也が首肯すると、彼女は名乗った。
「俺がこの『はるかぜ』の主人、相川真一郎です、よろしく」
「あぁ……高町、恭也……です」
恭也の顔をみて、彼女――もとい、彼は苦笑いを浮かべた。
「あぁ、やっぱり女の子と間違えた?」
「あぁその……申し訳有りません」
恭也の謝罪に、真一郎は笑ってひらひらと手を振った。
「いや、馴れてるからいいよ。もう少ししたら妻も帰ってくるから、それまでこれでも摘まんでて」
そういって真一郎が出したのは、一見何の変哲もない、鯖の味噌煮込みだった。
とりあえず一口食べてみた恭也は、
「……旨い」
晶はおろか、ひょっとしたら桃子の味噌煮より旨いかもしれなかった。素直な賛辞に、真一郎は顔を綻ばせる。
「ありがとう。そう言ってもらえるのが一番嬉しいよ」
その後、夕飯時の仕込みをしている真一郎と世間話をしていると、やがて入り口の戸が開けられた。
「ただいま、真一郎!」
「お帰り、瞳ちゃん」
玄関には、ロングストレートの髪の、綺麗な女性がいた。
「その子が、さっき電話で言ってた子?」
「そ、『翠屋』の息子さん。恭也君、この人が俺のお嫁さんの、瞳ちゃん。」
「相川瞳、です。よろしくね」
「高町恭也です」
一通りの自己紹介がすむと、真一郎が口火を切った。
「それじゃ、恭也君は時間がないみたいだし、始めよっか。……ガラじゃないけどね、カウンセリングなんて」
真一郎が肩をすくめると、瞳が口を尖らせた。
「私だってそうよ」
「でも、瞳ちゃんはプロフェッショナルじゃない、『やきもち』に関し――あ痛」
真一郎が最後まで言い終える前に、瞳が小突く。
「余計な事いわないの!」
「へーい」
本来なら微笑ましく見ているだろう光景だが、今の恭也にはその余裕がなかった。ある一言がひっかかったのだ。
「あの……『やきもち』って……どういうことでしょう?」
恭也の言葉に目を丸くした二人は、同時に顔を見合わせた。
「なるほど……」
「これじゃ、こじれるわけよね……」
二人の反応に、恭也は戸惑う。
「あの……?」
遠慮がちに恭也が口を挟むと、瞳はそちらを振り向いた。
「いいわ。まずは話を聞かせてもらいましょう。最初から、隠さずに話してね」
その言葉に含まれた迫力に、今の恭也は抗う事は出来なかった。
「――そう。それで、恭也君はなんて言ったの?」
余計な感想は差し挟まず、起こった事だけを正確に、恭也は順序立てて説明していった。
そして、『あの時』の直前まで話し終えた所だった。
「正確には覚えていませんが――確か」
本気で尋ねた訳ではなかった。つい口から出た言葉だったので、それ故に正確には覚えてはいなかった。
「確か、『俺はそんなに信用無いのか?』……と」
その瞬間、瞳の目が、すうっと細くなった。真一郎の方は、『ありゃ』という顔で恭也を見ていた。
「……恭也君。その時、貴方は誰と一緒にいたんだっけ?」
瞳の質問に、恭也は怪訝な思いで答えた。
「忍の友達の、森さんですが……?」
「女の子よね?」
「はい」
瞳は、その目を細めたまま、口を微笑の形に吊り上げた。
その異様な迫力に、恭也は心理的に一歩後ずさる。
「他の女の子と一緒にいる所を、現行犯で見つかって。
さらにその理由も話さずに『信用しろ』、というのは、いくら何でも虫が良すぎるんじゃないかしら……?」
恭也は絶句した。
「恭也君はどうか分からないけどね……」
瞳は言葉を続ける。
「きっと、その子は自信がないのよ――自分にね」
今日はよく驚く日だ――恭也は脳裏の片隅で、そんな事を考えた。尤も最大の驚きは、何度驚いても、その驚愕がそのつど新鮮であるという事実だった。
「どれだけ一緒にいても、どんなに身体を重ねても――不安になる時はあるわ。私もそうだったから、よく分かるの。
自分が知らない彼を、知ってる女の子がいて……その子も、彼の事が好きだったとしたら――どうしても、劣等感を抱いてしまう。
そんな状態で、自分と別の女の子と一緒にいる所を見たりしたら……劣等感が形を変えて、外に出てきてしまう」
瞳はため息をついた。
「理不尽だって頭では分かっていても、どうしようもないのよ。だって、理屈じゃないんだもの。知性とか理性とか、そんなのとは関係なしに、火は燃え上がってしまう……」
それまで黙っていた真一郎が、不意に口を開いた。
「自分に自信が持てないのは――相手が自分のどこを好きになってくれたのか、分からないからかもしれないね。
自分が相手のどこが好きなのか、考えたらいくらでも出てくるけれど……相手が自分のどこを好きになったのか分からないと、不安になってくるんだと思うよ」
不意に、いたずらっぽく瞳を輝かせて、真一郎は瞳を見やった。
「高校の時に喧嘩した時も、瞳ちゃんと話してた遊をみて、俺の劣等感を刺激された所為だしね」
「あれは――」
一瞬声を高めた瞳だったが、しゅんとなって肩を落とした。
「悪かったわ。確かに考え無しだった、いろいろとね」
そんな瞳の頭を、ぽんぽんと叩いて真一郎は慰めた。
「しょうがないって。俺も考え無しに怒ってたんだから」
真一郎は手を瞳の頭に乗せたまま、恭也に向き直った。
「瞳ちゃんは確かに、俺にわがまま言ったり、甘えたりしたりして困らせてくれるけどね――」
瞳の不本意そうな顔と視線をあえて無視して、真一郎は言葉を続ける。
「逆に、そういう所みせてくれるのは、俺の事を信頼してくれてるからだと思うから。だから本当に嫌だと思った事もない。
『心の持ち方一つで、人は幸福にも不幸にもなれる』っていうけど、或いはこれもその一つかもしれないけどね。だけど、だからといって誰に迷惑かけるわけでもない。
もし、さっきの言葉を馬鹿にする人たちが、今の俺の考えを間違ってるって『教えてくれた』としても……俺と瞳ちゃんだけの事なんだから、放っておいてくれって言うつもりだよ、俺は。
まぁ、全面的に支持するわけでもないけどね。精神論だけで、人は幸せにはならないんだから」
ちょっと関係なかったかな。と、ぼやくと、真一郎は先を続けた。
「『信じろ』って言うのは簡単だけどね。『信じる』っていうのは、そんなに簡単な事じゃない。
月並みな表現だけど、相手に信じてもらうためには、自分が相手を信じる努力と、相手に『信じてもらう』努力をしないといけないんじゃないかな。
――例えば、さっきの恭也君の場合だと、最低でも、なんでその友達と一緒にいたのか、くらいは話すべきだったんじゃないかな?多分、最初そう聞かれて、口ごもったんじゃない?」
「…………はい」
図星だった。
「いや、しかし……そこで言ってしまうと、プレゼントの意味が……」
そう、9月21日とは即ち、忍の誕生日。
そして、プレゼントなどその手のセンスがない、と流石に自覚している恭也が、必死で悩んだ挙げ句――家族に頼めば、からかいの対象になる事、間違い無しのものを探していたので――頼りにしたのが、忍の友達、という次第であった。
「そうかな?本当にないと思う?」
真一郎は毛ほども動揺していなかった。
「自分の誕生日くらい、普通自覚しているよね?だとしたら、恭也君がプレゼントをくれる事は期待しているんじゃないかな?その期待に答えている事を告げるくらいは、問題ないと思うな。
要は肝心のプレゼントがどういうものかだけ、内緒にすればいいんだから」
「…………」
そんな事は、考えつきもしなかった。そう指摘されてみると、自分の思慮と行動が幼稚に見えてきて、恭也は赤面した。
そんな恭也を見て、真一郎は慰めるように言った。
「まあ男としては、恭也君の行動もよく分かるんだけどね。でもそれだけじゃやっぱり上手くいかない事もあるんだよ。
もう済んだ事は、取り消す事は出来ないけれど――挽回する事は出来るさ」
どうすればいいですか、とは恭也は聞かなかった。
聞いても教えてはくれないだろうし、自分でこのくらいは考えないと、意味がない。
脳裏に、在りし日の父の言葉が浮かぶ。
『自分で考えるんだぞ、恭也』
尤も、いくら考えた所で、自分が取るべき行動は一つしか思いつかなかった。
すなわち、今すぐ忍の側に行って、誠心誠意、自分の想いを彼女に伝える。
恭也は勢いよく立ち上がると、深く一礼した。
「どうも、ありがとうございました。このお礼は、近いうちに、必ず」
真一郎は手をひらひらと振った。
「そんなのいいよ。ただ、今度その子と一緒に、うちにご飯食べに来て紹介して」
「はい、必ず!」
そう言うや否や、恭也は『はるかぜ』から飛び出した。
「恭也君!」
不意に真一郎に後ろから声をかけられ、恭也は急停止して振り向いた。
真一郎は悪童めいた表情を浮かべ、
「多少の理不尽だのは、許してあげな。女の子ってのは、そういうもんだよ」
恭也は生真面目に、
「分かりました。心しておきます」
そう言って、また駆けだした。
「今の……剽窃よね」
恭也の姿が見えなくなってから、瞳がいじわるな横目で真一郎を見やった。
真一郎は――気がつかないふりをした。
|